こんにちは、フリーライターの少年Bです。わたしは知らない街をぶらぶらと歩くのが好きなのですが、ちょこちょこ「なんか気になるお店」を見つけることがあります。
でも、そういうお店に入るのってかなり難しくないですか? 「せっかくお金を払って飲食するなら失敗したくない」とか「常連さんばかりだったらどうしよう」とすぐ不安になって、ついついネットの口コミを確認して判断を委ねてしまう……。
一歩踏み出せば知らない世界が待っているかもしれないのに、その一歩がどうしても踏み出せない……なんて経験、一度はありますよね?
▲左:漫画家の清野とおるさん 右:酒場ライターのパリッコさん
そこで今回は、『赤羽以外の「色んな街」を歩いてみた』(扶桑社)を上梓した、漫画家の清野とおるさんと酒場ライターのパリッコさんに「ディープな街の楽しみ方」を根掘り葉掘り聞いてみました!
果たしてお二人はどんなマインドで日々飲食店を巡っているのでしょうか? そして、躊躇していたお店に入るきっかけを与えてくれるんじゃないか? そんな淡い期待を胸に取材を実施しました。
痛い目を見たいと思って飲んでいる
──はじめまして。この本は赤羽をホームグラウンドにしているお二人が、「白山」「青井」「金町」など、地名に「色」が入っている街で飲み歩くという本ですよね。紹介されているのはすごくディープなお店が多い気がするんですが、お店選びや下調べなどはどうされたんですか?
清野とおるさん(以下、清野):あえて一切しなかったですね。予定調和は避けて、場当たり的な飲酒にチャレンジしようと思いまして。
パリッコさん(以下、パリッコ):あくまで行き当たりばったりです。
清野:今まで幾多の飲み屋で養った自分たちの実力を試したい気持ちもありましたね、ヒヒヒ。
──実力!? 一体何の……?
清野:パリッコさんとは20年近く前から、赤羽を中心に頻繁に飲み歩いてたんですけど、当時からけっこうな確率でとんでもない出来事に遭遇していたんですよ。面白い店主さんやお客さんに出会ったり、変な事件や事故に巻き込まれたり。それがパリッコさんの力なのか、もしくは赤羽の持つ力なのか、そのあたりを改めて確かめてみたかったというのはありましたね。
パリッコ:僕は清野さんの力だと思っているんですけど。
清野:そういう、ある種の「奇跡」が他の街でどのくらいの確率で起こるのか、という興味が大きくて。パリッコさんと行き当たりばったりで色んな場所を巡って、結果的に街の楽しみ方をまとめられればいいかなって。
──なるほど……。行き当たりばったりとおっしゃっていましたが、個人的には、知らないお店に入るのってかなりハードルが高いと感じていて。やっぱり後悔をしたくないので、ついついネットの評価を気にしてしまうんです。お二人はそういうことを全く気にされないですよね。
パリッコ:ネットでなんにも下調べをしないで馴染みのない街に行き、「気になるな」ってお店に飛び込んでみるハシゴ酒ほど楽しいことはないですよ! 入店前にそのお店の情報を調べて、高評価だったり名物料理が書かれてあったりしたら、もう単なるその確認作業でしかなくなっちゃう。
清野:そうですね。あと、僕たちは街に対しては変態なので、基本的にはお店選びを通じて、「後悔したい」「痛い目を見たい」みたいなところがあるんですよ。まあ痛い目に遭えず、当たりだったら当たりで、それは大歓迎ですけど。
パリッコ:僕らは街に対して、基本ドMなんです。だからどっちのパターンも嬉しくてお得という。
──お店選びで失敗して後悔したいと思っているんですか?
