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Wednesday, September 9, 2020

ライゾマティクス真鍋大度は、Perfumeの映画作品で何をリフレームしたか? - ギズモード・ジャパン

Perfume20周年アニバーサリーの歴史は、テクノロジー×アートの最前線で闘ってきた証(あかし)。

昨年10月にLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でPerfumeが行ったライブを、劇場新作の映画として再構成した『Reframe THEATER EXPERIENCE with you』(9月4日より2週間限定公開)。

彼女たちがアーティストとして第一線で活動してきた20年間のデジタルアーカイブを活用しつつ、今なお進化し続ける最高レベルのパフォーマンスと、最先端のステージ制作テクノロジーをメディアアートの手法でマッチングさせるという意欲的な試みは、強力なコラボレーター、スタッフワークなくしては実現できないものでした。

これまでPerfumeを主にテクノロジーの側面からサポートし続け、本公演でもヴィジュアルとインタラクションのデザインを務めたライゾマティクスの真鍋大度氏に、映画の見どころを含めた制作背景をお聞きしました。インタビュアーは結成20年、メジャーデビューから15周年のPerfumeの軌跡を追い続け、真鍋氏のテクニカルな表現手法にも着目してきたいしたにまさき氏が担当しています。

東京ドームとは違ったPerfumeの表現を映画館という再生装置で見せられる幸運

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──『Reframe』は最終的に映画作品になったということで、企画段階からステージ・パフォーマンスそのものがゴールとして設定されるスタジアム公演とはかなり目指しているものが違うように感じました。ライブだけどライブじゃない、というか。

真鍋:今回の『Reframe』はかなり違います。『Reframe』はシアター(劇場)の規模でやれることを追求していきました。やはりドームやアリーナでできることと、LINE CUBE SHIBUYAのような中規模のホールでできることって全然違うんです。ライブ演出を手がけたMIKIKOさんと僕、そしてライゾマティクスは、ELEVENPLAYなどのダンスカンパニーと一緒に、キャパシティ1,000~ 2,000人規模の演出も数多く手がけてきました。僕がPerfumeのドーム公演に関わるようになったのは2010年からですが、会場の規模が違うと見せられるものが全然違うなっていうのはずっと感じてきました。シアターのキャパでPerfumeのライブができたら面白いと思っていたけれど、彼女たちほどの人気になるともはやシアター公演はなかなか難しいですから。

──この公演はスタンディングNGで、みんな静かに座って見てるっていうのもユニークですよね。奇しくも今のコロナ禍のライブって無観客配信を前提としていて、そのステージはこのライブの雰囲気に近い。

真鍋:Perfume自身は、『Cling Cling』や『Future Pop』のリリース、紅白(NHK紅白歌合戦)でも渋谷のセルリアンタワーの屋上から無観客の生中継配信だけでやってたりするので、今皆がやっているような無観客パフォーマンスの経験はあるんです。紅白はもちろん生放送でテレビで見ている人がほとんどなのですが、セルリアンタワーの屋上から生中継をしていたので渋谷近辺にいた人にリアルタイムで発見されたんですよね。Twitterに現場のサーチライトの写真などが載っていて、お客さんの目撃情報によってちゃんとライブパフォーマンスしてるんだ、という証明になった。なので生放送をやるのであれば、なんらかの形で生である証明をしないと意味がないかなと言う思いはありますね。一方で目の前のお客さんを盛り上げつつも、映像を見ている大勢の人に対してインパクトを与えるということも両立させなければならないわけです。

──Reframeのライブ当日の会場のお客さんはどんな感じでしたか?

