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Tuesday, March 29, 2022

【深層心理の謎】なぜ人間は〝人目〟を気にするのか?|@DIME アットダイム - @DIME

kukuset.blogspot.com

“眼力”というのか“目ヂカラ”と言えばよいのか、近くで見れば「ヘビににらまれたカエル」のような気分にならないこともない。ちょうど目の前に現れた防犯ステッカーの鋭い視線を少しの間、一身に浴びるはめになった――。

交差点の信号待ちで「ヘビににらまれたカエル」になる

 正午過ぎに練馬区某所にある仕事関係者の事務所を訪れた後、帰路に乗った西武新宿線を新井薬師前駅で降りた。穏やかに晴れた午後、この後は急ぎの用件もないし、少し街歩きを楽しんでからどこかで何か食べてもいいのだろう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 駅前を歩きながら、ジャケットの胸ポケットに収めてあった交通系ICカードを財布に仕舞うことにした。内ポケットから二つ折りの財布を取り出して開くと、何かの紙片が出てきて不規則に宙を舞いながら足元に落ちる。

 仕方なく腰を屈めて拾うと小さいサイズの防犯ステッカーだった。拾い上げてステッカーを確認すると、その鋭い眼光ににらまれる。先日入った立ち飲みの店で、隣り合わせた人と少し立ち話になり、その人がどういうわけかこのステッカーをくれたのだ。その人は某区で防犯パトロールの仕事をしているのだと話していたことを思い出す。

 駅の南口を右に進み、古本屋の軒先で少し歩みを緩めつつも駅前通りに向かう。しばらく手に持っていた防犯ステッカーを財布のスリットに収め、続いて胸ポケットのICカードもフォルダーに差してから財布自体をジャケットの内ポケットに仕舞った。

 東京に住んでいたり働いている者なら何度も見ているであろうこの防犯ステッカーは、歌舞伎役者風のギョロっとしたインパクトのある目元が特徴で、一度見たら忘れられない絵柄である。街を歩いていても建物に貼ってあったり、車のボディに貼られていたりするのをけっこう見かける。

 駅前通りを右へ行けば踏切りを渡ることになるが、とりあえず左に進むことにする。ほぼ地元の人々しか利用しないであろう住宅地を貫く商店街が延びている。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 少し歩くとすぐに交差点がある。歩道の上ですでに信号待ちをしている自転車があり、あまり近づかない距離で立ち止まった。

 信号を待っている間、車道に宅配便の軽ワゴン車がやって来て停止線で止まった。自分のすぐ目の前にはワゴン車のバックドアがあるのだが、奇遇にもそこには今財布に仕舞ってあるものと同じ防犯ステッカーが貼られていた。車用なのかステッカーのサイズが大きいこともありそのビジュアルはなかなか強烈だ。

「犯罪を見逃さない!」というフレーズと共に、例によって歌舞伎役者の眼光鋭い眼差しがこちらをにらみつけていた。今の自分はもはや「ヘビににらまれたカエル」である。

 もちろん気にしないでいればどうということもないのだが、さっきもこのステッカーににらまれたばかりということもあり、真っすぐこちらを見つめるその視線を完全に無視することはできそうもなかった。信号が変わるまでの間のちょっと気の抜けない体験ということになるだろうか。

我々が“人目”を気にするのはなぜか?

 信号が青になり、防犯ステッカーが貼られたワゴン車が走り出し前方へと去っていく。当然だがステッカーの眼光がいくら鋭くとも、もはや我が身には届いてこない。

 印刷物や映像の人物の視線は現実の状況とは異なり、いわゆる“カメラ目線”になっているとそれを見た者は、どの角度から眺めても自分が見られていると認識するものだ。先ほどの車のバックドアに貼られていた防犯ステッカーも、自分は斜め後方から見ていたのにその視線は自分に浴びせられていた。そしてもちろん、受け手側としては自分に向けらている視線のほうが、あらぬ方向を見ている視線よりも強い印象を受けるだろう。

 それだけに我々は他者の視線が向かっている方向を、敏感に察知しているということになるのだが、そこで重要な役割を果たしているのが眼球の“白目”の部分である。最新の研究では我々は円滑なコミュニケーションのために眼球の白目からもたらされる情報を大いに活用していることが示されていて興味深い。


 私たちの目の白目(強膜)の重要性は何ですか? 研究者が以前から興味を持っていた質問です。最近、比較心理学者の狩野文浩博士が率いる研究チームが謎を解明することに成功しました。白目はその基本的な色の特性を通じて視線の方向の可視性に決定的に貢献しています。

