Pages

Wednesday, November 9, 2022

第10回 作法違反の「ラッキーヒット」はどうすべき? - 日経BP

kukuset.blogspot.com
海老原 嗣生

サッチモ代表取締役、政府労働政策審議会人材開発分科会委員、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授、大正大学表現学部特命教授

あまり期待していなかった事業が、大成功して大きく育つめどが立ってきた。でもその事業は、会社が拠って立つ「コンセプト」とは関係が薄い。コンセプトと実ビジネスの狭間に立った時、経営はどう意思決定すればよいか。

(写真:123RF)

[画像のクリックで拡大表示]

(写真:123RF)

 ここまで、ビジネスとコンセプトの話を続けてまいりました。

 今回は、ちょっとハシゴを外すような、考えさせられる話を書いておきます。

「瓢箪から駒で生まれる大成功」をどう考えればいいのか?

 シャンプードレッサー(洗髪洗面化粧台)という製品をご存知ですか? 

 大きなシンクとシャワーがついた、服を着たまま朝シャンができる洗面台です。

 発売からすでに40年を超えたこの製品、実はもともとシャンプー用に開発されたわけではありませんでした。狭いマンションなどで、洗面台と食器洗い用シンクを兼用できるように、という意図で開発されたのです。

 こんな感じで、製品もビジネスも、当初の意図とはかけ離れた方向で、大成功を収めることがままあります。セレンディピティとでもいうのでしょうか。だから、事前に周到に考え尽くしたとしても、世に出たあとは、どうなるか分かったものではありません。

 市場の声を聞きながら、売れる方向へと舵を切りなおす。ビジネスとはそんなものだという意見があります。

 私はむしろそういう考え方が好きです。ガチガチに作り込んで身動きが取れなくなってしまうようなスタティックな仕事の仕方よりも、柔軟に形を変えて市場と対話していくダイナミックな仕事を好みます。 あれれ?ここまでずっと、「コンセプト」をどう届けるか、色々な乗り物を用意し、多重配送でそれをユーザーに届けるのだ!と予定調和的な話を繰り返してきたのと、整合性が取れませんね……。

 まあ、ゆっくり、ビジネスの奥深さにお付き合いください。

マーケティングは古地図みたいなもの!?

 マーケティングの神様と呼ばれる石井淳三先生(流通科学大学元学長、名誉教授)から、こんな話を聞いたことがあります。

 その昔、フランスの軍隊のある小隊が、真冬のピレネー山脈で道に迷ってしまったそうです。日本でも同じような話が青森の八甲田山でありましたね。その隊は全滅しました。フランスのその小隊も状況は同じです。寒さと飢えで、このままビバーグ(緊急避難)していても、じきに皆こと切れてしまうような状態でした。

 そんな中、従軍記者が取材資料の中から、現在地一帯の地図を見つけ出したのです。

 それを見て、隊員たちの反応は割れました。「この地図に従い、歩き出そう」という人と、「このままここで救助を待とう」という人に。

 隊長はこう決断したそうです。

 「ここにいれば、あと4,5日は持つだろう。ただその間に救助隊が我らを見つけてくれる可能性は低い。ここを出れば2,3日のうちに凍死してしまうかもしれない。でも、その間に里に着ける確率は、救助隊に救出されるよりも高い」

 そうして、地図に沿い、里を目指しました。

 ところが、しばらく進むと、地図には書かれていない川と出くわします。

 古地図なので、川の流れが変わっているのかもしれません。少し不安を覚えましたが、いやいや、川の流れに沿って下れば必ず低地に続くはずだと、隊長は前向きにとらえました。

 またしばらく歩き続けると、川は滝となり、その手前には人跡未踏の原生林が広がっています。これではもう川に沿って下れない!と思ったとき、隊員の一人がこう言い出しました。

 「かすかに小鳥の声が聞こえる。里の方角はそっちです」

 そこで、覚悟を決めて、原生林に足を踏み入れることにした。 こんな曲折があり、一隊は凍死寸前のところで里にたどり着いたそうです。めでたく本隊に戻れた後に、件(くだん)の記者は古地図を改めて調べてみました。

 すると、それは、ピレネー山脈ではなく、アルプスの地図だった!

 この話を語ったあとに、石井先生はこう、結びました。

 「マーケティングなんて、この古地図と一緒なんです。地図がなければ人は勇気をもって踏み出すことはできません。だからしっかり地図を用意する。でも、歩き始めたら、地図通りに行くことはない。その時々の風景や、自然の音色など、世にあふれる情報を頼りに、新たに道を切り開いていかなければなりません」

 読んでお分かりいただけるように、石井先生は、計画や構想を絶対視せず、市場の声により柔軟にそれを変えていく「ダイナミズム」派のマーケティング論者です。実は、シャンプードレッサーの話も石井さんに伺いました。世には当初の意図と異なる形で結実した成功事例が、山ほどある。その時々の市場の声に従った方がいい。

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( 第10回 作法違反の「ラッキーヒット」はどうすべき? - 日経BP )
https://ift.tt/voetAjD

No comments:

Post a Comment