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Wednesday, October 19, 2022

“非財務価値”の悲劇と教訓 - 日経BP

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ESGに熱心で個人投資家に人気の米生活雑貨小売りチェーンが株価急落で経営難に。成長への期待が薄れると短期間に一斉売却。非財務価値や長期投資の難しさを映す。

 米大手生活雑貨小売りチェーンのベッド・バス・アンド・ビヨンドが、株式市場で話題になっている。

 2022年3月に株価が27ドル(約3860円)と年明けからの最高値を付けると、「80ドル(約1万1440円)で購入する」と大物投資家が表明。ところがその後7ドル(約1000円)まで急落するなどして、一気に経営難に追い込まれている。

米大手生活雑貨小売りチェーンのベッド・バス・アンド・ビヨンドの店舗。経営再建に取り組んでいる<br><span class="fontSizeS">(写真:ロイター/ アフロ)</span>

米大手生活雑貨小売りチェーンのベッド・バス・アンド・ビヨンドの店舗。経営再建に取り組んでいる
(写真:ロイター/ アフロ)

 同社は全米で約1000店舗を展開しており、あくまで例えだが“米国版ニトリ”のような会社だ。家具から家庭用品を提供する身近な存在であることや、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)にいち早く賛同したり、ESG戦略として地域社会へ10億ドル(約1430億円)の寄付を表明したりするなど、株式市場では“ミーム株(はやりの株)”として幅広い層の投資家を集めていた。

 決算で赤字を出しても、同社の大株主で著名投資家のライアン・コーエン氏は、「ブランド力を生かし、ガバナンス強化でさらに成長できる」と経営改革を主導。同社の株を「60ドルから80ドルの範囲で167万株まで購入する」というコールオプション(買う権利)を設定した。仮に株価が100ドルになったら、コールオプションを行使して80ドルで買い、それを売ると差額の20ドルの儲けとなる。この“非財務価値”に注目が集まり、7月には4ドルまで下がった株価が8月に23ドルまで急騰した。

150億円稼いだ大学生

 その潮目が変わったのは、コーエン氏のコールオプションの解消と同社株売却がきっかけだ。経営難で投資方針を転換し、22年8月下旬にそれが公表されると個人投資家も一斉に売却。株価は7ドルまでになり、資金難に陥った。その後、同社は増資を発表して、経営再建に向かっている。

 株式相場の乱高下と見えるかもしれないが、それにとどまらない。というのも英フィナンシャル・タイムズ紙は、米国の20歳の大学生が同社の株取引で約150億円の利益を上げたと報じた。個人投資家でも堅実に買い増して、タイミングを見て売れば利益を上げられるというわけだ。

 むしろ今回の騒動は、最近、日本でも注目が高まっている「非財務価値」や「長期投資」への課題を投げかけている。

 まず、非財務価値への評価の土台があまりに緩いこと。“はやりの株”とは言え、大物投資家の売却に個人投資家も追随した。

 もう1つは、長期投資への興味が薄いことだ。ベッド社が進める経営再建に対して、早くも投資家から「長期保有は想定外」との声が上がっている。

 日本では「新しい資本主義」の掛け声の下、ESGが浸透すると個人投資家や年金基金の投資が増えるだけでなく、企業を評価して成長を見守る長期投資も増え、資本市場が安定・発展するという論調が展開されている。しかし今回の騒動は、資本市場ではプロも個人も状況に敏感に反応し、非財務価値や長期投資は簡単に定着しないことを示している。

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