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Wednesday, February 24, 2021

対談:Seiho × AOKI takamasa、DJたちが語る“まどろみ”|クラブ、社会、日常生活にある覚醒と睡眠の間 - Qetic

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Seihoの好奇心、探究心は尽きない。そして眠らない。
コロナ禍に今年6月から突如YouTube上で始まった深夜限定チャンネル『DESTINATION 最終目的地 瞑想 睡眠』が映像作品、アンビエント作品としてリリースされることとなった。

「眠り」にとりつかれたSeihoが対談相手としてあげた1人が、DJ、トラックメイカー、アンビエントの音楽家として世界的に活躍するAOKI takamasaだった。2人の会話は「覚醒と睡眠の間」でまどろみながら、寝ることについて、そしてDJがそこへ誘うことについて、さらには聴き手がどうあるべきか、どうあらざるべきかまでに及んだ。この2人による理知的な会話を超越したシックス・センス的とも言えるディスカッションほど濃いものを不勉強ながら僕は知らない。これは今ここにあるべき、2人による、いわば奇跡のような、魂の交信の記録であるのかもしれない。

対談:Seiho × AOKI takamasa

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DJとオーディエンスの共振

Seiho 今回、僕が映像作品を4本、今年の6月から発表してます。そのコンセプトは、「寝れない人が集まる場所」のような感覚で、毎日夜中の2時から5時までの配信をやってました。睡眠導入音楽としてではなく、SNSから距離を取るとか、いわゆるデジタルデトックスのようなものですね。でもそれをあえてデジタル上で表現したくて。「そんなスマホで動画見てないで早く寝ろ」ってことを動画内のメッセージなってます(笑)。つまりSNSとかデジタルデトックスしてそれをシャットダウンすればいいって訳じゃなくて、逆にSNSでコネクトしてる安心感というのもあるのかなと。

AOKI takamasa(以下AOKI) 寝られない人同士が繋がって、Seihoが寝落ちるのをみんなが配信で見ているってことやね。

Seiho そうですね(笑)。僕も最初のうちは本を読んだりPC触ったりしてるけど、最終的に寝落ちしていくんで。寝ながら見ている人たちとシンクしていくみたいな作品です。この「睡眠」をテーマにAOKIさんと話をしてみたいということで、今回の対談です!

AOKIさんに最初に聞きたいこととして、昨年、京都ホテルの部屋をプロデュースしてましたが、ここにはどんなコンセプトが?

AOKI 「BnA Alter Museum」ね。京都に新しくできたホテルで、「作品の中に泊まれる」っていうコンセプト。僕の他に15人くらいのアーティストが、二部屋もしくは一部屋を担当して、それぞれの部屋自体が作品っていう感じ。僕はそこで二部屋担当しましたね。

やっぱり今まで人が踊る場を作ってきたから、作品として部屋を作るとした場合、僕やったらやっぱり体験を生むような、感覚を刺激するような部屋がいいなと思って。例えば、奈良の清流の美しい河原にダブルベッドが置いてあって、そこで寝れたらめっちゃ気持ちいいなって。それをベッドの上にいながらにして体験できればと思って作った。あとは森の中の木がサーっと揺れる中で、ダブルベッドで寝たら最高やなって。それが最初のコンセプト。その場の空気感を録音した上で、立体的に再生することが最近のスピーカーでは可能なので。そういうのを宿泊者が体験できるような場を作りました。

Seiho それは睡眠というよりかは、ちょっとVR的な?

AOKI いや。どっちかっていったら目を瞑ることで音に集中できる感覚やね。音場・音波を通して肌で感じる空間に集中していく中で、起きているのか寝ているのかわからない状態に実際なる。そのリラックス感覚が結構心地良くて。自分が瞑想した時に、時間を忘れる瞬間ってあるやんか。「あ、今何分経ってたんやろ」みたいな。あの感じに自分がインスタントにでもなれたらなと思って。ちょうどホテルを作りはじめた頃って、京都が物凄い観光客の人たちがいっぱい溢れかえっていた時期だったから。ホテルの部屋に入ったら突然森林の中とか、川辺とか、海辺とか。そういうのが体験できたらいいかなって思った。

Seiho その音源自体はフィールドレコーディングが中心ってことですか?

