小泉智貴「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」デザイナーは、2017年にスタートした「WWDジャパン ネクストリーダー」の第1回の受賞者だ。あれから3年。この間の目覚ましい活躍は多くの人が知るところである。2019-20年秋冬シーズンにケイティ・グラント(Katie Grand)などから支援を受けてニューヨーク・コレクションでデビューを果たし、2020年LVMHプライズではファイナリストに選出された。昨年は「エミリオ プッチ」でカプセルコレクションを発表するなど活躍は見事にグローバルだ。その小泉が今年「WWDジャパン ネクストリーダー2021」で審査アドバイザーを務める。世界を見てきたデザイナーが考えるリーダー像とは?
WWDジャパン(以下、WWD):この3年であなたを取り巻く環境は大きく変わりました。
小泉智貴「トモ コイズミ」デザイナー(以下、小泉):作っているものは変わらないけれど、ブランドの扱いや位置づけは確かに変わったと思います。型にはまらない、いろいろな境界線を超えられるモノを常に目指したことが目を引くきっかけになったのかな、と思う。自分は大きいドレスや派手なものがやはり好き。それを作って売ろうと思ったとき、特に日本には需要や市場がない。だからと言って自分がやりたいことを変えるのではなく違う市場に持っていくなど工夫することで自分の“やりたい”を生かしてきました。もうひとつ、常に気をつけたことはコスチュームであってもファッションとして扱えるもの、雑誌で言えばエディトリアルページで使えるものであること意識した点でしょうか。
WWD:なければ自分で市場を創る意識もある?
小泉:それはありますね。衣装でも仕事が入ってくるのを待つのではなく、先にサンプルを作って「こういったものを作れますよ」と見せて需要を呼び起こす。目に見えるモノがないと話は始まらない世の中だから、コストと時間をかけるリスクを取ってでも先に見せるのが自分の戦略だった。
WWD:プライズの受賞がクリエイションにもたらした影響はありますか?
小泉:それによってクリエイションが変わることはありません。プライズはどちらかと言えば、自信をつけて、信念を強めてくれるものだと思う。自分のデザインはファッションの王道ではなく、オルタナティブな要素が強い。服飾学校を卒業していないし、横のつながりも少ない。孤独は常にあり、新しいことをしようとすると孤独になることは早いうちから自覚していました。自信がないからこそ頑張るんだけど、そんな自分を認めてくれる方がいる。ましては権威のある方が認めてくれると「これを続けていいんだ」と安心します。だからといって、何かを変えることはありません。
WWD:ケイティ・グランドやマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)などリードシップがある人たちと多く接してきたと思いますが、リーダーシップある人の共通点とは?
小泉:自分の立場や持つ力をいいことに使う、社会に還元する人たちだと思う。ケイティも当初から純粋に“業界に話題を作って盛り上げるためにやろう”という感じで、後日一緒にビジネスをするという話にもならなかった。その姿勢には影響を受けたから、自分も還元したい。今特に新型コロナの影響もあって自分より下の世代が夢を持ちづらいですよね。「いいものはいいと言う」人の存在は重要。自分が若い時に“こういう人がいたらいいな”と思う人でありたい。昨年10月に合同展示会イベント「ルームス(rooms)」で若手デザイナーの発掘・育成プロジェクト“SPOT LIGHTS by TOMO KOIZUMI”をスタートしたのもそういった思いがあります。まだ経験は浅く手探りだけど、やれること始めればいい。
WWD:若手のデザインのどこを見ますか?
小泉:世界基準でオリジナリティがあること。どうせ作るならどこにもないものを作って欲しい。自分もそういうつもりで頑張ってきた。日本だったら通用する、のは自分がやりたくないかな。
WWD:「WWDジャパン ネクストリーダー2021」では今回から自選他薦を受けつけます。他薦を受けて“自分はまだその器じゃない”と思いあぐねている人に一言。
小泉:多分、声がかかる時点でその資格があるのだと思う。ショーをやろうと声をかけてもらった時もびっくりしたけれど、最終的には作ったものが語ってくれるのが一番だと決めた。自分はどちらかというと職人スタイル。物が先に語り、後からついてくる。特に今は、言葉はなくともその魅力がグローバルに伝わる強さが必要だから、デザイナーで迷っている人がいたらまずはモノに語らせたらいいと思う。
WWD:最近「トモコイズミ」を着用したアーティストは?
小泉:ファン・ビンビン、オークワフィナ(Awkwafina)、シーア(Sia)、ケイティ・ペリー(Katy Perry)、渡辺直美ら、日本と海外で半々ずつ。
WWD:「トモコイズミ」着た人たちが世界中に散らばる中、思うことは?
小泉:直接会って交流できない国でアイコン的な人が着てくれて、写真が存在する。それを見た人が何かしらのメッセージを受け取ってくれたらいいな、と思う。ひとつひとつは小さくても集まると大きなエネルギーになるから。
WWD:2021年は何を頑張りますか?
小泉:東京都現代美術館で開催されている衣装デザイナー、石岡瑛子さんの展覧会を見てとても感動しました。改めて衣装デザインに立ち返って力を入れたいと思っています。また昨年、歌舞伎を見て大好きになりました。これまでもコレクション制作時には日本の伝統やそこにつながる自然から影響を受けてきましたが、改めて歌舞伎や能など日本の伝統芸能の衣装を手掛けて世界に見せたいと思うようになりました。自分の中には常に世の中を“エンターテインしたい”志向があります。日本の伝統芸能を海外の人からみても面白いものにできたらいいかな。
WWD:主力素材のポリエステルオーガンジーを再生素材に切り替えているそうですね。デッドストック生地を使った受注生産だから在庫も持たず、元々無駄な生産はしていなのになぜ?
小泉:美術館に飾られるものを多いから捨てられることもほとんどないですしね。生地をオーダーしているサンコロナさんがトレーサブルな再生ポリエステルのオーガンジーに力を入れているので、切り替えています。少しコストが上がるけど見た目はほぼ同じで、同じなら環境に優しい方がいい。まだ始まったばかりです。
WWD:大仏がひとつのインスピレーションと聞きました。神社仏閣への関心があるのですか?
小泉:自分の母親の親戚が葬儀会社を営んでおり、子どもの頃から葬儀の花輪が常に身近にあったことは大きいですね。それと大きな仏像の有無を言わせない存在感、言葉がいらない圧倒的な存在感に引かれます。調和が取れていて美しいものは存在する意味がある。そう思います。
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