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Saturday, April 2, 2022

芸能リポーター・井上公造の“遺言”【後編】 神田正輝・松田聖子の会見に見た「筋の通し方」|秋田魁新報電子版 - 秋田魁新報電子版

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芸能リポーターを“勇退”した井上公造氏 (C)ORICON NewS inc.
芸能リポーターを“勇退”した井上公造氏 (C)ORICON NewS inc.

 3月末をもって、9本のレギュラー番組から降板し、36年の芸能リポーターの一線から退いた井上公造氏(65)。ORICON NEWSでは、昭和、平成、令和の芸能取材の最前線で活動してきた井上氏にインタビューし、その模様を前後編で届ける。後編では、ネットやSNSで批判にさらされる機会が増えた近年の芸能メディアについて、その変化をどう考えているのか聞いた。

【動画】井上公造が振り返る“芸能リポーター人生” インタビュー映像

■「密着と癒着は紙一重」師匠・梨元勝さんの教え

――井上さんが芸能リポーターをスタートした昭和の取材現場と今では環境はがらっと変わりました。

当時は本当にイケイケでした。個人情報保護法もない時代で、2005年までは高額納税者番付が発表されていた。税務署で台帳が見られて、住所が書いてあるので、芸能人の家を見つけるのは簡単でした。もっと前の時代は月刊誌の付録に、有名人住所録がついてましたから。

今は芸能人同士が結婚すると言っても、自宅に行ってインターホン越しや出待ちしててコメントを取ることはない。でも僕が入った時は、結婚どころか、交際報道が出ると「事実なんですか」と確認に自宅まで行きました。

――今、振り返ると無茶をしていたなということはありますか。

夜中の2時だろうが3時だろうが、インターホンを鳴らしてましたね。芸能人にマイクを向けながら追いかけてる姿は、令和の人から見ればなんなんだろうと思うかもしれません。ただ、当時はテレビでそれを見て世間の人が怒りをぶちまけることもなかった。時代によって価値観は変わります。どこまでやっていいかの線引きは自分たちで決められることでもない。

マスメディアには権力を監視すると言う役目がある以上、謙虚でいかないといけないけれども、ある一定の突っ込みはやらないといけない。芸能だからいいだろうという人もいるけれど、どのジャンルでもチェックするという機能は、マスメディアの中で常に働いてないとだめなんです。マスメディアが権力に迎合してしまうと、広報番組になってしまう。それはやっぱり怖いですよね。

師匠の梨元勝さんからは、「癒着と密着は紙一重」って言われたんですが、この紙一重がすごく難しい。そのタイトロープの上をどうやって癒着に転がらないように渡るか。時々判断を誤ることもあります。やはり情報を仕入れるには、ある程度向こう寄りの場所にいないといけない。敵対する関係だったら情報は入ってきませんから。

――芸能会見について、芸能界からも一般視聴者からも必要ないという声が今はあります。

当事者目線でないところから見た時に、どう映るか伝えることがマスメディアの役割です。その片隅にいた人間として、やっぱり記者会見にも良さはあったと思います。

例えば、嵐が休業する際にメンバー全員で会見しましたが、5人の関係であったり、VTRでは伝わらない空気感があの現場では分かる。自分の役回りが分かっていて、まるで日本の短距離のリレー選手みたいに見事に会話のバトンがつながっていく。ああ、こういう関係性のグループなんだと会見から見えてくる。

それに、僕は長いこと芸能界を見てきていますが、やっぱりいろんなハプニング、スキャンダルを乗り越えている力がある人がスターになっていると思います。

■“筋を通した”松田聖子・神田正輝の会見

――井上さんの中でそうしたことが一番うまかったと思う方は誰ですか。

松田聖子さんは怪物でしたね。そもそも聖子ちゃんカットって、事務所は反対していたけれど、聖子さんは「私はこっちの方が似合っている」とあの髪型にした。デビューする前の新人なのにですよ。結果、あれが人気になるんです。

2度目の結婚で会見しない人はいるし、2度目の離婚だともっとしないじゃないですか。でも聖子さんはちゃんとやっているんですよ。今まで全部やってきている。だから色んなスキャンダルもありましたけど、そんなものを木端微塵にして彼女は上がってきました。

――松田聖子さんといえば、ことし1月、娘の神田沙也加さんが亡くなられた際、神田正輝さんと斎場で会見を開きました。非常に痛ましい会見で、そもそも開く必要があったのかとの声も上がりました。