パリッコ:言われてみるとおかしいですよね。確かに、若い頃は安くておいしいお店が好きだった気がする。でも、特に清野さんと飲むようになってからかな。一緒にお酒を飲んでいると本当に変なことが次々起こったんですよ。それでなんか、おいしさよりも変なお店で飲む楽しさを求めるようになった感じがあります。
──本の中には「俺の知っているあの銘柄の焼酎の味じゃない」、「このおでん、味がしない」と2人で紙に書いてやりとりをするエピソードがありました。
清野:ああやって紙切れ1枚でコソコソやり合って飲むまずい酒が、またうまいんですけどね(笑)。
パリッコ:おいしい料理よりそっちの方がつまみになるっていうか。
──ダメなお店でもその出来事が「おいしいつまみになる」ってことなんですね。
清野:まあでも、物理的に普通においしいつまみが出てきても、それはそれで大歓迎ですけど(笑)。
──お二人のマインド、めちゃくちゃ独特ですね……(笑)。
コスパよりも面白さや居心地を優先したい
──自分も街歩きが好きなので、気になるお店を見つけることもあるんですが、そこに入る勇気がないんです。居酒屋だと安心できるチェーン店や馴染みのあるお店に入っちゃって。お二人のそういう冒険心が出てきたきっかけは何なんですか?
清野:これはやっぱり、20代前半から赤羽という街で揉まれたからでしょうね。赤羽で暮らしていなかったら、今みたいに飲み屋に通ってなっていたかもしれないし、酒もそんな飲んでいないかもしれません。そっちの方が健全な人生ですけど(笑)。
──例えば、どんな経験をされたんですか?
清野:色々あったけど、最初に衝撃を受けたことは、カウンターの中に気軽に入らせてもらったことですかね。普通は聖域じゃないですか、飲食店のカウンターの中って。
──はい。
清野:こんなに簡単に入っちゃっていいの!? ってびっくりしたし、「ちょっとネギ切って」とか「冷蔵庫から好きなの取って勝手に食って」とか。んで、店主は客席で寝てる(笑)。そんなテキトーな店主だから、周囲のお客さん同士に奇妙な連帯感が生まれて仲良くもなりやすい。そうやって一つのお店を起点に、その街での知り合いが徐々に増えていくRPGのような楽しさと喜びを知りましたね。お店って、人って、街ってこんな面白いんだって。
パリッコ:僕もやっぱり、清野さんと飲み歩いた赤羽には多大なる影響を受けてます。僕が酒場ライターっぽいことを始めたのは15年ぐらい前だと思うんですけど、当時の記事を振り返ると、けっこうコスパを気にしてるんですよ。今は絶対そういうのは書かないんですけど。
──最初は安くておいしいお店を紹介していたわけですね。
パリッコ:そうです。「重視するのは、まずは安くておいしいこと、続いてお店の居心地」みたいなことを書いた記事がWEB上に残っていて、できれば消してほしいくらい(笑)。それがどんどん逆転していって、とにかく集まる人やお店の人が面白いかとか、磁場が合うとか、そういうのばっかり気にするようになっちゃいました。
常連さんのいるお店に「ちょっと寄らせてもらう」
──でも、常連さんのいるお店ってハードルが高いというか、「邪魔しちゃったら申し訳ない」みたいな気持ちがあるんですけど、いちげんさんとしてのお作法みたいなものはありますか?
パリッコ:その「邪魔したら申し訳ない」という気持ちがあれば絶対大丈夫ですよ。
清野:あとは、周囲にかろうじて聞こえるくらいの声量で、さりげなくお店を褒めることですかね。パリッコさんがよく言ってるんですけど「このコロッケ、今まで食べてたのとは別物だ! 最高〜!」とか(笑)。
パリッコ:いやいや、素直に言ってるだけなんですけどね(笑)。
清野:でも、それが自然な感じで伝わると、お店の人も喜ぶじゃないですか。ポジティブな感想は言葉として、ちゃんと出すといいですよ。
──友達と2人で盛り上がって「これ、おいしいね」みたいな話はするんですけど、なかなかそこから外に広がっていかないんですよ。
パリッコ:個人的には、別に広げる必要もないと思うんですけどね。酒場の楽しみ方って色々だから、ひとり黙々と飲むのもまたいいし。だけど、2人で「おいしいね」って盛り上がっているならば、ちょっと手の空いてそうなタイミングの店主さんにそれを伝えれば、そりゃあ嫌な気はしないですよね。そこから会話が広がっていくこともあるという。
清野:あとは、近くの席にいる常連のおじさんが大きめな独り言をつぶやいたりするんですよ。テレビとか見ながら。「誰か俺の話に食いついてきてくれ〜」と言わんばかりに。そういう場合は素直に食いつかず、その独り言に対して、こっちも内容がかぶるような独り言を聞こえるように返すとかもありますね。お互いの独り言がいつの間にか会話になって、気づいたら飲み交わしてるような流れが理想ですね。
──そういう楽しみ方はお店の値段や口コミでは測れないですもんね。
清野:「その日、どんなお客さんがいるか」によっても、お店の印象や出来事も全然違ってきますからね。
パリッコ:一期一会ですよね。でも本当に不思議なのは、どんなお店にも必ず常連さんはいるんですよ。
清野:開店して3日目くらいの居酒屋で常連風吹かせてるオヤジにも遭遇したことありますよ。「ここのお店は○○がうまいんだよ! 兄ちゃんたちも食ってみ! あ、ママ、俺には締めのいつものやつ!」とか。もうビュービュー吹かせてましたね。
──たった3日で!