AOKI フィールドレコーディングが4つ。そのうち、アンビエントの30分の曲が2曲。そのフィールドレコーディングとアンビエントが混ざった曲から選んで、両方体験できる。

Seiho 周波数帯によって、覚醒とそれが抜けた状態にいけるって取材前に話されてましたけど、AOKIさんは作品づくりでそういう研究されたりするんですか?

AOKI 文献読んだりもしたんだけど、やっぱり自分の体感というか感覚を一番の基準にしたね。今までの音楽もそうやって作ってたし。自分の体感で、体験として感じられる帯域を探しながら曲を作って。厳密に科学的に調査してそのことを選んだってわけではないけれども、部屋を体験された大体の人達が結構時間を忘れると言ってくれるんで、効果はあるんじゃないかな。

Seiho 僕も時間の感覚をどう変えるかっていうことを体感的に作っています。3分聴こうが1時間聴こうが、同じ体感時間の曲とか。AOKIさんのDJや曲を聴いていつもすごいなって思うんですけど、自分の感覚と人の感覚って絶対違うじゃないですか。そこ自分ではどんな風に捉えてるんですか。

AOKI 正直、基本は自分よがりやね。例えば現場でDJする時、ライブする時は、自分のマインドが人を包んで、そのうねりが人を動かしたり。現場にいる人たちとの共感覚として、オーディエンスが自分の感覚を共有してくれてるような気がしている。自分よがりになってんねんけれども、同時に、音を変化させるタイミングとか、スピーカーの向こうにいる人たちを想像の中で包み込みながら作ってる感覚はある。

Seiho 僕も20代の頃はステージとオーディエンスをどうやって盛り上げるかを意識してました。オーディエンスから見たときのステージを作ってたというか。でも今は、両方が共犯関係になってる場をどうやって作るかみたいなところに意識が向いている。

AOKI やっぱり相乗効果やね、コミュニケーションの。

Seiho 両方が加害者になっている状態のものを作りたいという感じ。両方がアクションして、両方がエフェクトされてる状態のような。お客さんがクラブに音楽を聴きに来てるというよりかは、お客さんもどうやってクリエイティブに参加してもらうか、みたいな。そこにようやく気づきはじめました。

AOKI 僕も若い時は正直、お客さんのことより、「これ面白いねんけど、どう?」みたいに、ただひたすら自分が発見した喜びをみんなに一方的に投げかけることが多かった。けど、どんどん現場を経験していろんな国のいろんな人たちの反応を見ていくと、やっぱりこれは一方通行だけでは成り立たない。相乗効果による魔法というか、無限ループ(フィードバック)というか。それがあるなと思うよね。

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まどろみ、瞑想、時間

Seiho AOKIさんが手がけてるミニマルって、盛り上げるっていうだけじゃなくて違う要素もあるじゃないですか。起きてる感覚と、寝てる感覚の中間地点というか。お酒を飲んでまどろんでる状態にするみたいな感じ。これを求めるお客さんは、世界中同じ形なんですかね?

AOKI だいたい酔っ払って踊ってる人って、同じマインドセットやと思う。

Seiho わかる。やっぱりそうですよね。

AOKI 昔はアートイベントも多かったから、芸術関係の人たちとクラブ現場関係の人たちとはマインドセットが少し違っているような印象やった。芸術関係の人たちは「どこの誰か知らんけど、なんか見せてくれ」みたいなとこがあるかもしれないけど、ダンスミュージックを楽しんでる人たちって、「どこの誰だか知らないけど、ちょっと一緒に遊ぼうぜ」みたいな。でも少しの違いはあれ、やっぱり人間ってなんだかんだ一緒なんだって気はしない?

Seiho 僕はどちらかというとAOKIさんの意見に賛成派ですね。

AOKI 催眠ってどの人間にもだいたい効くと思ってて。特にダンスミュージックに関しては、自ら酩酊状態になっていこうとする人たち。「催眠かからんぞ」って人じゃなくて、「催眠かけてくれ」みたいな人たちというか。だからそういう人たちはオープンやし、あのマインドセットっていうのはどの国の人たちも共通しているような気がするね。

Seiho 酩酊状態になったときに、人と繋がっているような感覚になるのと、シャットダウンされてディープにフォーカスする瞬間って両方あるじゃないですか。

AOKI それは個人差あるんちゃうかな。その人が何を望んでるかというのは関係あると思うよ。繋がりを求めてくる人もいるだろうし、あとはただ踊らせてくれって人もいるだろうし、周り関係なく踊りまくる人もおるし、肩組みながら喜んでる人もいる。

Seiho 瞑想状態にもいろいろあるってことですよね。AOKIさんは瞑想するんですか?

