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Wednesday, August 19, 2020

震災からの復興を目指す「猫神様」の島で “まきのねこバーガー”を食べてきた - メシ通

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※この記事はコロナによる緊急事態宣言前の2020年3月に取材したものです

東日本大震災で大きな傷を負った老舗割烹

東日本大震災で全壊地域となった石巻市中央エリアは、多くの飲食店や商店が集まっていた、かつての繁華街だった。

その一画に、老舗割烹料理店「鰻割烹 八幡家」がある。

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▲被災当時の八幡家。店内の階段には今も水が押し寄せた高さが表示してあり、リアルに怖い(写真提供/八幡家)

「鰻割烹 八幡家」は大正2(1913)年の創業というから、2020年で107年目。現在の女将、阿部紀代子さんは四代目である。

旧北上川に近い八幡家は、溯上してきた波で1階天井あたりまで水没。

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▲飲食店が集まっていた路地の様子。かつては料亭、待合などが集まっており、華やかな場所だったという(写真提供/八幡家)

震災により、代々継ぎ足して使ってきた自慢のたれも失われたが、東京に住む親族がたまたま冷蔵保存していたものがあり、2011年秋には営業を再開。

建物自体は使える状態だったため、2012年7月に店舗を新装オープン。

2013年8月には無事100周年を迎えた。

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▲新装された八幡家店内。あちこちに飾られているのは100周年を祝う漫画家さんたちから送られた色紙

被災前から石巻は漫画でのまちづくりを行ってきたが、その立役者のひとりが八幡家の女将さんなのである。

阿部さんはまた、発災直後から、路上での情報交換会などを主催、石巻市の復興を民間の立場から推進してきた人でもある。

その阿部さんが建物等の再建がひと段落した今、これからのまちづくりのためにと開発したのが「まきのねこバーガー」なのだ。

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▲当初はカラフルなバンズを使った商品などを模索していたそうだが、猫の島に行く観光客のためのものだからということで猫の顔をしたバンズになった(写真提供/八幡家ねこ部)

「この9年で当初計画していた建物は8割以上が完成しましたが、これからの問題はその中身。多い時には20何万人ものボランティアが集まっていましたが、復興が進むにつれて去っていき、まちからは人の姿が減りました。そうしたなかで何か、まちづくりの新しいきっかけになるものはないか。思いついたのが私も大好きな猫でした」(阿部さん)

「猫神様の島」田代島

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▲人間よりも猫の数のほうが多いと言われる田代島。2つの港がある

石巻市街からフェリーで40分ほどの距離にある離島・田代島は数年前から「猫島」として海外からの猫好きも集める人気スポット。

www.city.ishinomaki.lg.jp

2018年秋に島へのフェリー乗り場が市の中心部に近い場所に新設されたため、より多くの観光客が訪れるようになった。

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▲八幡家店頭。猫好きの女将さんが音頭をとって店頭のみならず、路地のあちこちには猫の姿が。好きな人ならこれだけできゅんときそう

猫島に持って行ける新名物をと開発

しかし、田代島は震災前から過疎化が進んでおり、飲食店や自販機も極めて少なかった。

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▲阿部さん(左)とボランティアで石巻に入り、その後、移住した塩坂さん。二人とも猫好き

石巻市の産業復興支援員として、阿部さんと一緒に商品開発に当たった塩坂佳子さんは自宅で猫2匹が女将を勤める「民泊よあけの猫舎」を運営している。

yoakeneco.jimdofree.com

この民宿には、田代島を訪問する観光客の宿泊が多い。

そのため、島を訪れた人たちが昼ご飯抜きでひもじい思いをしていることを知っていた。

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▲田代島では猫でさえ美味しい魚にありつく。せっかく訪れた人間が石巻の美味を楽しめないなんて! という思いから、ねこバーガーの開発に繋がった(撮影/塩坂佳子)

「フェリーに乗って田代島に行くと、想像以上に飲食店や自販機が少なく、昼食抜きで石巻に戻り、何も食べないまま仙台方面に戻って行く人も多かったんです。それを女将さんに話したところ『せっかく美味しいものがたくさんある石巻に来ていただいたのに、一食も食べていただけないなんて!』と驚かれました。それで、田代島に持って行って食べていただけるものを開発しようということになりました」(塩坂さん)

地元の名産品を使った3種類のバーガーが誕生

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▲まきのねこバーガー。仙台牛100%、金華山銀鮭、「みやぎしろめ」という宮城産大豆を使った3種類のパテがあり、顔はひとりずつ異なる(写真提供/八幡家ねこ部)

価格は仙台牛が1,400円(税込み、以下同)、金華銀鮭のマリネが1,100円、ヴィーガンが1,000円で、一番人気はやはり仙台牛。

当初はおにぎりという案もあったが、田代島を訪ねる人には外国人が多い。

であればハンバーガーが良いのではないかということになり、3種類のうち、最初に決まったのは仙台牛100%という贅沢な一品。

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▲つなぎがなく、肉の味がストレートに味わえる仙台牛100%。バンズも噛み応えのあるもっちりした品

「石巻に住むアメリカ人たちが、日本ではビーフ100%の本物のハンバーガーが食べられないと言っているというのを聞き、肉の味が楽しめるよう粗びきにし、塩と胡椒、アメリカ産のマスタードにケチャップと、とことんこだわった一品に仕上げました」(阿部さん)

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▲金華山銀鮭のバーガー

2品目には世界三大漁場のひとつといわれる石巻の離島、金華山沖で獲れる金華銀鮭のマリネを使うことになった。

「本業である和食で使うすし酢をベースに、オニオンスライスと一緒にマリネ。銀鮭の濃い旨味を引き立てる甘酸っぱい味に仕上げました」(阿部さん)

