「心霊探偵八雲」シリーズ、クライマックス直前!今こそ『心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている』を読み返そう!
神永学さんによる、累計700万部突破の怪物シリーズ「心霊探偵八雲」。
本編最終巻にあたる12巻の文庫発売を5月に控える中、電子書籍限定で配信されていた『心霊探偵八雲 ShortStories』が、ファンの皆様の声に応えて書籍化されました!
『心霊探偵八雲 ShortStories』は、これまでに神永さんが様々な媒体で書かれていたショートストーリーを1冊にまとめたファン必見の1冊です。
収録作の中には、八雲と晴香の二人の出会いを八雲視点で描いた「あの日の君」という1篇も!
そこで『心霊探偵八雲 ShortStories』発売を記念して、2月22日より222時間限定で、シリーズ第1巻にあたる、『心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている』の全文を公開!
全文を7分割して、2月22日より2月28日まで毎日公開していきます。全文公開期間は3月3日の18:00までです。(1・2回目のみアーカイブとして残ります)
『心霊探偵八雲 ShortStories』と合わせて読むと、もっと八雲を好きになれること間違いなし!
▼シリーズ全巻はこちら!【神永学シリーズ特設サイト】
「心霊探偵八雲」シリーズ詳細:https://promo.kadokawa.co.jp/kaminagamanabu/yakumo/
『心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている』試し読み#2
ファイルⅠ FILE:01
開かずの間
8
翌日、昼過ぎに晴香は八雲の隠れ家に向かった。
昨夜あんなことがあったのに不用心極まりない。
ドアを開けてすぐのところで、八雲が寝袋に
「もう昼だよ」
八雲は、眼を
「よく、こんな所で生活できるね」
晴香はパイプ椅子に座り、八雲の身支度を待った。
「時々は帰ってるよ」
「家、あるの?」
八雲は答えずに、冷蔵庫の中から歯ブラシを取り出し、歯を磨き始めた。
なんで冷蔵庫?
「家があるなら帰ればいいのに。両親が心配してるよ」
「心配? それはないね」
八雲が歯ブラシをくわえながら、もごもごと答える。
まるで反抗期の中学生みたいな物言いだ。
「そんな、自分勝手なことがどうして言えるの? 少しは両親の気持ちを考えたら?」
八雲は、そんな話には興味がないという風に、のんきに口を
「ねえ、人の話、聞いてるの?」
「聞きたくないが耳に入ってくる」
八雲はタオルで顔を
眠そうな目は相変わらずだ。
「聞こえてるなら答えてよ」
「もし、心配してたら、殺そうとしたりしないだろ?」
「え?」
「親の話だ」
「?」
ますます分からない。
「ぼくの赤い左眼。見えないものが見える。怖かったのか? それとも憎かったのか? それは分からないけど。ある日、母親はぼくを車で連れ出した」
八雲が、
「ごめんねって言いながらぼくの首に手をかけたんだ。だんだん力が強くなって、意識が薄れていった──」
八雲は、晴香の想像を超える悲劇を、まるで他人事のように語っている。
「そこをたまたま通りかかった警察官に助けられた。母親はその場から逃亡。それ以来、行方不明。父親に至っては、ぼくの記憶するかぎり存在していない」
「そんな……」
何かを言おうとしたけど、言葉が出て来なかった。
八雲の話したようなことは、ニュースやドラマなんかではよく見聞きするが、自分とはまったく離れた世界でしかないものと思っていたのに──。
「世の中には子を愛さない親もいるし、親を愛さない子もいるってことだ」
言い終わるのと同時に、八雲は髪をかきまわして大あくび。
他人を受け入れない態度の裏には、計り知れない大きな傷がある──。
「今は、
「そうなの?」
「叔父さんは
八雲の左眼には、すでにコンタクトが
「私──」
晴香は、長い
私は、事情も知らずに、好き勝手言ってしまった。なんだか恥ずかしくなる。
「そんなに気にするな」
八雲は、晴香の心情を察したのか口を開く。
「ごめんなさい」
晴香は頭を下げる。
「何で謝る?」
「だって……」
「君はぼくの目を見ても逃げなかった。それだけでいい」
八雲は自分で言っておきながら、自分の口から出たその言葉が意外だったらしく、急に苦虫を噛み
晴香はそれを見て少し笑ってしまった。
八雲が
「昨日、一つ分かったことがある」