AOKI 瞑想しますね。

Seiho どういう感じで瞑想するんですか?

AOKI “今にある”。

Seiho “今にある”……?

AOKI 思考を止めた状態。呼吸やら、座っている自分の体重をお尻に感じながら、体の内と外の空気の流れを感じて、明日のこととか昨日のこととか全部考えてない状態。時々ない? ふと「ハッ」て、我に返る感覚になる時。それって、瞑想から覚めた時らしいんよ。瞑想っていうのは、“今にある“状態。思考が完璧に停止して、今この瞬間にあって、今自分がそういう状態だっていうのにも気付いてない状態がどうも瞑想らしい。それは実はいつでもできて、例えば歩いてる時とかでも、ただボーっとしてる状態になれる。音楽も何も鳴ってなくて、ただ風の流れをボーッと感じてる時とか。一番人間が瞑想に近い時って、美しいものに見惚れてる時なんやって。花とか太陽とか、ただボーっと思考が働いてない状態で見る。その状態を意識的に求めてるという。

Seiho すごい。それはめちゃめちゃ面白いなあ。

AOKI だから僕が参加させてもらった「BnA Alter Museum」の部屋の感覚も、結局自然物と向き合って、思考が働いてない状態をインスタントに生み出してる。ただ、スピーカーやベッドっていう要素は必要になってくるけど、それに依存した瞑想なのかなと。例えば、カーレーサーも今に集中してる状態になるけど、それは車っていう存在に依存してる。スポーツ選手で例えると、テニスとか、完璧に今に集中してるけど、テニスっていう行為に依存してんねん。でも本当のスピリチュアルのリーダーたちは、何に依存することもなく、ただ今にあることが出来るんやって。

Seiho なるほど。やっぱり何か物事に集中してる時はある種、瞑想状態に入ってるっていう。

AOKI でも何かに依存してる。例えばDJしている時も、曲作ってる時も、ライブしてる時も、いわば瞑想状態やねんて。感覚だけで手が動いてる、感覚だけで次のレコードが選ばれる状態。でもそれも、何かに依存した瞑想状態。本来人間は、自分がそこに依存してることに気づけばそこからも脱却できるし、今この瞬間で「はい、瞑想」って実はできるっちゃできる。

Seiho それってこう、明らかに時間が関係した話じゃないですか。時間の感覚がなくなるっていう。

AOKI だから時間は幻想。時間っていうのは宇宙的には存在しない。

Seiho ほー、なるほど。

AOKI 僕らの意識は有限な身体、人間っていう生き物・媒介に入ってる状態やから、どうしても時間を知覚せざるを得ない。でも宇宙的な視点から見たら時間ってないんじゃないかと。それに気づくのが今この瞬間に意識を集中して、肉体も思考も全て止まった状態。それが宇宙とつながるってことやねんて。

Seiho 面白い。

AOKI それが、エックハルト・トールとかジッドゥ・クリシュナムルティが説いてる教えの一部やねんけど、現代の哲学者で僕的に一番わかり易く説明してくれていると思うのがエックハルト・トールの『The Power of Now』っていう本、めっちゃおすすめ。時間=エゴという考えがあって、いかに人間がエゴに囚われて、今この瞬間を楽しめていないかってことが書かれてある。

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地球の体動と“サイクル”

Seiho 時間は幻想であり、だからこそポジティブな状態、今にあれっていうのが面白いですよね。睡眠の話に少し戻すと、ポジティブな状態じゃないと人って寝れないらしいんですよ。身体と筋肉と脳をオフにするには、最後は絶対にポジティブな状態じゃないと落ちれないらしくて。そんな話とつながってますよね。

AOKI 結局ね、寝ちゃうっていうのは、肉体が疲れて思考を維持できなくなってる状態に陥ってしまってるってことなんやろね。例えば、スマホ見てもテレビ見ても欲望と不安だけ煽られることが多い。それが現代社会やもんね。現代社会という、お金・数字ベースの社会がいかに狂ってるかということを、やっと地球人の多くが気づき始めてるんよ。

Seiho 僕もそうですけどAOKIさんも電子音楽じゃないですか。そこと、美しいものとか自然界のものとか関係性って、どういうふうに考えてるんですか?

