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Monday, March 21, 2022

こんな時だからこそ、先人が危機をどう乗り越えたか考えよう【江上剛コラム】:時事ドットコム - 時事通信ニュース

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作家・江上 剛

 冬季北京オリンピックが終わり、いよいよ世界は本格的な危機の時代へと突入する可能性が出てきた。

 新型コロナウイルスは、変異を繰り返している。今後、終息するとしても、いつなんどき再び猛威を振るうやもしれない。私たちは、コロナと共生することを考えねばならない。

 国際情勢はきな臭い。ロシアがウクライナへ侵攻した。

 中国と台湾の関係も不穏だ。西側世界の批判を斟酌(しんしゃく)しない中国が、ロシアの動向次第では、台湾侵攻を開始するかもしれない。

 こうなると、その機に乗じて、北朝鮮が38度線を破って、南側の韓国へ侵攻するかもしれない。

 まるで世界は、第3次世界大戦の様相を呈している。

 その他にも環境、格差、少子高齢化、そしてインフレ、金利高騰など、私たちはかつてない危機にあふれた状況に追い込まれている。

 もうお手上げだ。未来はない。そんな暗い気持ちにさえ陥ってしまう。

 ◆「囲いをつくる」とは

 ジャレド・ダイアモンドは「危機と人類(上下)」の中で、危機に陥った際、思考停止状態を克服するために「囲いをつくる」ことを推奨している。

 「問題を明確化し、それに『囲い』をつけるだけで、心が軽くなる」と言うのだ。その結果、危機に対処する「選択的変化」という実行可能な方法に着手できるのだ。

 具体的には「今の自分のなかで、すでにうまく機能していて、今後も変える必要がなく、保持できるところはどこか? 古いものを捨て、新しいやりかたを取り入れるべきところ、それはどこか?」。

 これが選択的変化であり、個人的危機も国家的危機も同様の対処が必要であると言う。

 彼が評価するのは明治維新である。西洋との接触や幕府の衰退という危機に際して、明治維新を推進した勢力は「明治時代に新しく考えだされた宮廷祭祀も、悠久の昔から続いている儀式とされた。革新的なものごとを古来の伝統だとする『伝統の発明』」で危機を乗り切った。

 すなわち、芸術、衣服、国内政策、経済、教育、天皇の役割、封建制、外交など日本人の生活の大部分に選択的変化が起きたのである。

 彼らは古いものを新しくする「伝統の発明」を行い、国内のあらゆる分野に日本の土台の上に西洋を取り入れ、選択的変化を実践したのである。

 ジャレド・ダイアモンドの説に従うなら、私たちは、現在の危機に際して、思考停止に陥ることなく、危機を「囲い込み」、すなわちどのような危機に陥っているのか、不安ばかり募らせることなく具体化するのである。

 その上で捨てるものは捨て、新しいやり方を取り入れる「選択的変化」を実践する必要がある。

 ◆先人の選択的変化

 私は、経営者の人物評伝を何作か書いてきた。彼らは危機に際して、どのようなものを囲い込み、選択的変化を実施したのか。それを見ていきたい。

 まずは、大倉喜八郎(1837年10月23日~1928年4月22日)である(「怪物商人」PHP文芸文庫)。

 彼は、大成建設、サッポロビールなど多くの企業を育て、東京経済大学を創立し、教育にも大きな貢献をした人物である。

 彼は、現在の新潟県から維新前の江戸に出てきた。彼の人生をたどって、危機の囲い込みと、それに対する選択的変化を見てみよう。

 彼は武士の風下にいることを潔しとせず、江戸に出てきて、乾物屋を営み、その後、武器商人に転じ、戊辰戦争で財を成す。その後も、台湾の役、日清・日露の戦争で大もうけする。「死の商人」「戦争屋」といわれる由縁である。

 彼は時代の風を読むのに優れていた。武士の世から商人の世に変わると考え、そこで成功するために、あえて危機の中に身を投じた。

 彼の最大の危機は、戊辰戦争の最中、上野の森を占拠する幕府軍の彰義隊に捕らわれた時だろう。

 武器商人である彼は、官軍にも幕府軍にも武器を売っていたのだが、彰義隊から「なぜ、幕府軍に武器を売らないのだ」と問い詰められる。

 返事次第では首をはねられて終わりになる場面である。

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