八雲は、よっぽど気まずかったのか、急に話題をかえた。
「何?」
「昨日、ぼくらを襲ったあの影。間違いなくあれは生きた人間だ」
「何でそれが分かるの?」
「ぼくの目は便利にできていてね、右眼は実体のある物しか見えない。左眼は、死んだ人間の魂しか見えない」
八雲が、
「昨日私たちを襲った影は、右眼で見えて、左眼で見えなかったってこと?」
「そのとおり。昨日あの開かずの間が開いていたことも気になる」
「でも、いったい誰が?」
「さあね、候補者はたくさんいるよ」
「校務員の山根さん」
とっさにその顔が頭に浮かんだ。
「可能性はあるね。ぼくたちがあの廃屋に行くことを知ってたわけだし、鍵も持ってるから出入りも自由だ」
「相澤さんも関係あるのかも」
「相澤?」
八雲は首を傾げる。
「ほら、昨日、高岡先生が話していたじゃない。由利さんの彼氏だった人。私に斉藤さんのことを紹介してくれた」
「なきにしもあらずだ」
八雲は腕組みして天井を仰ぎながら言う。
「随分否定的ね」
「そういうわけじゃないが、どうも引っかかる」
「なら、直接
「調べてみたければ、勝手にすればいい」
八雲が、言葉を途中で打ち切るように言った。
「それって、私一人でやれってこと?」
「役割分担と言ってくれ。ぼくは、他にも幾つか気になることがあるから、そっちを調べる」
確かにその方が効率がいい。
結局、八雲と晴香は夕方にもう一度落ち合う約束をして、別々に行動することになった。
別行動をするに当たって、晴香は八雲に三つの約束をさせられた。
人気のない所に行かないこと。
誰かに何か質問する時は、遠回しに訊くこと。
何か分かったらすぐに連絡すること。
そうすれば、昼間から襲ってきたりはしないだろうが、昨日の今日のことだし、十分に用心をするようにと言い含められた。
※ ※ ※
晴香はさんざん歩き回ったあげく、食堂で相澤をみつけることができた。
授業を途中でさぼったらしく、缶コーヒーを飲みながら求人案内誌を読んでいた。
ここなら人目もあるし、大丈夫だろう。
「相澤さん」
晴香が声をかけて向かいの席に座ると、相澤は顔をあげ人懐っこい笑顔を浮かべる。
背が低く、丸々と太っていて、ぬいぐるみ的なかわいさを持っている。
晴香は頭の中で、由利と相澤を並べてみたが、何となく不釣り合いな感じがする。
「どう? 何か分かった?」
晴香は相澤の問いに首を振る。
分かったというより、よけい混乱したという感じである。
「しかし、小沢も大変だね。あの斉藤八雲ってなかなかのクセ者だろ?」
「ええ、それはもう──。そういえば、彼、相澤さんのこと知らないって言ってましたよ」
相澤は吹き出し笑いをする。
「それはそうだろ。あいつにとってみれば俺なんて風景の一部だからな。前に友だちに付き合って、トランプの数字あてを見たことがあるだけだから」
それはインチキですよ、と突っこんでやりたかったが止めておいた。
それにしても、
「そういうことは、最初に言ってください」
「でも、困ってるみたいだったし、俺は友だちとは言ってないだろ」
確かに、サークルの友だちには相談をした。その時、たまたま近くにいた相澤が「斉藤八雲を訪ねてみれば」と言い出した。
改めて思い出してみると、知り合いだとは一言も言っていなかった。
「まあ、そうですけど……」
「大変だろうけど、がんばって」
相澤が席を立とうとする。
「あ、ちょっと待ってください」
晴香はあわてて相澤を呼び止めた。
「何?」
相澤は椅子に座り直す。
質問する時は遠回しに訊くこと──。
晴香は八雲の忠告を思い出しはしたが、どう切り出したらいいか分からず、結局ストレートな問いを投げかけた。
「相澤さん、篠原由利って人を知っていますか?」
「篠原由利ね──」
相澤はその名前を聞いた瞬間、頬をひくつかせ、露骨に嫌な顔をした。
この反応、何かある。晴香は
「相澤さんが篠原さんと付き合っていたって話を聞いたんですけど」
「付き合ってねえよ」
「え? でも……」
相澤は舌打ちをする。
「誰に聞いたか知らねえけど、付き合ってねえって」
「そうなんですか?」
「俺が篠原にコクってフラれただけ。だいたいそれが今回のことに関係あるの?」
相澤は、テーブルの下で貧乏揺すりをする。
「それは、本当ですか?」
「フラれたなんて話、嘘でするわけねぇだろ」
それは、そうだ。
そこで、会話は止まってしまった。
「俺、もう行くぜ」
晴香は何も言えずに、ただ歩き去る相澤の後ろ姿を見ているだけだった。
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