AOKI 僕は結局リズムにしか興味がない。アンビエントでも結局、体動やうねりなどのリズムやね。自然界の音とかフィールドレコーディングとか、ある一定のところまで倍速したら16ビートに聴こえる。その16ビートは鼓動でもあり宇宙の運行でもあり、地球の体動でもある。結局は、それを自分が好きな雰囲気でどう表現するかだけの話であって、あんまりそれ以外は考えてないのね。だから「BnA Alter Museum」の音楽にしても、僕が表現したかったのは自然のフィールドレコーディングそのままの音と同時に、地球の体動を感じるようなうねり。それを表現できたらいいなと思ってたんよ。

Seiho めちゃくちゃ面白い。胎動やうねりがベースにあって、それを表現するっていう。

AOKI 「生命は生命からしか生まれない」って鉄則があると思う。で、地球がこんな生命に溢れてるっていうことは、地球は生き物なんよ。その生き物の体動って、やっぱり感じられると思う。人間も本来ね、地球っていう生き物の、もしくは地球を育む宇宙っていう生き物の大きな体動を感じて、それを拠り所に生きていく方が健康になれるんじゃないかと。「電気」って、それこそ地球の体動の結果なんじゃないかな。人間がこの宇宙や地球の体動を少しでも感じられるような音楽を、地球という生き物が当たり前のように持ってる「電気」を使ってできたらなと思っていて。

Seiho そうやって「電気」につながるのはすごいな〜。

AOKI 僕は、ニコラ・テスラがすごい好きなんですけど。彼は「地球はでっかい電池だ」ってことを発見した。北から南に常に電気が対流してて、それをただ取るだけでフリーエネルギーにできるらしいんよ、ほんまは。こういう考え方はこれまで「頭おかしいんちゃうか?」って言われてたけど、でもそうじゃないってことに気づいてきてる人たちが多くなったんじゃないかと思う。今、日々その状況に興奮してるんですよ。この資本主義という数字による奴隷システムが、あらゆるところで綻びはじめてること。ただのコンピュータ上にしかない数字を毎日追い求めて一喜一憂してる訳ですよ。それがおかしいんじゃないかって、やっと人間が気づき始めた今のこの状況。これを僕は、爆発的に推し進めてパーティーがしたいんよ。

Seiho パーティーですか?(笑)

AOKI 結局はパーティーしたい。「資本主義おかしいイェーイ! 気付いたイェーイ!」っていうパーティーをしたいんよ。

Seiho そこからパーティーに繋がるんですね!(笑)

AOKI ホテルに関してもそうだし、自分が作る音楽、自分が撮る写真、全てのコンセプトがそこにあります。

Seiho ちょうど昨日、筑波大学の睡眠研究所の柳沢教授と対談をしたんですけど、絶対に寝ない生き物はいないらしいけど、なんで寝るかっていうメカニズムはわかってないらしくて。その時にぼんやり思ったのは、例えば呼吸で考えたら、吸いっぱなしもないし、吐きっぱなしもないじゃないですか。だから明らかに……。

AOKI サイクルになってる。

Seiho そう! 覚醒と睡眠のサイクルがあるから寝てるし、寝てる間にもノンレム睡眠とレム睡眠っていうサイクルがある。だから絶対に「大きい波」なんですよ。そう考えたときに、資本主義社会が追い求めてるものって、波やサイクルになっていなくて、ずっと右肩に上げていこうというシステムだから、明らかに無理が起こるという話かなとは思いましたね。

AOKI もうひとつ、僕的にスピリチュアルな観点からの話で言うと、結局寝るのは、資本主義社会が生むストレスが原因なんよ。もし本当に人間が数字にとらわれてなくて、来月の家賃の事、ストレスがなくて、食べるものも買うものも必要ない。当たり前に宇宙から、自然から生まれるものを享受できる状態で、なんの化学物質を取り込むことなく、自らの体が常に宇宙と繋がったままで健康であれば、もはや寝る必要はないんじゃないかと思う。

Seiho 「寝る必要ない」、そう来ますか? その話はすごいですね……! ちなみに、AOKIさんの中で、植物と動物ってどう分けて考えてますか?