清野:みんな、居場所が欲しいんですよ。人と話したくて、自分の存在を知ってほしくて必死なんですよ。
パリッコ:そういう居場所にちょっと寄らせてもらう、みたいなスタンスが大事なんだと思います。
まだ知られていないお店を発掘したい
──そんなお二人が考える、いいお店探しのコツがあれば教えてください。
清野:ほとんど適当に、勘で選んでるような気がしますね。強いていうなら外観からにじみ出るような雰囲気とか、あとは手書きのメニューやあいさつの文章とかから店主の人格や酒や料理のテンションとかを勝手にプロファイリングしてみたり(笑)。
パリッコ:文字はけっこうお店の個性が出ますよ。
──どういう文字がいいんですか?
パリッコ:人柄が顔に出るのと一緒ですよね。例えば僕は、あまり達筆というわけじゃないんだけど、ものすごく丁寧に、几帳面に書かれた日替わりのメニューボードなんか見ると、それだけで胸を撃ち抜かれてしまいます。
清野:何か法則性があるわけじゃないんですよね。こればかりは場数を踏み続けて勘を鍛えるしかない……!
パリッコ:その街とそのお店との一期一会の出会いを楽しもうというマインドですよね。あくまで僕らにとっては、こんなに楽しい遊びはないので。
──入ったお店が良くても良くなくても、どっちにしても楽しいと。
パリッコ:良くないお店の方が、記憶には残りますけど(笑)。
清野:いいお店ばっかり行ってると、それに慣れてしまう部分もあるかもしれないですよね。色んなお店に行くことで緩急が生まれて、さまざまなお店を相対的に楽しめるというか。
──あとはお話を聞いていて思ったのが、「この人たちと一緒に飲みに行けば、どんなお店でも絶対に楽しい」っていう安心感があります。
パリッコ:それはあるかもしれないです。僕は、清野さんと飲みに行けば絶対に楽しいに決まってると思ってるし、今回の本で赤羽以外でもそれを証明できたのは嬉しかったですね。
清野:何が起きてもそれを楽しいと思ってくれる人と飲みに行けるのは、本当にシアワセなことですよ。
──ちなみに、お店選びを通じて満足感を得られる瞬間ってどんな時ですか?
清野:色々あるとは思いますが、「こんなところにこんなお店があったんだ!」というような居酒屋やスナックを見つけて、それが期待通り「イイお店」で、お店を出てからネットで調べたらお店の情報が一切出てこなかった時とか最高ですね。「手付かずのお店、見つけた!」って思えて。
パリッコ:「俺たちのお店、発見」って。いや、実際はもちろん違うし、そういうお店にもちゃ〜んと常連さんはいるんですけど。
清野:今の時代はネット上で何かしらの情報がほぼ確実に出てくるんですけど、店名と住所と電話番号が申し訳程度にのっかってるくらいのお店がたまーにあるんですよ。それが新しいお店ならまだわかるんですけど、古ければ古いほどゾクゾクします。長い間、商売が続いているのに、誰も口コミを書かないってどういうことなのか? 行った人全員が隠したくなるほど素晴らしいお店なのか、エアポケット的にたまたま誰にも発見されなかったのか、それとも全然別の理由なのか。そういう想像するだけで、ワクワクゾクゾクしちゃいますね。
お二人と実際に飲みに行ってきたら……
取材の途中に「飲みたくなってきちゃったな」「この後ひっかけていきましょうか」なんて会話がお二人の間でありました。これはもしかして、千載一遇のチャンスなのでは……!?