真鍋:みなさん、かなり見入っていたのではないかと思います。渋公(LINE CUBE SHIBUYA)だとドームと違ってステージと客席の距離がかなり近いですし、今のPerfumeをあの距離で見ることはなかなかできないので。ステージ演出でもサービス映像は排除し、視点をずらさずに集中して、パフォーマンスすべてを肉眼で見てもらうことを前提にしていました。だから今回の映画はラップトップやタブレットよりも、ライブの環境に近い映画館という箱で見てもらうことが重要かもしれない。やはり大画面・大音量っていうのは重要だと思います。今回は劇場映画という形式で映画館で上映されるので幸運だと思いますが、アーティストたちが一生懸命取り組んでいるコロナ禍以降のライブ配信を小さなスマホやタブレットで見るというのは、ちょっともったいないなという気持ちもありますね。もっと映画館で楽しめる機会が増えるといいなと思っています。もちろんリアルなライブを視聴出来るようになるのが一番ですが。

──自宅に4Kの再生環境が揃ってる人も、実はまだ少ないですしね。

真鍋:はい。それに映像も重要ですが、音響も同様に重要なんです。特にウーファーの有無はすごく大きくて。イヤホンで聴いてもらうことを前提とした音作りもありますが、この作品はウーファーで重低音を体感してほしい。サブウーファーの音も思い切り入れちゃっているので、イヤホンだとそこが体感できないんです。皮膚がちゃんと共振する周波数が鳴っているので、ぜひ音響のいい映画館で観ていただきたいですね。

──サウンドに関しては録り直したものもあったようですが。

真鍋:取り直したというよりも完全にアカペラで歌ってもらっているシーンがあるという感じですね。これまでやったことがないことを試す、という場でもあり、話し合ってそのようなアイデアが出てきました。

──ダンスと演出との絡みに関しては、いつもと違うところはありましたか?

真鍋:最も大きく違うポイントは照明ですね。最近はドームのような大きなステージだとムービングライトを多用したり、いかにステージ空間を大きく立体的に見せるかということが主流になっています。でも今回はステージ上の生身のメンバーをCGっぽく、映像っぽく見せるか、という照明の演出があってめちゃくちゃ面白いです。照明はダムタイプの藤本隆行さんが担当してくださっていたんのですが、高速の点滅パターンを使うことで、目の錯覚を利用して手の残像が残るとか、映像の中にある仮想光源と同期させることでメンバーがCGのように見えるとか、本来CG映像でしか出来ないエフェクトをリアルに持ってくるようなことをやっていました。あと、コントラストがあまり出ない中間色をたくさん使っていて、グラデーションが本当に美しいです。

──映像に関しては?

真鍋:今回はプロジェクション(投影)ではなくLEDディスプレイを使ったので、黒がとても締まってるんです。後は、映像と同期してLEDディスプレイがCGソフトで作った軌道通りに動いているのでステージ上に本当にCGがある様に見える。映像のディレクションはもちろん僕も担当していますが、各曲では映像ディレクターや(ライゾマティクスの)エンジニアのアイデアが散りばめられています。そういった映像を改めて見ると発見も多いですね。「このトラッキングの精度やばすぎるなあ」とか。映画の副音声のコメントで、僕はそんなことばかり喋っていますね(笑)。映画館ではアプリをダウンロードしてもらうと副音声も楽しめるという仕組みがあります。副音声はPerfume自身が解説しているのと、僕と石橋(素)さん、司会の遠山大輔(グランジ)さんの2種類があるので、副音声なしの場合も含めて3回は観ていただきたいです(笑)。

──副音声なし、技術解説副音声、Perfume副音声の順番がよさそうですね(笑)。

デジタルとフィジカルの狭間で浮かび上がるPerfume自身のパフォーマーとしての凄み

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──Perfumeの場合、先日のドームの公演でも巨大なスクリーンを活用して、しかもそれが高精細な映像を映している。あれを体験していると、大バコでの映像も恐らく印象が変わると思うんです。大バコでもこれだけできるんだ、と実感できると思います。

真鍋:一昨年、海外の超ビッグアーティストのツアーに同行したのですが、アメリカの大きな規模のエンタメって意外とプロダクションが似たり寄ったりなところがあるなと思います。コーチェラのような大規模フェスにしてもそうなのですが、基本的にステージをどれだけ大きく見せられるかという方向性なんです。僕はそういうことをPerfumeでもやったほうがいいのではないかと言ってしまうタイプなのですが、MIKIKOさんはそこに抗うんです。美術セットにしても僕は意外とコンサバな意見で、いつも「いや、それは難しいのではないか?」というような感じなんです(笑)。MIKIKOさんはセットを重視される方なので、なかなか言うこと聞いてもらえない(笑)。ただ、出来上がったものを見ると結果的にMIKIKOさんの意見が正しいことがほとんどなので、あまり強くは主張できないですね。

──ステージ上のPerfume本人たちは、自分のダンスと映像がどうシンクロしているのかモニターできないんですか?