 私たちが他の人と話すとき私たちは通常、お互いにアイコンタクトを維持します。私たちは誰が誰を見ているのか、そしてその人が「目の言語」を使ってどのような無言のメッセージを表示しているのか、またはどのオブジェクトを見ているのかを正確に知っています。これを伝えることで、人は相手の視線の方向をすばやく明確に特定できるようになります。

「これは(この機能は)白目が形成されたためです。人間は、同種のコミュニケーションのためにこの際立った目の特徴を進化させたのかもしれません。そうすることで、人間はおそらく彼らの特徴的な社会的活動に不可欠なユニークなコミュニケーションスタイルを進化させてきました」

※「University of Konstanz」より引用


 独・コンスタンツ大学と京都大学の研究チームが2022年3月に「eLife」で発表した研究では、人間とチンパンジーが参加した実験で、我々は相手の眼球の白目(強膜、sclera)の状態を敏速かつ正確に把握していることが示されている。我々の眼球の白目は相手に視線の向かう先をわかりやすく伝える役目をはたしているというのである。

 人間とチンパンジーが参加した実験では、人間とチンパンジーの顔の画像の目の様子から視線の向かう先を判別するテストが課された。

 まぶたが開いている時の眼球は、たとえばパンダや馬のように動物はほとんどが黒目が占めているケースが多い。それでもチンパンジーの目は瞳と眼球部(強膜)の違いが識別可能で、実際に人間もチンパンジーも画像のチンパンジーが正面を見てるのか、それとも別の方向を見ているのかが判別できることがテスト結果からわかっている。

 そして人間の目は瞳と白目のコントラストが著しいこともあり、チンパンジーにとっても同じチンパンジーよりも人間の目のほうが、その視線の向かう先を迅速に識別できることもまた判明したのである。

 こうしたことから白目の白さの度合いは、種を超えて視線の向かう先を分かりやすくするものであり、コミュニケーションにおいてメッセージ性を補強するものであることが示唆されてくるのだ。基本的に我々は“人目”を気にしており、その視線がどこに向けられているのか、ましてや自分を見ているのかどうかを実に敏感に察知していることになる。

町中華チェーン店でチャーハンとレバニラ炒めをいただく

 通りを進む。交差点を左に曲がった通りにも飲食店がいくつか並んでいるが、ひとまずは真っすぐ進むことにしよう。入りたくなる店が特になければまた引き返してくればよい。

 こぢんまりとした商店街だが意外にも居酒屋が多い。喫茶店もあって食事もできるようだが、今はそれほどゆっくりはできない。喫茶店はまた次の機会にしよう。

 パチンコ店を越えてさらに先へ行くと某中華チェーンの店が見えてきた。店に近づき久しぶりにその看板をよく見ると、店名に並んで顔のイラストがあることに気づかされる。片目を閉じているその顔の一方の目には“白目”があり、下を見ていることががわかる。その視線の先にあるのはもちろん店の入口だ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 この顔は自分の視線の向かう先をその目で示すことにより、見た者を店へと誘っているのかもしれない。その誘いはむしろ歓迎だ。そういえばチャーハンが食べたい気もしてくる。入ってみよう。

 店員さんに声をかけてチャーハンとレバニラ炒めの単品を注文した。食事を終えてお会計を済ませたお客が出ていったかと思えば、それを埋め合わせるかのように新たなお客が入ってくるというパターンが2回ほど繰り返されている。お昼や夕食時はけっこう混雑するのだろう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 料理がやってきた。どちらも炒め物なので出来上がったほうから別々にくることも想定はしていたのだが、どちらも1つのトレイに乗って同時に運ばれてきたのはなんだか嬉しい。さっそくいただくことにしよう。

 それにしても、この店の看板にあのような“顔”が描かれていたことをこれまであまり気にしたことはなかった。このイラストに気づいたのも、やはり防犯ステッカーの一件があったからだろうか。そしてどちらのイラストの視線の先も白目の状態から判別できるのである。

 まさかあの防犯ステッカーが店内に貼られることはないとは思うが、あの鋭い眼光で見つめられながら食事をするというのはどう考えても愉快なことではない。その意味ではこの店もそうだが、カウンターが壁沿いにあったほうがプレッシャーが少ない状態で食べられるというものだろう。

 中途半端な時間の遅い昼食になってしまったが、店を出たら腹ごなしに少し歩いてから部屋に戻るとしよう。散歩中にあの鋭い眼差しに出くわさなければいいのだが……。

※画像はイメージです(筆者撮影)

文/仲田しんじ

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