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Saturday, October 10, 2020

「最後に売れたら、それでいい」。ゴミ清掃会社勤務の芸人「マシンガンズ」滝沢秀一を支える有吉弘行の言葉(中西正男) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

 8年前からゴミ清掃員の仕事を始めたお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さん(44)。2018年には清掃員の経験を綴った著書「このゴミは収拾できません」を上梓し、その後、関連書籍が漫画などの形でも出版されるほど話題になりました。先月には新刊「やっぱり、このゴミは収拾できません」を出しました。新型コロナウイルス禍における清掃員の現実。そして、自身を支える先輩芸人からの言葉。今の思いを赤裸々に吐露しました。

「ゴミはうそをつかない」

 今で清掃員の仕事を始めて8年になるんですけど、仕事を始めたきっかけは妻の妊娠でした。出産するんでとにかくお金が要るということだったんですけど、当時からお笑いの仕事もあんまりなかったので、アルバイトをしてお金を作ろうと。

 ただ、その時で僕が36歳。年齢制限が「35歳まで」となっているものが多くて、アルバイトを探してもこれだけ見っかんないんだと思っていたら、友だちがゴミ清掃の仕事をやっていて、尋ねてみたら「全く問題なく大丈夫」とのことだったので、常勤で働くことになったんです。

 最初は短期的なアルバイトのつもりだったんですけど、そこから3年くらいやっていくうちに、自分の体感として「これは、芸人として売れねぇな…」と思ったんですね(笑)。

 周りは芸人としてどうやって売れるかという話をしている中、その輪の中に入れない自分がいる。だったら、もっと清掃員の仕事と向き合ってみようと思って、ツイッターでゴミ清掃の“あるある”なんかをつぶやくようにしてみたんです。“雨の後のダンボールはコンクリートのように重い”とか。

 そうしたら、事務所の先輩の有吉弘行さんがリツイートしてくれて。有吉さんが喜んでくれるんだったら、毎日つぶやいてみようとなったのが最初のきっかけですね。それを続けていたら、白夜書房さんからツイッターのダイレクトメッセージで連絡をいただいて「本を出しませんか」と。なんというか、時代ですよね(笑)。

 ま、実際にこの仕事をしていると、いろいろなことを目の当たりにします。会社のゴミも回収したりするんですけど、きちんと分別しない会社もあるんです。シュレッダーのゴミの中にビンや缶を入れてたり。これって、本当にナニな話なんですけど、そういう会社の多くがほどなく潰れてるんです。ゴミって、なかなか深いと思いますよ。その人、その団体の性質を表してるというか。ゴミはウソをつかない。

見えない恐怖

 清掃員及びゴミ関連の仕事と芸人の仕事の割合で言うと、10:0です。今、お話をさせてもらっているこの取材もゴミのことを話しているのでゴミ関連ととらえてるんですけど、純然たる芸人の仕事というのはゼロです。週5日は朝からしっかり清掃員の仕事をして、残りの日にこういう取材や講演などをさせてもらっている感じです。

 ま、コロナもあって、イベントもなかなかできないというのもありますけど、コロナがなかったとしても、ほぼほぼ芸人の仕事はゼロでしたけど(笑)。

 でもね、コロナはゴミ清掃の仕事にとっては密接に関わってくる問題です。最初は恐怖でしかなかったですね。何も分からなかったですし。僕らもテレビで見るくらいの情報しかなかったし。

 マスクを家に入れたくないから、ゴミ集積所に置いていく人が結構いたんですよ。それを拾わないといけないので、恐怖ですよね。

 あとはね、労働時間が目に見えて長くなりました。というのはね、僕の仕事上言うと、ゴミの量が倍近く増えましたから。

 一つの要素は外出自粛です。ずっと家にいる。となると、必然的にゴミの量は増えますから。あとはね、断捨離。片づけゴミ。時間があるから、せっかくだからとたくさんの方がやってましたからね。それこそ、普段では考えられない量でしたよ。

 それと、感染者数が増えていく中、自宅療養の方もいらっしゃいますからね。同じゴミに見えても、もしかしたら、感染している人のおうちから出ているものかもしれない。これは絶対に見分けられないですし、ゴミとして出されている以上、しっかりと処理をするしかないんですけど、どこに何があるか分からない。見えないウイルスだからこその恐怖は正直、常にありますよ。

 僕は家族もいますし、目からも感染するとも言われたので、防塵マスクにスキューバダイビングするようなゴーグルをつけて、防御するようになりました。

 仕事仲間の中には、テレビを見ないという人もいました。テレビを見て情報を入れると怖くなるので、いっそのことテレビを見ないと。いったん怖がりだすと、仕事にならない。仕事ができないと生活できない。だったら、情報を入れない。すごいメンタルです。良い悪いではなく、それが現実でした。

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「ありがとう」が増えた

 あとね、これはとても言い方が難しい部分もありますけど、コロナによって、僕らの仕事の見られ方が変わりました。

 端的に言っちゃうと、8年前はもっと見下されてました。言っても、僕は8年しかこの仕事をしてませんけど、そのずっと前から働いてきた年配の方々は、もっと、もっと、もっと、感じてきたこと。ベテランの人たちには「オレらは人目についちゃいけない仕事だから」って口に出して言う人もいます。