真鍋:メンバー用の映像のモニターはないんです。彼女たちが完璧にステージ上の動きを覚えてその通りに動いている。目線をモニターに持っていく余裕もないと思います。Perfumeは本当にとんでもないんですよね。パフォーマーとしての力量が尋常じゃないんです。ステージ上のバミリ(立ち位置を床にマーキングしておくこと)なんて、たぶん海外エンタメのショーの10倍くらいあるんじゃないかと思えるくらい細かく決まっているんです。だからアメリカでPerfumeがパフォーマンスをすると、現地のスタッフに「こんなに細かいものを覚えられるのか?」って驚かれるんです。『Reframe』ではセットがたくさん動くので、特にそういう要素が強かったんです。少しでも間違えたらすべてが台無しになる。これはMIKIKOさんがセットも人の動きも両方計算して演出しているからこそ、ギリギリまで攻められるのかもしれないですね。

20年の歴史と未来の時間軸に生じる揺らぎを捉えて楽しむことのできる唯一無二な作品

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──映像の情報量もすごいですよね。最近の真鍋さんの表現手法って、ハイスピードに情報をダーッと洪水のように流して、その渦で気持ちよくなってもくるみたいなスタイルの作品が多い気がするんですが、これは意図的なものがあったりするんですか?

真鍋:映画で今までのライブを最初から全部振り返るというシーンがあるのですが、過去のツアーで象徴的だった振り付けが全部入ってたり、曲のタイトルを全部載せていたりするんです。超高速なのでたぶん肉眼で全部を追おうと思っても追えないんです。ふだんビッグデータを扱って作業していると、裏側にどれだけの情報があるかというのを意外と分からないでインターベース(データベース管理システム)だけ見ていたりするので、Perfume自体の情報量の多さを上手く表現として伝えられるといいなと思ったんです。ちゃんとディテールまでぜんぶ伝えたいというわけではない。彼女たち自身の3Dスキャンデータも2010年から撮っているので、映像ディレクターのアイデアで過去に撮ったスキャンデータを一斉にバーンと出しているシーンがあるんですけど。あれも本当は一個一個3Dプリントしてどこかに飾りたいくらいです。それを見て「この振り付け見たことある」「この振りはあのときのものだ」と気づく人も、もしかしたらいるかもしれませんね。

──テクノロジーの歴史がそのままアーティストの歴史のレイヤーになってるところが、Perfumeじゃないとできないところですね。

真鍋:まさにそうですね。3Dスキャンもどんどん精度が上がってきていて、最初の頃はフォトグラメトリだとあまりきれいに撮ることができなかったので、ハンディ掃除機みたいなストラクチャライト+慣性式のスキャナで撮っていたのですが、それもひとつのスキャンあたり3~4分かかっていました。その間「動かないでずっと止まっていてください」といったような(笑)。SNSも初期からよく活用していましたが、たとえばTwitterだとAPIの仕様が変わっているので、もう過去のデータが使えないとか。デジタルの世界で10年もやっていると、古くなるとかサービス自体がなくなってることもありますよね。初期のFlashで作っていたデータももう使えません

──前回のドームだと、入場時にお客さんを捕まえてスキャンして、そのデータを当日のライブで流す映像で使っていましたよね。あれもコロナがある現在では、不可能になってしまいましたけど。

真鍋:ありましたね。あのときは合計お客さんを1万人くらいスキャンしました。そのデータは公演で映像に使われたんです。スキャンされる側はものすごく驚くんです。「あれってわたし??」のように。公演直前にスキャンしたデータを即座にレンダリングをする作業が発生していたので毎日大変でした。

