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Sunday, February 27, 2022

「プーチンはウクライナのファシストからロシアを守っている」なぜロシアではプーチン支持が“圧倒的”なのか? 背景にある「3つの分断」と“反プーチンの動き”:時事ドットコム - 時事通信

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 2月24日にロシア軍によるウクライナ侵攻が開始されてから、メディアやSNSではウクライナの悲惨な状況が飛び交っている。しかし、一般的なロシア人が今回の侵攻をどう見ているかは一向に見えてこない。

 およそ20年にわたってプーチンを支持し続けてきたロシア国民は、今回のウクライナ侵攻をどう捉えているのか。元産経新聞モスクワ支局長で、大和大学社会学部教授の佐々木正明氏が解説する。

◆ ◆ ◆

プーチンに反対しているのは「多くても10%程度」

 ロシア軍によるウクライナへの侵攻が始まった日から、ロシア国内では首都モスクワとサンクトペテルブルクを中心に大規模なデモが発生し、約1400人が逮捕されるなど「ロシア国内の反戦ムード」を象徴する出来事がいくつか報道されています。

モスクワでの反戦デモと、それを取り締まる警察官たち ©Getty Images

 平昌五輪女子フィギュアスケートの銀メダリスト、エフゲニア・メドベージェワや歌手のヴァレリー・メラジェらもSNSで抗議の意を発表するなど、反戦を表明するロシアの著名人も徐々に増えてきました。

 しかし、これらを見て「ロシアの一般市民の多くは今回の戦争に反対している」と考えるのは早計です。今でもロシア人の大部分はプーチン大統領を支持していて、ウクライナへの侵攻にハッキリ反対している人は、選挙分析や人口動態から見て人口の10%程度はいるのではないか、という目算です。プーチンに対して懐疑的な人はさらに多いはずです。

 それでも2月初めに非政府系の組織が発表した調査では、プーチン大統領の支持率は70%に迫っていました。刻一刻と状況が変化しているとはいえ、現在もそれが大きく低下しているとは考えられません。

 では誰がプーチンを支持し、誰が反対デモを起こしているのでしょう。それを理解するためには、ロシアに存在する3つの大きな「分断」が重要になります。

 1つめの分断は「ソ連時代を体験したかどうか」です。現在30代後半以上のロシア人は、ソ連が崩壊した1991年以前の記憶を持っています。そしてソ連末期や90年代のエリツィン大統領時代は、多くの人にとって“苦しかった原風景”になっています。

 失業率がすさまじく高く、自殺者も多くいました。一家離散など悲惨な事態がロシア中で繰り広げられていた時代を知る世代にとって、プーチンは「国を立て直した救世主」。ロシアが豊かになったのはプーチンのおかげ、プーチンこそが超大国だったロシアを復活させてくれる指導者なのだと考えています。

 しかし30歳以下の若い人たちはそもそも超大国だったソ連という時代を知らないため、プーチンに対する熱狂的な支持者は「ソ連人」に比べて少ないのです。

 

都市部以外では国営のテレビや新聞だけを見て暮らしている人が大多数

 2つ目の分断は、「国営のメディア以外から情報を得ているか」です。ロシアはメディアへの締付けが厳しく、国営放送のテレビ・ラジオや国営新聞で発信されている情報にはかなり規制が入っています。

 モスクワやサンクトペテルブルクのような大都市部には英語などを使える人も多く、インターネットやSNSを通じて世界のメディアや情報に接しています。しかし少し田舎の方へ行くとIT化はまだ進んでおらず、国営のテレビや新聞だけを見て暮らしている高齢者がまだ多くいます。

 つまり、自由な言論に触れている人々と、政権のコントロール下にあるメディアの情報だけを見聞きしている人々で世界の見方が全く違うのです。その境目は、インターネットやスマホを自由に扱えるかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。

プーチンに盾突くのは大げさではなく「死」を意味する

 3つめの分断は「ウクライナの今を理解しているかどうか」です。ウクライナは1991年の独立以降、民主主義体制を確立して表現の自由を謳歌してきました。ウクライナの親露派と反露派の国会議員どうしが殴り合いの喧嘩をする場面を見た人もいると思いますが、あれはまさに自由があるからこそできることでしょう。

 一方のロシアでは、プーチンの支配が完成しているので、対立すら起きません。クレムリンの主に盾突くことは、大げさではなく「死」を意味します。ドーピングの闇の真実を訴えた医師でさえ「裏切者」呼ばわりされ、今は亡命先のアメリカで暗殺者の襲来に怯えているような状態です。

 ソ連が1991年に崩壊した後、ロシアとウクライナはまったく異なる道を生きてきました。しかしロシアの一部の人たちは、ウクライナが今も昔のままだと錯覚しています。30年間会っていない昔の彼氏・彼女に、過去のイメージをそのまま抱き続けているような状態なのです。

 以上が「3つの分断」です。これはつまり「プーチンがロシアをソ連時代のように再び大国にしてくれると信じ、国営メディアを見て生活し、ウクライナの変化に気づいていない人」がプーチンの固い支持基盤だということを示しています。プーチンはこの層を今回のウクライナ侵攻を支持する層だと認識しており、演説でウクライナ政府をナチスに喩えたのも、その証拠の1つです。