AOKI うーん、ひとつ言えるのは植物はどう考えても今この地球上で一番進化した生き物だよね。地球の表面を一番制覇してるし、食虫植物以外は誰も傷づけることなく、ただあるがまま。それって完璧じゃない? 「あげるあげる、食べものあげるよ」っていう、こんな愛に溢れた生き物ないやんか。人間みたいに奪って殺したりってことがないやんか。植物が進化して動物になったのか、もしくは動物が進化して植物になったのかわからへんけど、ただ進化論は間違ってるんじゃないかなと思うところはある。

Seiho それは、元々の種は元々の種としてそのままあったといえる?

AOKI それは謎やね。

Seiho 進化論じゃないとしたら、そういう話かもしれないですね。

AOKI きっとビッグバン以降、みんな同時に進化してるんよ。だから何も優劣がない。ビッグバンも「時間」っていう発想に囚われた結果、生まれた理論だから疑うところがある。無限っていうのを、僕らが有限の体の中にいるから理解し難いだけであって。有限よりも実は無限の世界の方が当たり前なんじゃないか。だからそう考えると僕はビッグバンはないような気がするし、いま存在する全てのものは同等というか、同じスピードで進んできた生き物だと思う。

Seiho なんか、寝ることと死ぬことの差みたいなことにもつながりそうです。

AOKI 死ぬのは幻想。死はありえないってことも考えられる。

Seiho 輪廻転生とか、生命として繋がっているみたいなことですか?

AOKI 人間が死ぬのを恐れるのって、芋虫が蝶々になるのを恐れるのと一緒やって話があって。ずっと芋虫、2次元(常に何かに接地して生きている状態という意味)でいたのが蝶になる事で3次元(空中にも生命活動の場が広がるという意味)になる。人間も同じで、物質に囚われていたのが死というプロセスを通して物質から離れるだけやけど、それを恐れてるらしい。そう考えると、睡眠は一時的な意識の死かもしれないね。物質を超えてエネルギーの世界、無限の世界にちょっと遊びにいくみたいな体験。そこでリラックスして「無限ええな」って気分になって、起きて「あ、やっぱり有限しんどいわ」って。なんかそういう感覚な気がする。

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個々の“覚醒”論

Seiho 睡眠研究の話の中で、プラセボ効果の話も聞きまして。医薬品になるまでの間には偽薬と本当の薬を治験して、それが偽薬よりも優れていたら製薬として売られるようになるらしいんですけど。その差ってほとんどないらしく。プラセボ効果ってかなり重要なところなのかもと。なので、やっぱりポジティブな思考とか、脳の使い方とか、ソフトウェアを訓練してハードウェアを改善していくみたいなことは、そもそも人間に備わってる力なのかなって思いますね。

AOKI 結局ね、ボディに魂が宿ってるんじゃなくて、魂がボディを統括してるらしい。それで、魂はものすごい能力を持ってる。だからマインドセット次第で瞬時のデトックスも可能で、薬を飲んで自分がそれを信じてたら、その信じるって力が体に影響するんじゃないかな。

Seiho AOKIさん、寝れない時は何するんですか?

AOKI 深呼吸。全身の力を抜いて、なるべく真っ直ぐ座して。で、全部の感覚を等分にする。例えばお尻にかかる重力だったり、手が膝の上に乗ってるこの感覚、左右の顎の力の入り具合、鼻を通る空気の感覚全部を平等に意識していく……。横になって全部を等間隔に満遍なく感覚的になるようにして。あと、宇宙から降ってくるエネルギーが脳天を通じて全身に伝わって、そのまま足の裏から全部抜けてって地面に帰っていくこの循環を、自分の中で想像する。そうしてるうちに寝てしまうわ。

Seiho 僕が作った作品も、睡眠導入のためじゃなくて、睡眠ということ自体を考えてみるみたいな作品で。コンセプトは寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』みたいなことなんですよ。この作品って反知性的な意味ではなくて、本で勉強した上で生に触れないと意味がないっていう、バランスの問題を訴えかけてる。だからSNSが持ってる「繋がってる感覚」っていうものを持ちながら、離れられるようになるって一体どういうことなんかな、みたいな問いなんです。漠然と思うのは、オンとオフのスイッチのまどろみの状態に、ひとりになっているのか、それともたくさんの人に囲まれているのか、その状態に僕は興味がある。