僕は会見をするなんて思ってもいませんでした。でも考えてみたら神田正輝さんと聖子さんらしいなと思います。無理やり開かれた会見ではないということだけは間違いないです。そういう時代でもないですし。

お2人は沙也加ちゃんが生まれたときに、都内の病院の屋上で沙也加ちゃんを抱っこして会見しています。昭和の時代に生きてきた2人にとって、芸能界でのいわゆる筋の通し方が記者会見だった。あの会見で1回しゃべることで、このことについてピリオドを打ちたいという意味が込められていたと思います。

――その後のマスコミの取材を抑制する意味合いがあったわけですね。会見では現場の記者からの「今のお気持ちは?」との質問は、視聴者だけでなく、一部メディアでも批判を呼びました。

聞いた人に悪いけれど、もし僕なら聞かないですよ。基本的にはあの会見は本人たちが言いたいことを言ったら終わりで、質問はないと思うんです。だって考えたらそうじゃないですか。今の気持ちじゃ想像しなくても分かりますよね。

だけど、他のメディアの方が聞かれたことをああだこうだ言っても仕方がないと思う。またそれを騒ぎ立てることによって、神田さん、聖子さんご本人たちが傷つくんですよ。神田さん、聖子さんに抗議の気持ちがあったのなら仕方ないですが、そうでないなら、騒ぎを大きくする必要はない。

だから、マスメディアも続報はせず、あの会見で報道を本当は終わるべきだったと思います。伝えることの限界点とかは絶対にあるわけですし、何よりもお2人の意志が一番大きいと思うので。

■「優等生じゃないから面白い」芸能人が生み出す価値

――最近話題となっている暴露系YouTuberについてはどう思われていますか。非常に人気で、今後増えていくという声もあります。

うーん、僕は一時的なものにすぎないと思いますけどもね。そもそもプラットフォーム側がどこかでメスを入れないといけない。芸能人やスポーツ選手の素顔の暴露について、「いや、お前もやってきただろ 」と言われるかもしれないし、実際やってきたんですけれど、今は時代も違います。それに僕らは基本“みね打ち”で、真剣に刺しに行ってはいない。

それにおかしな傾向だと思うんですよ、芸能人が優等生じゃないといけないというのは。元々、芸能人は優等生じゃないから面白かった。一般人ができないことを考えたり、行動したりするから芸能人、エンターテイメントの世界は面白いんですよね。「不倫もしません。真面目な生活を送ってます。愛妻家です」と言えても、芸能人として面白くなかったら意味がない。

人間なんて、いろんな表裏があるわけで、僕らが知っている秘密なんていっぱいありますよ。いい加減さで売ってる芸能人が、実はものすごい几帳面で真面目だったりする。作られた顔でテレビに出てる人がほとんどなんです。

――品行方正さよりも大事なものが芸能人にはある。

若い頃に、太地喜和子さんに言われたんですよ。「井上さんたちは仕事だから、私のところに話を聞きにくるのは全然わかる。それは構わないし、喋りますよ私は。でも私の舞台は見てね」って。ズシンと響きました。それ以来、時間があれば、舞台、アーティストのコンサートを見れる限りは見ようと心がけてきたつもりです。

僕らはニュースでプライベートも伝えますが、それは歌舞伎でいうと花道です。ご贔屓の歌舞伎役者の袖をつかめる、間近に見られるのが花道ですが、それを伝えると同時に、舞台で演劇人としてどういう役者かを伝えることも忘れてはいけない。

芸能人はエンターテイナーで、演じたり、歌ったり、笑わせたりで世の中を明るく、パワフルにするのが仕事です。被災地に行って、歌手が歌うことでパワーを与え、芸人さんによって久々に笑顔を取り戻す。それは彼らしかできない仕事です。

品行方正が20人集まって、何か作品を作ったって面白くないですよね。なので、作る側も出る側も、見る側の価値判断にあまり左右されないでほしいと思います。もちろん、我々マスメディアも悪いと思います。ネットメディアはどうしてもハレンチな話題の方がアクセス数は上がりますし、暴露系YouTuberもそうです。

僕はもうやめていく人間だから立派なことを言ってるとか、そういうつもりじゃなくて、芸能界には元気でいてほしいんですよ。渡辺謙さん、真田裕之さんも頑張ってますが、もっと若い人たちが、どんどん世界にチャレンジするような時代になってほしい。エンターテインメントの素晴らしい面を伝えて、日本の芸能界のレベルを上げていくのかも、芸能マスコミのひとつの役目だと思います。

(ライター・徳重龍徳)

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