でも、振り返ってみると、そういう綱渡りなチャレンジを過去に結構やっているんです。『Reframe』のときも本番直前にお客さんに会場入口付近に用意したブース内で踊ってもらい、それを映像に入れたり。それもクラウドでたくさん回して作っています。

──『Reframe』というタイトルには非常に解像度の高い、現実という世界の虚構性が込められている気がします。画像のフレームをPhotoshopの中で変えたり、そういった感覚に近いのかなと思いました。劇場全体をひとつのディスプレイとして捉えてみるというか。

真鍋:MIKIKOさんは、ステージの一番外側をブラウン管のテレビみたいに少し丸みを付けてフレームで囲う、というのをよくされるんです。ライブの最後にはそれがなくなっているのですが、流れとして最初は映像としてショーを見ていて、最終的にはいつの間にか実空間になっているというイメージなのかなと思います。そういったこともあり、この映画も映像的に細かく見ていただきたい部分もありつつ、後半は徐々に空間的に見てもらいたいという気持ちがあるんだと思います。

──ラストナンバーの『Challenger』は16年前に作られていて今まで発表されてこなかった曲ですけど、何も予備知識なくあの曲を聴くと、新曲なのになんか懐かしいという感覚もあるんですよね。歌詞は未来の世界を歌ってるんだけど、その未来っていうのはライブの映像で見せられたものだったり、現在のパフォーマンスだったりする。それを本人たちが16年後に実現したことを歌ってるみたいに時間軸がぐるぐる回ってて、SF的なタイムリープの感覚になるっていうのがすごいです。なにがどこまで仕込まれていたのかもわからなくなるという(笑)。

真鍋:面白いですよね。よくこんなにすごい曲が残っていたなって思いますが、実はまだリリースされていない、そういった曲が実はあるのかもしれない。曲順に関してはMIKIKOさんとメンバーで決めたものを僕が少し変更するという感じです。『Reframe』の公演は2018年にもやっていて、2019年はまるっと作り変えたいという気持ちがあったんです。ただ、2018年を見ていないファンの方もかなりいるので、演出などは近いものにして、数曲だけ差し替えました。2018年はラストの『無限未来』のときに壁を取り去ってステージをバーンと広げたのですが、今回の『Challenger』は視覚だけではなく音楽的にも緊張が緩むというイメージ。大枠な演出として最後の『Challenger』にたどり着く、というようなビジョンがあったと思います。

なぜ真鍋大度はセルフのダンス映像をあげ続けるのか?

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──なるほど。では最後にもうひとつだけ。真鍋さんはここのところ、けっこうな頻度でインスタグラムで自分がダンスした動画を上げていますよね。

あれはご自身がPerfumeというダンスグループの演出をしているからってことも意識してのことですか?

真鍋:もちろんいろいろな意味合いがあります。シンプルに健康のためなど(笑)。あとは僕が個人的にダンス作品を作りたいなという思いがあって、まずは振りコピからかなと思っていて(笑)。もちろん3人のダンスをより深く知るためという意味もあります。やはり自分で踊ってみるとダンスのことが徐々に分かってきます。ダンスを観る解像度が上がったというか。同じ楽曲でもPerfumeの踊り方が10年前と今では違うんです。そういったことも自分で踊ってみる前まではほとんどわかっていなかった。この10年で彼女たちはかなりスキルアップしているし、踊りの質感もぜんぜん変わっているんです。今がアーティストとして最もキレキレなんですよね。

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Photo: Victor Nomoto (METACRAFT) , Edit: Hidetoshi Tatsumi

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(C)2020“Reframe THEATER EXPERIENCE with you”Film Partners.

『Reframe THEATER EXPERIENCE with you』

9月17日(木)まで、TOHOシネマズ 日比谷他にて、二週間限定公開中

Director:Taketoshi Sado

Stage & Choreo-Director:MIKIKO

Visual & Interaction Design:Rhizomatiks

企画・製作幹事:アミューズ/日活 制作プロダクション:NHKエンタープライズ 映像提供:NHK 配給・宣伝:日活

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September 09, 2020 at 08:00PM
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