バンテージの巻き方を追求してきた日本人がいる。バンテージ職人永末貴之(通称ニック)だ。
彼は、井上尚弥(26=大橋)、那須川天心(21=TEPPEN GYM)、田中恒成(24=畑中)など日本を代表する選手のバンテージを担当している。
今回の取材の経緯は、1月にSNSに投稿されたニック氏の発言だ。
「日本のバンテージの歴史があると思うのですが、固定概念が邪魔をしていて世界でみたら後進国だと思います」
この投稿に興味を持った筆者が、彼がどんな想いで活動しているのかインタビューを試みた。
担当している選手
ーーートレーナーとしても活動されていますが、どのような選手を担当していますか。
ニック:ボクシングでは、小原圭太、吉野修一郎、佐川遼など三迫ジムの選手が多いです。キックでは那須川天心(21=TARGET/Cygames)も見ています。
ーーー井上選尚弥選手(26=大橋)や田中恒成選手(24=畑中)はバンデージだけですか。
ニック:井上選手は基本的にバンデージだけです。
ーーーそうなんですね。井上選手も田中選手もトップ選手ですが、こだわりが強いとかはありますか。
ニック:井上選手は拳に関しては細かいです。重さも手首の返しも細かく言ってくれます。
田中選手はずっと怪我をした状態で試合していたので、そこを保護してほしいと言われます。
ーーー那須川天心選手はどうですか。
ニック:彼はそんなに細かく言うことはないです。ただ、動きに関しては細かいですね。
ーーーバンテージを巻く時は、選手の要望を聞きながらあくまで提案するという形ですか。
ニック:そうですね。井上尚弥選手の場合は、例えばドネア戦はこうだろうと、自分でつくってきたものを1回巻いてみて本人に確認します。
ーーーそれは試合前に1回巻くのですか。
ニック:はい。巻いてみて一発オーケーの時もあるのですが、「もうちょっとこうしてくれ」とやり直しの時もあります。悔しいなって思いますね(笑)。
ーーーなるほど。それは巻きがいがありますね。そうして選手とコミュニケーションを取りながら作り上げていくのですね。
ニック:そうです。私も楽しみながらやりたいですし、同じことをやっていても成長しないので。
ーーー常にチャレンジ。
ニック:はい。常に自分より上がいると思っていないとトップにはなれないので。
それに、私が納得した巻き方ができたとしても、選手が納得しないと意味がありません。
選手が「このぐらいの金額でやってくれ」と言ったときに「安い!」と思わせたら勝ちだと思います。
はさみの通りにくいバンデージ
ーーーバンテージの正しい巻き方というのはありますか。
ニック:巻き方で100パーセント正解というのはありませんが、切るときに「はさみの通りにくいバンデージ」が良いと思っています。
テーピングというのはある程度固定するものなので、ハサミがさっと入ってしまうのは固定されていない証拠です。
ーーーSNSで「日本はバンデージに関して後進国」と書かれていましたが、現状はどうですか。
ニック:試合でアメリカに行った時、同じ控室に10人ぐらいの選手がいました。
その時、カットマンが巻いている選手の拳を見たのですが、みんなレベルが高かったですね。
ーーー見ただけで分かるのですか。
ニック:こんな感じで下地を巻いているのだろうというのは大体わかります。
ーーーすごいですね。バンテージ職人を始めた10年前と比べて日本のバンテージ技術は進化していますか。
ニック:少しずつ進化していると思います。
SNSなどでも、バンテージの写真をアップしている選手が増えていますし、そういう人が増えてきた時点で進化しているのではないでしょうか。
ーーー今後は、伝える活動にも取り組んでいきたいですか。
ニック:そうですね。ただ、全てを教える必要はないと思っています。
ーーー自分で工夫してということですね。
ニック:はい。基礎の基礎は教えていこうと思っています。
例えば、私がA選手に巻きました。それを見て真似しても、私が巻いたのはA選手用のバンデージなのです。
それを他の人にやっても合わない。私が巻いたのを丸パクりしても、他の選手にとってはただの迷惑です。
なので基礎は教えますが、そこからは選手と一緒に作り上げていくのが一番理想のバンデージだと思います。
ーーー基礎を身につけて、選手とコミュニケーション取りながら、試合ごとに進化させていくようなイメージですね。
ニック:そうです。
プロのトレーナーが必要
ーーー今後フィジカルトレーナー、バンデージ職人として伝えていきたいことはありますか。
ニック:そうですね。その分野でお金を稼ぐことによってモチベーションを上げて選手のために動ける人、ボランティアではなくてプロ。
プロになる人を増やしていかないと、今後日本は厳しいだろうなと思います。
ーーーそのために必要なことはどういうことだと思いますか。
ニック:投資だと思います。
ーーーお金をかけて投資していくということですね。
ニック:そうです。選手は海外に行ったりしますが、トレーナーで行っている人は少ないですよね。
ーーー確かに、あまり聞きませんね。
ニック:せっかく選手が海外で学んできたのに、戻ってきたら日本の練習をするのです。
海外でよい指導をしている人がいるのであれば、トレーナーもそこで学ぶべきです。
選手は海外に行くけど、トレーナーや指導者は行かない。
全員ではないと思いますが、私も最近気付いて、何回かアメリカに行ったりしました。
やはり指導者が育たないといい選手は育たないと思います。
トレーナーより知識を持っている選手がいたとしても、トレーナーが選手の知識をおさえてしまう場合もありますから。
ーーー確かに。そのケースは多いと思います。
ニック:トレーナーが学ばなければ、選手は成長できなので投資が必要ですよね。
その為にはトレーナーも稼げるようにしなければ、トレーナーはそれに対して投資できないので。
ーーーそうですね。
ニック:そういうところだと思います。
ーーー先ほどアメリカに行ったと話していましたが、やはりアメリカは進んでいますか。
ニック:専門分野に任せていますよ。
ーーーなるほど。選手もそれぞれの専門家に教わるということですね。
ニック:はい。栄養管理、ミット、フィジカル、メンタルを各分野のプロに任せています。
何となく勉強してきた人に教わるのと、各分野のプロに教わるのでは違いますよね。
ーーー確かに。私が選手でもその分野のプロに教わりたいと思います。
ニック:だからこそプロが必要なのです。
ニック氏が何度も口にしていた「プロ」という言葉。プロフェッショナルな裏方が増えることで選手のレベルも上がっていく。
バンテージひとつ取っても、その世界にはこだわりと奥深さがある。
今後日本で「プロ」が増えることに期待したい。
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February 14, 2020 at 03:00PM
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