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▲バンズを作っているのは市内にあるベーカリーカフェ「パーラー 山と田んぼ」(障害者継続支援B型事務所)の皆さん。猫好きが多く、どんな顔にしようと楽しみながら作っているそうだ(写真提供/八幡家ねこ部)

そして、もう1品には宮城県の伝統野菜である「みやぎしろめ」という大豆を使った。

他のバンズは玄米米粉を利用しているが、これだけは宮城県産の強力粉「銀河のチカラ」をメインに、動物性食材を一切使わず、完全菜食主義者であるヴィーガンの人たちも食べられる品に仕上げた。

このことからも、田代島訪問者に占める外国人の多さが推察できるというものである。

猫島を「発見」したのは海外の人たちだった

そもそも、田代島人気は数年前、海外から火が点いた。

当時、石巻駅近くで雑貨店をやっていた塩坂さんは情報を求めてうろうろしていた外国人たちの姿をよく覚えているという。

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▲田代島のフェリー乗り場でこれである。島の主はどうやらお猫さま方らしい(撮影/塩坂佳子)

「アメリカのTVで田代島を取り上げた1時間もののドキュメンタリーが放映されたんです。それを見て訪ねてきた人がブログを書き、それ以来、島を訪れる人が増えてきたようです。その頃の船着き場は街の中心部から遠く、頻繁に出船時間が変わるなど外国人には非常にわかりにくかったにもかかわらず、アジア、欧米と各国から1人、2人で訪れている人がたくさんいました。船着き場で飼われていた猫の親子を彼らが囲んでいる姿は微笑ましかったですね」

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▲ふたつの港の間くらいにある猫神社。来島者は間違いなく訪れる場所で、招き猫その他猫グッズが置かれている(撮影/塩坂佳子)

田代島はもともとは漁業と養蚕の島だった。

そのため、古くから猫が飼われてきたという歴史がある。

養蚕を生業としていた家では蚕の天敵であるネズミを捕るために猫を飼う。また、漁業者は大漁の守り神として猫を大事にしてきた。

現在、島にある「猫神社」も地元の網元の総元締が錨の代わりにしていた石に当たって死んでしまった猫に心を痛め、その猫を祀ったものだとか。

田代島は、古くより猫と密接にかかわってきた島だったのだ。

震災後、一時は1,000人を超えていた島の人口は徐々に減少。

学校も無くなり、2019年3月末時点での人口はわずか63人、対して猫は200匹余ほど。

今や「人よりも猫の多い島」になってしまったのである。

田代島の猫は人懐っこい

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▲猫の餌やりはすべて島の人たちの手で行われている。いくら可愛い、餌をあげたいと思っても、来島者の餌やりは禁止されている(撮影/塩坂佳子)

だが、田代島の人たちの「猫愛」は変わっておらず、猫たちは今でも大事にされている。

餌はすべて島の人たちが魚、カリカリなどを与えており、観光客による猫への餌やりは禁止。犬など猫に害を与えそうな動物を連れて行くことも禁止されている。

また、東日本大震災後にはボランティアの獣医たちが島に入り、去勢、健康管理などを行っており、健康状態も良い。

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▲しまの駅で猫に癒される来島者たち。トイレがあり、軽食も売られていることに加え、猫も多いので人気のスポットだ(撮影/塩坂佳子)

人との関係が良好だからだろう、田代島の猫たちはとても人懐こい。

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▲お猫さまのご機嫌にもよるが、きちんとカメラに目線をくれる子も(撮影/塩坂佳子)

「普通だと野良猫や外で飼われている猫は人を見ると逃げますが、田代島の猫たちは人懐こく、人に寄ってきます。きちんと餌を与えられているから、がっついている子はいません。島のみんなの外猫、地域猫というような存在なのでしょうね」(塩坂さん)

数年前から少しずつ増えてきた観光客をもてなすために生まれたまきのねこバーガーは2020年2月22日、にゃんにゃんにゃんの日のお披露目を経て、現在は予約で1日20食限定、テイクアウト用に販売されている。

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▲ねこ人気を盛り上げようと物産館「いしのまき元気いちば」では猫グッズのコーナーも設置された。人気は塩坂さんがプロデュースするおさかなをくわえた猫たち

また、田代島行きのフェリー乗り場が新しくできた石巻の街なかでも、猫で地域を盛り上げようと3月20~22日には「いしのまき ねこふぇす2020」が開催される予定だった。残念ながらコロナ騒動で延期になり、終息後に開催予定。

だが、今後は毎年恒例のイベントに育てていこうという動きもある。

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▲田代島に向かうフェリー乗り場近くには石巻の物産を販売、美味しいものが食べられるいしのまき元気市場があり、多種の味覚が味わえる。個人的にはローストホエール丼を食べ損ねたのが残念で仕方ない……

それに猫も、まきのねこバーガーも逃げるものではない。

騒動が収まったら、猫に囲まれてひとつずつ顔の違うまきのねこバーガーにかぶりつくという経験をぜひ。

※この記事はコロナによる緊急事態宣言前の2020年3月に取材したものです

店舗情報

割烹 八幡家

住所:宮城県石巻市中央2-8-23
電話番号:0225-22-0138
営業時間:月曜日・水曜日~土曜日 11:30~14:00、17:00~21:00 日曜日・祝日 12:30~18:30
定休日:火曜日

www.hotpepper.jp

www.yahatayaneco.com

“真山知幸”

住まいと街の解説者。30数年不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他、まちをテーマにした取材記事が多い。主な著書に『この街に住んではいけない』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』『東京格差 浮かぶ街、沈む街』(ちくま新書)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

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