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Saturday, January 21, 2023

ヒトは人の間で人間になる(1月22日) - 福島民報

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 生後間もない赤ちゃんのエンジェルスマイル、抱き上げている赤ちゃんが、突然「ニコッ」とほほ笑むことがある。実は、これは赤ちゃんがほほ笑んでいるのではなく、身体を揺すられたことや風を感じたりする刺激による頬の筋肉の緊張、生理的微笑だ。しかし、それを見た人が「まあ、かわいい」と大切にしてくれるようにヒトの遺伝子に組み込まれている。

 地球上には四千七百種の哺乳類がいるが、乳首を吸って休み休みお乳を飲むのはヒトの赤ちゃんだけだそうだ。休み休み飲みながら、お母さんが体を揺すってくれるのを感じたり、言葉かけしてくれるのを聞いたりしている。ヒトは、栄養摂取よりも、他者とのコミュニケーションを発達させる情報を遺伝子の中に持っていると考えられる。

 二歳児になると、例えば、いつも母親から「大丈夫」と言われていた子は、ころんだときに「大丈夫」と自分に言い聞かせるようになる。他者が自分にかけてくれた言葉を内面化して、自分を励まし、支え、自分を育てていく言葉を「内言」として使っている。それも、この他者は誰でもいいわけではなく、自分にとって大切な人、大好きな人であることが肝要だ。

 四歳児になると心の世界が広がっていく。それまで、自分と他者との区別がつかなかった子どもたちが、他の人たちの、心の推測をし始め、自分と他人を比べるようになる。よく「泣きの四歳児」と言われる所[ゆ]以[えん]はこの発達にある。

 このように子どもの発達をみていくと、他者に寄り添いながら自立していく様子がよく分かる。人は勝手に自立していくのではなく、支えられながら独り立っていく。そこから他者とのコミュニケーション能力が花開いていく。

 おしゃべりだった五歳児が六歳頃までに形成されるセルフイメージによって態度が変容してくる。セルフイメージとは、自分自身をどのようにとらえているかということで、身近にいる両親や大人の言葉や態度、表情によって大きく影響を受ける。自分に対して前向きなイメージを持っているか、否定的なイメージを持っているかで、人生の方向は大きく違ってくる。

 子どもは両親から愛されようとして、親からのメッセージに自分を合わせようとする。その結果、本当の自分を見失ってしまったり、自分で自分を傷つけたりする。私たちは他人に傷つけられた体験より、自分で自分を傷つけたことの方がはるかに多いのではないか。なぜなら、一日、あるいは人生で、私たちが最も数多く聞いているのは「自分」の言葉だからだ。

 私たち人間同士は不完全なるがゆえに互いに傷つき、それによって成長する。私たちが傷つきながらも、癒されていくのは、他者とのかかわり、他者とのコミュニケーションにおいてだ。人間関係で傷ついた私たちは、ごく自然に人間関係の中で癒されていく。傷つけられながら癒されるということを人間関係の中でくり返しながら、こころは健やかに発達していく。(西内みなみ、桜の聖母短期大学学長)

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