AOKI 僕的には、多分、個は幻想なんですよ。それこそ、資本主義を維持するために個があるっていう幻想を僕らは植え付けられてるだけで、別にSNSだけじゃなくても繋がってる。脳波で繋がってるんですよ、みんな。ただそれを知ってるか知らないかだけの話だけであって‥‥、音楽やってる人には伝わりやすいかな。自分のこの感覚がお客さんに伝わるんだ!ていうことをね。言葉だけじゃなくて脳が常に振動して、人それぞれの脳波が相乗効果を生んでるんじゃないかと。だから人類の意識から資本主義の幻想を取っ払いたい!人類がそういう意識状態の時できるパーティーはきっとすごい。

Seiho その時のパーティー……想像が……! AOKIさんの言うその「パーティー」は、「死ぬ」ってことではないんですかね?

AOKI 死ぬとはちゃうよ。

Seiho 「死」とは違うんですね。有限から無限に行くことがパーティーだとすると、そうなのかなと思ったところもあり……。

AOKI うーん、そうではないと思うねん。「無限がベース(基本)」ってことに気づくことじゃないかと? 気づくだけで覚醒する。無限がベース(基本)、でも僕らは全部、有限やって思い込まされてるんじゃないかっていう。

Seiho 僕はAOKIさんほど考えを深められてなくて。無限と有限ということについても。意地悪な質問になるかもしれないですけど、美しいものとかポジティブなものって、個体差がありませんか? 実際、主観に寄ってしまう感覚ってあると思うんです。個々の主観がバラバラな以上、みんなが同じ感覚で「パーティー」って本当にできるのかなって思って……。

AOKI 個々の主観がバラバラなのはその通りだと思う。バラバラやからこそ、全部が尊重されるのでは?

Seiho なるほど〜。多様性ですよね。

AOKI 本来、全部が等価に尊重されるべきなんですよ。優劣付けて、しょうもないことで競争させてる世界はどうかと。

Seiho でも人間以外にも、競争する動物はたくさんいるじゃないですか。

AOKI 彼ら(動物)は生きるために、自らの生命の営みを得るために競争してるように見えるだけで、不必要に殺したり溜め込んだりしてない。でも人間はどうでもいいことも、競争を起こして、優劣付けて、すごい状態だよこれ。その事に早く気づいてほしい。で、その気付きの状態でパーティーしたい。

Seiho 結局パーティーしたいんや!(笑)

AOKI 結局パーティーしたい。

Seiho そこから抜け出すのが難しいですよね。僕は、資本主義がなくなったところで、また次の搾取のシステムが始まっちゃうと思うし、もっと悪いことも起こりうるんじゃないかという気持ちも強いんです。

AOKI 結局あれやな。Seihoはその先にさらなる悪化を気にしてるのかもしれん。僕は違うかな。僕はただ、超覚醒パーティーをしたい! そういうことを望んでるだけやわ。

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Seiho AOKIさんが「パーティー」という言葉を使うのは特徴的だなと思っていて。無限の状態に出ていくには、一人では出られない人もいるんじゃないかと思っちゃう。“気づくこと”は、誰かから言われて気付けるものじゃないから。ここが結構、議論のポイントじゃないかと思ってて。結果的に“気づくこと”は個人でしかないとすると、その先が「パーティー=集合する」ってことと乖離しているような気がして。

AOKI でもそれもやっぱり、自由なんやと思う。結局ね、誰も何も強制できないからさ、誰にも。で、毎日悩んでる人って悩むの好きな人なんじゃないかな。悩んでる自分が好きな人が毎日悩んでるじゃないかと。僕、悩んでる自分嫌いで、それがめっちゃめんどくさい。だから悩みたい人はどんどん悩んだらいいと思う。ただ「もう無理!」ってなる時が来ると思う。多分40、50なったらSeihoも、正直「もう悩みたくない!」って思うよ(笑)。

