Pages

Wednesday, February 23, 2022

<『心霊探偵八雲 ShortStories』発売記念>八雲の赤い左眼の秘密とは――『心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている』222時間限定全文公開! #2 - カドブン

kukuset.blogspot.com

「心霊探偵八雲」シリーズ、クライマックス直前!今こそ『心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている』を読み返そう!

神永学さんによる、累計700万部突破の怪物シリーズ「心霊探偵八雲」。
本編最終巻にあたる12巻の文庫発売を5月に控える中、電子書籍限定で配信されていた心霊探偵八雲 ShortStories』が、ファンの皆様の声に応えて書籍化されました!
『心霊探偵八雲 ShortStories』は、これまでに神永さんが様々な媒体で書かれていたショートストーリーを1冊にまとめたファン必見の1冊です。
収録作の中には、八雲と晴香の二人の出会いを八雲視点で描いた「あの日の君」という1篇も!
そこで『心霊探偵八雲 ShortStories』発売を記念して、2月22日より222時間限定で、シリーズ第1巻にあたる、『心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている』の全文を公開!
全文を7分割して、2月22日より2月28日まで毎日公開していきます。全文公開期間は3月3日の18:00までです。(1・2回目のみアーカイブとして残ります)
『心霊探偵八雲 ShortStories』と合わせて読むと、もっと八雲を好きになれること間違いなし!



▼シリーズ全巻はこちら!【神永学シリーズ特設サイト】
「心霊探偵八雲」シリーズ詳細:https://promo.kadokawa.co.jp/kaminagamanabu/yakumo/

『心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている』試し読み#2

ファイルⅠ FILE:01
開かずの間

    8

 翌日、昼過ぎに晴香は八雲の隠れ家に向かった。
 かぎはかかっていなかった。
 昨夜あんなことがあったのに不用心極まりない。
 ドアを開けてすぐのところで、八雲が寝袋にくるまって丸くなっていた。まるでイモ虫だ。晴香が爪先で軽くると、迷惑そうに薄く目を開けた。
「もう昼だよ」
 八雲は、眼をこすりながらモゾモゾと動き出す。
「よく、こんな所で生活できるね」
 晴香はパイプ椅子に座り、八雲の身支度を待った。
「時々は帰ってるよ」
「家、あるの?」
 八雲は答えずに、冷蔵庫の中から歯ブラシを取り出し、歯を磨き始めた。
 なんで冷蔵庫?
「家があるなら帰ればいいのに。両親が心配してるよ」
「心配? それはないね」
 八雲が歯ブラシをくわえながら、もごもごと答える。
 まるで反抗期の中学生みたいな物言いだ。
「そんな、自分勝手なことがどうして言えるの? 少しは両親の気持ちを考えたら?」
 八雲は、そんな話には興味がないという風に、のんきに口をすすいで、うがいをしている。
「ねえ、人の話、聞いてるの?」
「聞きたくないが耳に入ってくる」
 八雲はタオルで顔をきながら向かいの椅子に腰を下ろした。
 眠そうな目は相変わらずだ。
「聞こえてるなら答えてよ」
「もし、心配してたら、殺そうとしたりしないだろ?」
「え?」
「親の話だ」
「?」
 ますます分からない。
「ぼくの赤い左眼。見えないものが見える。怖かったのか? それとも憎かったのか? それは分からないけど。ある日、母親はぼくを車で連れ出した」
 八雲が、たんたんとした口調で続ける。
「ごめんねって言いながらぼくの首に手をかけたんだ。だんだん力が強くなって、意識が薄れていった──」
 八雲は、晴香の想像を超える悲劇を、まるで他人事のように語っている。
「そこをたまたま通りかかった警察官に助けられた。母親はその場から逃亡。それ以来、行方不明。父親に至っては、ぼくの記憶するかぎり存在していない」
「そんな……」
 何かを言おうとしたけど、言葉が出て来なかった。
 八雲の話したようなことは、ニュースやドラマなんかではよく見聞きするが、自分とはまったく離れた世界でしかないものと思っていたのに──。
「世の中には子を愛さない親もいるし、親を愛さない子もいるってことだ」
 言い終わるのと同時に、八雲は髪をかきまわして大あくび。
 他人を受け入れない態度の裏には、計り知れない大きな傷がある──。
「今は、叔父おじさんの家で世話になってる」
「そうなの?」
「叔父さんはえんりよしないようにとは言ってくれてるけど、あんまり迷惑はかけられないし、いろいろと事情もあるんだ」
 八雲の左眼には、すでにコンタクトがめられていて、黒い瞳に変わっていた。
「私──」
 晴香は、長い睫毛まつげを伏せ、唇をんだ。
 私は、事情も知らずに、好き勝手言ってしまった。なんだか恥ずかしくなる。
「そんなに気にするな」
 八雲は、晴香の心情を察したのか口を開く。
「ごめんなさい」
 晴香は頭を下げる。
「何で謝る?」
「だって……」
「君はぼくの目を見ても逃げなかった。それだけでいい」
 八雲は自分で言っておきながら、自分の口から出たその言葉が意外だったらしく、急に苦虫を噛みつぶしたみたいな顔をした。
 晴香はそれを見て少し笑ってしまった。
 八雲がにらみつけてくる。晴香は、あわてて口をふさぎ、笑うのを止めた。
「昨日、一つ分かったことがある」
 八雲は、よっぽど気まずかったのか、急に話題をかえた。
「何?」
「昨日、ぼくらを襲ったあの影。間違いなくあれは生きた人間だ」
「何でそれが分かるの?」
「ぼくの目は便利にできていてね、右眼は実体のある物しか見えない。左眼は、死んだ人間の魂しか見えない」
 八雲が、けんに人差し指を当てながら言った。
「昨日私たちを襲った影は、右眼で見えて、左眼で見えなかったってこと?」
「そのとおり。昨日あの開かずの間が開いていたことも気になる」
「でも、いったい誰が?」
「さあね、候補者はたくさんいるよ」
「校務員の山根さん」
 とっさにその顔が頭に浮かんだ。
「可能性はあるね。ぼくたちがあの廃屋に行くことを知ってたわけだし、鍵も持ってるから出入りも自由だ」
「相澤さんも関係あるのかも」
「相澤?」
 八雲は首を傾げる。
「ほら、昨日、高岡先生が話していたじゃない。由利さんの彼氏だった人。私に斉藤さんのことを紹介してくれた」
「なきにしもあらずだ」
 八雲は腕組みして天井を仰ぎながら言う。
「随分否定的ね」
「そういうわけじゃないが、どうも引っかかる」
「なら、直接きに行ってみようよ。それに高岡先生にも、もう一度話を訊いておいたほうが……」
「調べてみたければ、勝手にすればいい」
 八雲が、言葉を途中で打ち切るように言った。
「それって、私一人でやれってこと?」
「役割分担と言ってくれ。ぼくは、他にも幾つか気になることがあるから、そっちを調べる」
 確かにその方が効率がいい。
 結局、八雲と晴香は夕方にもう一度落ち合う約束をして、別々に行動することになった。
 別行動をするに当たって、晴香は八雲に三つの約束をさせられた。
 人気のない所に行かないこと。
 誰かに何か質問する時は、遠回しに訊くこと。
 何か分かったらすぐに連絡すること。
 そうすれば、昼間から襲ってきたりはしないだろうが、昨日の今日のことだし、十分に用心をするようにと言い含められた。