 ロシアでは第2次世界大戦のことを「大祖国戦争」といいます。毎年5月9日には大祖国戦争戦勝を祝う式典が開かれ、パルチザンとしてナチスドイツから祖国を守った老兵士たちが赤の広場に招待され英雄として称えられます。

 第2次世界大戦当時、ウクライナでは民族主義が沸き起こり、ステパン・バンデラという人がウクライナ東部を拠点にソ連にレジスタンス戦を仕掛けました。「敵の敵は味方」という論理からナチスとも協力し、ソ連軍と戦ったのです。

 このバンデラという人物は、ソ連の歴史教育では「ナチスの協力者」「テロリスト」として扱われてきました。しかし近年のウクライナでは、独立のためにソ連と戦ったバンデラの名誉回復がなされ、両国の間で評価が正反対になっています。

 プーチンが2月24日のテレビ演説でゼレンスキー政権をナチスになぞらえたのはこの流れを意識しているためで、ナチスに勝利したことを誇りに思うロシアの保守派たちには“刺さる”表現なのです

 

「すべてが崖から落ちてしまった」

 それでも今回のウクライナ侵攻で、ロシア国内でのプーチンに対する信頼感が揺れているのも事実です。ロシアでは許可なく大規模集会を開いたりデモを行うこと自体が禁止されていて、反体制指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏などは神経剤での襲撃を受けたり逮捕されたりしています。若者はもともと政治への関心が薄いうえに、デモに参加することは就職など将来に直結します。その恐怖があるにもかかわらず1000人規模のデモが頻発していること自体がすでに異常事態なのです。

 反プーチン派の動きは他にもあります。昨年ノーベル平和賞を受賞したドミトリー・ムラトフ氏(59)が編集長を務めるロシアの非国営新聞「ノーバヤ・ガゼータ」は、ウクライナへの連帯とプーチン政権への批判的な態度を強め、紙面でも「(ウクライナへの侵攻は)ウクライナの損失よりもロシアの損失のほうがはるかに大きい。ルーブルも未来も、すべてが崖から落ちてしまった」と強い口調で主張しています。

 メディアを管理する官庁がロシアの公式発表以外の報道を禁止する通達を出しているのですが、「ノーバヤ・ガゼータ」はそれに堂々と反旗を翻したのです。

 ロシア国内でプーチンへの支持が揺れている最大の理由は、侵攻先がほかでもないウクライナであったことでしょう。

 ロシアが2014年にクリミアを併合した時は、ほとんどのロシア人は“奪還”に喝采を送りました。それは、かつてロシアの一部だったクリミアの同胞がウクライナ独立後の失政によって苦しんでいて、その人々をプーチンが救出したという意識があったためです。おそらく今でも、クリミア併合については「ロシアに帰ってこられてよかったね」という意識はあまり変わっていないと思います。

 しかし、今回のウクライナへの侵攻は状況があまりにも違います。ロシアとウクライナは同族意識も強く、お互いに血縁者も多くいます。

 乱暴な言い方をすれば、モスクワにとってのキエフは、東京から見た京都のような位置づけです。その場所を爆撃したり民間人が巻き添えになることに対して、プーチン支持者の中からも「なんでこんなことをするんだ」という嘆きと悲しみの反応が出てきているのです。

 現時点で、ロシア国内でプーチンに対するハッキリとした「ニェット」(NO)を掲げる反対派はまだ少数です。「プーチンはウクライナのファシストからロシアを守っている」と軍派遣に賛成する人もまだまだ多くいます。しかしプーチンに対する批判のマグマは溜まりつつあり、目に見えない地殻変動が起きていると私は感じます。

 一般のロシア人に話を聞いても「プーチンは誇大妄想に取りつかれている」「大統領でいること自体が恥ずかしい」「身震いするような恐れを感じる」のような強い言葉でプーチンを批判する人が出はじめています。

 BBCのロシア版サイトには、たった1人で「戦争反対」と書いたボードやウクライナの国旗を掲げて、武装したロシアの特殊部隊「アモン」に拘束されている高齢女性の写真が掲載されていました。それを見て私は胸が苦しくなりましたが、多くのロシア人にとっても目を背けたい光景のはずです。しかもロシア国内では物価が上がっており、今後の生活についても不安がよぎっていることでしょう。

 プーチンの計算違いは、このロシア国民の悲しみと怒りと不安のマグマです。政権は必死に抑え込みにかかるでしょうが、反プーチンの感情を持つロシア人がこれほど現れることは想像できていなかったのではないでしょうか。

 親プーチンと見られていたカザフスタンがウクライナへの軍派遣を断っていたことがわかったり、アメリカや西欧諸国が制裁を強めるなど包囲網を強化していますが、ロシアは国際社会から非難されることに“慣れて”おり、こうした圧力がプーチンに軌道修正を強いる決定打になるかどうかは不透明です。

 むしろロシア国内でたまる反プーチンという感情のマグマこそが、戦争の行方を左右する大きなポイントだと思います。

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