Seiho AOKIさんの仰るようなことに、僕もシフトできると良いかもしれないけど、そのロジックと同じようなロジックで、世界が成り立ってるっていう矛盾が気になってしまうなあ。無限の方に出たいとか、幸せになりたいってことを望むことこそが、資本主義のロジックと重なるっていうか。だから、単に有限から無限に出ていくという行為自体がすごく難しい。

AOKI 数字が幸せだと勘違いしてたらそうやね。それはもう支配者による催眠やと思う。

Seiho それで言うと、この無限に出るって言うロジック自体も、ある種の催眠がないと出れないんだと思うんですよね。

AOKI 「目覚める」と「催眠にかかる」とはちょっと違う気がするなあ。催眠は目の前のものを見えなくさせるのよ。催眠にかかるって目の前のものが見えなくなる。実際はあるのに。それは覚醒とは別。覚醒は目の前にあるものが見えてる状態。

Seiho でも覚醒っていう状態は、本人しかそうしむけられないじゃないですか。

AOKI 誘導はできると思う。

Seiho 誘導する行為と、催眠が似てるなって。

AOKI なるほどな。

Seiho みんなを覚醒の状態に誘導するっていう行為自体が、そもそも催眠にかける状態とロジック的には似ちゃう。僕もホントは覚醒できた方がいいと思うけど、でもどうやってロジカルに覚醒の方にいけばいいのかって考えますね。

AOKI 誘導するとか、みんなを連れていくとかじゃなくて、自分がそう在ったららみんなはそうなっていくんじゃないかと。だってその方が楽だし、悩んでる人について行こうと思う?

Seiho 最初の方で話にあった、AOKIさんのDJの話がまさにそうですね。AOKIさんのDJはすごいし、AOKIさんのフィーリングをみんなが感じられるからすごく良くて。その話に全部繋がってるのかなと思いましたね。

AOKI やっぱりマインドやね。波動じゃないかな、結局。本人がどういうマインドセットであるかが、波動を通してみんなに伝わっていく。やっぱそれやと思いますわ。で、僕が求めてるのは覚醒によるパーティー。それを、音楽やあらゆる方法で表現したい。

Seiho 毎回DJをやる度に、AOKIさん自身も、お客さんも、同じ空間で覚醒してるって感じですか?

AOKI 覚醒は人それぞれ。ただ僕は、みんなにストレスのない状態になってもらいたい。人間ってね、踊る時って恐怖がない時らしい。変にかっこつけてる人って踊れないらしい。周りからどう見られてるかっていう不安な状態。多くの人間が陥ってしまっている牢獄なんじゃないかと思う。そういう牢獄に自らいる人は踊れないんじゃないか。僕はただ、みんなが爆踊りしてる状態を作りたい。それはもう覚醒なんじゃないかと、インスタントな。音楽に依存した覚醒。その感覚をそれぞれが探せる、日々の生活の中でね。それがええんちゃうかな!

Seiho こんな風にAOKIさんと話したことなかったから、めちゃくちゃ良かった! 延々に聞ける、終わらない(笑)。ありがとうございました。

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Seiho – DESTINATION 最終目的地 THREE 瞑想 睡眠

Seiho – DESTINATION 最終目的地 FOUR 瞑想 睡眠

Interviewed by 名小路浩志郎
Photo by 中村寛史

PROFILE

AOKI takamasa

1976年大阪府出身。2001年初頭に自身にとってのファースト・アルバム 『SILICOM』をリリースして以来、LIVE, DJ、楽曲制作を中心に国際的な活動を続ける。2004年〜2011年はヨーロッパに拠点を置き、2011年に帰国。国内外のアーティストのremix, プロデュース、ミキシングも担当。Bun/Fumitake Tamuraとのユニット”Neutral”での活動も進行中。写真家としても活動。

公式Instagram | 公式Twitter

Seiho

大阪出身のアーティスト/プロデューサー/DJ。
米 Pitchfork や米 FADER など多くの海外メディアからのアテンションを受けながら、LOW END THEORY、SXSWといった海外主要イベントへも出演。
国内外問わずアーティストのプロデュースやリミックスを手がける他、ファッションショーや展覧会などの空間音楽、映像作品の音楽プロデュースも行う。 自身でもインスタレーション作品を発表するなど、音楽家の垣根を超え、表現の可能性を追求している。

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