    ※ ※ ※

 晴香はさんざん歩き回ったあげく、食堂で相澤をみつけることができた。
 授業を途中でさぼったらしく、缶コーヒーを飲みながら求人案内誌を読んでいた。
 ここなら人目もあるし、大丈夫だろう。
「相澤さん」
 晴香が声をかけて向かいの席に座ると、相澤は顔をあげ人懐っこい笑顔を浮かべる。
 背が低く、丸々と太っていて、ぬいぐるみ的なかわいさを持っている。
 晴香は頭の中で、由利と相澤を並べてみたが、何となく不釣り合いな感じがする。
「どう? 何か分かった?」
 晴香は相澤の問いに首を振る。
 分かったというより、よけい混乱したという感じである。
「しかし、小沢も大変だね。あの斉藤八雲ってなかなかのクセ者だろ?」
「ええ、それはもう──。そういえば、彼、相澤さんのこと知らないって言ってましたよ」
 相澤は吹き出し笑いをする。
「それはそうだろ。あいつにとってみれば俺なんて風景の一部だからな。前に友だちに付き合って、トランプの数字あてを見たことがあるだけだから」
 それはインチキですよ、と突っこんでやりたかったが止めておいた。
 それにしても、
「そういうことは、最初に言ってください」
「でも、困ってるみたいだったし、俺は友だちとは言ってないだろ」
 確かに、サークルの友だちには相談をした。その時、たまたま近くにいた相澤が「斉藤八雲を訪ねてみれば」と言い出した。
 改めて思い出してみると、知り合いだとは一言も言っていなかった。
「まあ、そうですけど……」
「大変だろうけど、がんばって」
 相澤が席を立とうとする。
「あ、ちょっと待ってください」
 晴香はあわてて相澤を呼び止めた。
「何?」
 相澤は椅子に座り直す。
 質問する時は遠回しに訊くこと──。
 晴香は八雲の忠告を思い出しはしたが、どう切り出したらいいか分からず、結局ストレートな問いを投げかけた。
「相澤さん、篠原由利って人を知っていますか?」
「篠原由利ね──」
 相澤はその名前を聞いた瞬間、頬をひくつかせ、露骨に嫌な顔をした。
 この反応、何かある。晴香はおくせず話を続ける。
「相澤さんが篠原さんと付き合っていたって話を聞いたんですけど」
「付き合ってねえよ」
「え? でも……」
 相澤は舌打ちをする。
「誰に聞いたか知らねえけど、付き合ってねえって」
「そうなんですか?」
「俺が篠原にコクってフラれただけ。だいたいそれが今回のことに関係あるの?」
 相澤は、テーブルの下で貧乏揺すりをする。
「それは、本当ですか?」
「フラれたなんて話、嘘でするわけねぇだろ」
 それは、そうだ。
 そこで、会話は止まってしまった。
「俺、もう行くぜ」
 晴香は何も言えずに、ただ歩き去る相澤の後ろ姿を見ているだけだった。


Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( <『心霊探偵八雲 ShortStories』発売記念>八雲の赤い左眼の秘密とは――『心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている』222時間限定全文公開! #2 - カドブン )
https://ift.tt/jNwdZu9

No comments:

Post a Comment