電通で、クリエーティブ・ディレクター/コピーライターを務めている橋口幸生氏。彼が招待するのは、広告とはまったく別の世界で活躍している「言葉の猛者」たち。本連載では、隔月のペースで開催されるウェビナーの内容を、編集部視点で再編集。「新しいものは、必ず新しい言葉と共にやってくる」という橋口氏の視点のもとで、言葉の持つ力や、その可能性についての考察を深めていく。
第7回の本稿では、外資系企業を中心に、マーケターとして活躍中の井上大輔氏と橋口氏の対談内容から、コピーの持つパワーと魅力について紹介していきたい。マーケターとクリエイター。なんとなく「犬猿の仲」のような関係だと思われがちだが、その対談には、意外な発見があった。
文責:ウェブ電通報編集部
「自分が好きなものと、世の中が好きなものは、ちがう」(井上大輔)
対談の冒頭で橋口氏は、井上氏がSNSへ投稿した書き込みの一節を紹介した。「あなたを幸せにしてくれるのは『あなたが本当にやりたい事』ではなく、『みんながあなたにやって欲しいと思っている事』。最も多くの人が、他でもないあなたにやって欲しいと思っている事、こそが天職」というものだ。
井上氏は、現在44歳。かつてはミュージシャンを夢見ていたという。「一般受けゼロみたいな尖(とが)ったバンドをやっていたんですよ。でも、それを認めてもらうだけの才能が僕にはなかった。つらいことだけど、最終的にそう断じたのは自分自身だったんです」
井上氏の告白に、橋口氏はこう応じた。「僕自身も、学生時代、六本木でDJをしていました。当時のレコード店で、POPを書いていたことも。今思うと、それがコピーライターとしての原点だったのかもしれません」
井上氏は言う。「当時は、試聴なんかできなかったですからね。ジャケットのビジュアルやコピーなどを頼りに買うしかなかった。でも、そうしたことがある意味、橋口さんも僕も、今の仕事につながっているのかもしれませんね」
大学生の頃、六本木某所での一枚。(橋口氏)
「人気コンテンツは、二極化する」(井上大輔)
音楽の話から井上氏は、こんなことに言及した。「一般受けと先鋭とはちょっと軸がズレた話ですが、いま世の中の人気コンテンツって、シャローな(浅い)ものとディープな(深い)ものに二極化してると思うんです。どちらが良い悪いではなく、それぞれ良いものとして。かつ、同じ人がシャローを消費するときもあれば、ディープを消費するときもある。
シャローは例えば短尺動画で、ディープは「MCU」(※)とか。後者は設定が入り組んでいて、簡単には入り込めないんですが、一度入り込んだら没入できます」
その指摘に対して橋口氏はこう返した。「シャローとディープをつなぐ、なんらかの接着剤が必要なんでしょうね。キャラクターみたいなものも、ある種の接着剤なのかもしれない」
井上氏はこう答える。「メガヒットになっているアニメの多くは、シャローとディープが同居してると思うんですよね。裏の設定や世界観の作り込みはディープ。一方で、見たことのない子どもも「ごっこ遊び」をするように、キャラクターのインパクトが強くて、そこはシャローな魅力です。キャラクターは、アイドルでいえば『人格』ですよね」
橋口はそれを「むちゃくちゃ魅力的な、友達みたいなもの」と表現した。「最近、人気があるアイドル・グループは、メンバー同士がすごく仲が良いという特徴があります。そして、その様子をソーシャルメディアで公開している。それを見ていると、自分も仲間の一員になったような気がして、つい応援してしまうのだと思います」
※MCU(Marvel Cinematic Universe):アメリカの「マーベル・スタジオ」が制作するスーパーヒーロー映画などの作品群。
「人格とパフォーマンスは、もはやひとつのもの」(橋口幸生)
アイドルの話から、橋口氏はこんな展開をする。「商品開発や広告制作にも通じることだと思うんですけど、人格とパフォーマンスは、もはやひとつのものだと思うんです」
いわゆるブランド論のようなものは耳にたこだが、こう解説してもらうと分かりやすい。確かに物を買うとき、もちろん、機能や価格、味といったパフォーマンスも大事だが、その商品や企業の「人格」のようなものに引かれて、あまたある類似商品の中からお気に入りを選んでいる気がする。
「ある人気グループのオーディションですごいなと思ったのは、審査基準に、歌やダンスと並列で『人格』が入っていたことです」と井上氏は指摘する。「今の時代、SNSを通してどうしても自分の素がでてしまう。だから人格の魅力が、そのままセレブリティとしてのその人の魅力につながってくるのだと思います。これは、会社や商品の『人格』にもいえるかもしれませんね」
業種を問わずビジネスパーソンの基本的姿勢が学べる一冊です。(橋口氏) 「利用される」でも「依存される」でもなく「必要とされる」。そういう人になることで、「やりたいこと」がなくても輝ける。そんな生き方を提唱しています。(井上氏)
「説得されることを願っている人などいない」(井上大輔)
人格の話題から、プレゼン術について話が及んだ。「普段多くの人を相手に話をする人に共通しているのは、『感情で話す』ということだと思います」と、井上氏は指摘する。「データ」や「ファクト」、「ロジック」だけではなく、そこに感情を織り交ぜる。
プレゼンをするとき、人はつい説得しようとしてしまいがちなのですが、想像してみてください。家電とかを選んでいるとき、店員さんに説得されたい、と思うことってありますか?説得してくる店員さんがいたら嫌ですよね。反対に、「この商品、あまりに気に入って、実家の母に贈ったんですよ。そうしたらとても喜んでくれていまして」……みたいなストーリーを語られると、心をぐっとつかまれる」
分かります、分かります、と橋口氏。「広告制作でも全く同じで、説得アプローチよりも腹落ちアプローチの方が効く、といわれています」。確かに、テレビCMって、説得アプローチのものはほとんど見ないですよね、と井上氏は答える。
「ストレートトークという、商品のベネフィットを直接語る手法はありますが、それがなぜあえてストレートトークといわれるのか。それって、感情に訴える、それゆえ商品のベネフィットをストレートには伝えないアプローチがより一般的だから、だと思います」
「満場一致の企画は、あまり世の中に受け入れられない」(井上大輔)
「会議で満場一致の企画って、意外とうまくいかなかったりしませんか?それも説得アプローチに近くなってしまうからかもしれません。」と井上氏。
「『いいでしょ?ね?ね?みんな最高だと思ってるんですよ。だから、ほら、あなたも気に入ってください』みたいな雰囲気がでてしまう。反対意見があると、会議室でもまれるなかで、説得されたくない、という受け手の気持ちに企画者がマインドフルになる、というか」
「僕にも思い当たる節があって、誰もがついつい、やってしまいがちなことですよね。でも、それを防ぐには、どうしたらいいんですか?」という橋口氏からの最後の問いかけに、井上氏はこう返した。
「やっぱり相手と対話することだと思うのですが、具体的には仮説を立てて、それをもとに事前に相手と対話することですかね。商品をつくる前に、消費者インタビューをするイメージです。相手を喜ばせたいと思っていたら、本来何かを決めつけたり、説得しようとしたりはしないはずです。これでいいかな?喜んでくれるかな?って不安になるのが人情じゃないでしょうか。そんな不安を、むしろ武器として活用していくといいのではないでしょうか」
本連載は、「言葉最前線」と題されたウェビナーの内容を、主催者でありMC役でもある橋口幸生氏(CXCC局)の監修のもと、ウェブ電通報独自の視点で編集したものです。
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