と思って、勇気を振り絞って「もしこの後飲みに行かれるのなら、わたしもご一緒させてもらっていいですか?」と声をかけてみたところ、ご快諾いただき飲みに行くことに。(取材相手とそのまま飲みに行くなんてことある!?)
取材場所から電車で約1時間。(居酒屋選びにどんだけこだわってるんだ……)
お二人がおすすめだという居酒屋に行ったのですが、店内は大盛況。
「この後に予約が入っているので、1時間だけなら大丈夫です」との案内を受けて入店したのですが、盛況なだけになかなか店員さんがつかまりません。しかも、他のお客さんの声が大きいせいで、なかなか会話が聞き取れません。
刻一刻と迫る1時間のタイムリミット。そして空になったままのグラス。2杯目が来たのは、なんと退出時間の5分前。おすすめのお店だったにもかかわらず、この日はどうも間の悪い結果に……。そんな時にお二人はどうするのでしょうか。
「もう一軒行きましょうよ」とニコニコしながら歩き出すパリッコさん。「あそこはもう誰にも『おすすめぬ店』ってことにします」と露骨に手のひらを返す清野さん。
お二人の掛け合いのような会話が面白くて、何となく消化不良だった気持ちも明るくなり、わたしもつい「ようし、このままもう一軒行くか」なんて気持ちに。
パリッコさんが大切にしている居酒屋での心得
二軒目に向かったのは、町中華というには新しすぎるチェーン店のような店構えの中華料理屋さん。
後に全員が「普段だったら絶対に入らない」と口をそろえたお店に入ったきっかけは、「店構えを面白がっていたら、偶然店員さんと目が合い、その目に呼ばれた気がしたから」という理由でした。
ところが、これが大当たり。出てくる料理は何を食べてもおいしかったのです。なんでも、有名店出身の方が料理を作っているんだとか。
3人で舌鼓を打ち合ってたところ、お店の中国人のおばちゃんから「あんたたちどこから来たの?」と尋ねられました。
「赤羽です」と答えると、「そういえばこの前、赤羽の漫画家が来たぞ」「セイノと名乗ってたな」と言われ絶句する清野さん。
「えっ、清野さんここ来たことあるんですか?」「初見だよ!」「まさかドッペルゲンガー……?」とソワソワしだすわたしたち。
おばちゃんがその「セイノ」と一緒に写真を撮ってもらったというので見せてもらったところ、清野さんの長年の赤羽の飲み仲間だという男性が、悪意ある満面の笑みで写っていました……!(笑)
居酒屋で楽しむための心得
お二人と飲んでいて感じたのは、場を盛り上げようとする「おもてなしの力」でした。お店のおばちゃんと気軽に話をしたと思ったら、自分にも話を振ってくれて。お店を舞台に「どうやったらより楽しい場を作り出せるか」を追求しているようにも見えました。
お店はあくまでも舞台装置の一つ。「その場所でどう楽しく過ごすか」と考えてみれば、緊張したり、尻ごみしたりする必要もないのかもしれません。
最後に、パリッコさんがトイレに立った時に清野さんがつぶやいた言葉が印象的だった。
「パリッコさんのお箸とおしぼり、きれいにそろっているなあ。お箸やおしぼりの状態は酔いのバロメーターだから、あれがバラバラだったら酔っぱらいでイイお客さんに見られないかもしれないし。酔っぱらってる時ほどきれいにそろえとくべきですね」と。達人の心得、深すぎます!
まとめ
お二人が語る街の楽しみ方はいかがでしたでしょうか? お二人のマインドやお店の楽しみ方を参考に、みなさんも気になっていたけれど、一歩を踏み出せなかったお店にチャレンジしてみてください。ではでは〜!
書いた人:少年B
食べることが大好きなフリーライター。「高カロリーなものを食す罪悪感をあらゆる屁理屈で肯定する宗教」セーフ教の教祖をしています。お腹がすくと凶暴になり、満腹になると眠くなる機能を搭載。
からの記事と詳細 ( お店選びで後悔したい、痛い目を見たい 清野とおる×パリッコが語るディープな町の飲食店の楽しみ方 - メシ通 )
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