 それがコロナ禍で変わってきたように思います。これも、コロナ自体はもちろん大変なことだし、これも簡単には言いにくいことなんですけど、非日常になると、日常のありがたさが分かるというか。

 この状況下で、ゴミが回収されなかったらどうなるんだ。こんな中でも回収してくれてるのはありがたいことだ。そう思ってくださる人の割合が増えたと言いますか。

 これまで「ありがとう」と言ってくれるのはマンションの管理人さんくらいだったんですけど、今は街中の人もけっこう言ってくれます。皮肉というか、思いもよらないというか、何がきっかけでどうなるか分からないものだなと…。

 8年やったくらいの僕が言うのはおこがましいんですけど、これまで積み重ねてきた先輩たちの苦労が報われたような気もしています。

先輩からの言葉

 芸人の世界でも本当に先輩には恵まれていると思います。僕がずっと心に留めている言葉があるんですけど、それが有吉さんから言ってもらった「最後に売れたら、それでいい」というものです。

 まぁ、本人は覚えてないと思うんですけど(笑)、5年ほど前にお寿司屋さんに連れて行ってもらった時に、ふと、おっしゃったんです。特に、前後の会話の文脈に関係なく、いきなりその言葉をポンと言われて。

 当時はゴミ清掃の仕事は始めてはいたけど、それを発信したりはない時期で、ツイッターでのつぶやきもやる前です。ただただ、生活費を得るために清掃の仕事をやって、でも、お笑いも辞めずにやって。その状況を見て、有吉さんが何かを思ってくださっていたのか、本当に唐突におっしゃったんです。

 もし、日ごろから僕の何かを見ていてくださってのことならば、よりありがたいですし、何も考えてなかったかもしれませんけど(笑)、どちらにしても、その言葉は大切に心に置いてあります。

 そして「ダチョウ倶楽部」のリーダー、肥後さんから言われたのが「ヘラヘラして帰ってこい」ということでした。

 なんとかして売れようとする中で、例えば、奇をてらった赤メガネとかをかけて、キャッチーにしようとしたとしますよね。でも、それが当たらなかった。そして、赤メガネを外した時、周りの芸人の目もある。照れくさい。バツも悪い。赤メガネをかけていたことをシレッとなかったことにしがちなんです。でも、そうするのではなく「やってみたんだけど、ダメだったよ」とヘラヘラ笑える人間になれと。

 これはゴミ清掃の仕事を始めたあたりですかね。東高円寺にある居酒屋さんで飲んでる時に言ってもらったことなんですけど、芸のみならず、人生の指針として心に留めています。

 ただ、この前、リーダーにこの話を言ったら、何一つ覚えてなかったですけどね(笑)。「オレ、そんなこと言ったか?本当にオレだったか?」と(笑)。ま、それももしかしたら、変形の“ヘラヘラ”なのかもしれませんけど。

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 今回、本を出させてもらったのも、すごく大きな話をすれば、日本のゴミを少なくしたい。その思いがあるんです。ま、少しですけど、芸能もかじってますんで、そのあたりも使いながら、皆さんに少しでもゴミへの意識を持ってもらいたいなと。

 芸人仲間が本を読んでくれたら「今までゴミのことをそこまで考えてなかったけど、滝沢が回収してるんだったらちゃんと考える」と言ってくれたりするんですよね。隣のおじいさんの丹精込めて育てたキャベツをもらったら芯まで食べなきゃと思うみたいに(笑)、そこに人の顔が見えたら、少しでもそこを意識するきっかけになるのかなと。

 あと、今後の芸能の仕事で言うと、今は相棒(西堀亮)が俳優みたいなこともやっていて、僕は小説みたいなのを書いたりもしてるので、僕が脚本を書いて、彼が役者としてそこに出る。そんなことができたら面白いかなとは思っています。

 ま、となると「マシンガンズ」として、もう2分の2でお笑いをやってるヤツは誰もいなくなるんですけどね(笑)。ただ、ま、形はどうであれ、最終的に皆さんに喜んでもらえることができたらなと。そう思っています。

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(撮影・中西正男)

■滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)

1976年9月14日生まれ。東京都出身。太田プロダクション所属。東京成徳大学在学中の98年、カルチャースクールで出会った西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。「THE MANZAI」で認定漫才師に選ばれるなどコンビとしての実績をあげつつも、2012年、ごみ収集会社で常勤を始める。14年に「かごめかごめ」(双葉社)で小説家デビュー。18年、エッセイ「このゴミは収集できません」(白夜書房)が話題となり、漫画「ゴミ清掃員の日常 ミライ編」(講談社)、絵本「ゴミはボクらのたからもの」(幻冬舎)なども出版される。今年9月には新刊「やっぱり、このゴミは収拾できません」を上梓した。

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October 11, 2020 at 09:48AM
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