3月20日に公開された映画「一度死んでみた」は、「2日間だけ死んじゃう薬」をめぐる大騒動を描いた物語。主演の広瀬すずさん、吉沢亮さんをはじめ、豪華キャストが出演しており、テンポよく物語が進んでいく。この映画の脚本を手がけたのは、電通のCMプランナー/クリエーティブディレクターの澤本嘉光さん。そして、監督を務めたのは、KDDI /au「三太郎」シリーズ、日野自動車「ヒノノニトン」、家庭教師のトライ「ハイジ」、花王「アタックZERO」などを手掛けたCMディレクター 浜崎慎治さんだ。映画という企画を2人がどのようにかたちにしていったのか、そのバックグラウンドとともに聞いた。
アイデアのきっかけは、あのCDの一言
—澤本さんがこの映画の脚本を書くことになったきっかけを教えてください。
澤本:2014年に映画『ジャッジ!』で脚本を書いたところ、多くの方に喜んでいただいたようで。配給元から「オリジナルのコメディが日本に少ないからまたやりませんか?」というお話をいただきました。それからすぐに考え始めたのですが、あれやこれやで、公開が2020年になってしまいました…。
浜崎:澤本さんが脚本を書きあげるまでにはいろいろな案があったんですよね?
澤本:ありました。でも、「これでいける」というのがなかなかなくて。触りだけのアイデアはいくつかあったんですが、「これだと若い人は見に来ないんじゃないか」と考えてしまったり。出来上がりをイメージができるものがなかなかなくて……。
浜崎:澤本さんはネタ帳じゃないけど、断片をメモに書かれているんですよね?
澤本:映画でもCMでも使えるようにネタ帳を書くようにしたんですけど、整理されてないから後で読まないことがわかりました。ときどき「何かあったかな」とネタ帳を開いてパッと見ることはありましたけど。
浜崎:その断片が切り口になることも。
澤本:1個のきっかけがもう1個とくっつくと、話ができますよね。今回もそうで、実はこの映画の原点は佐々木宏さん(連 クリエイティブディレクター)なんです。あるときに佐々木さんが「自分はいろいろなことを実現してきたけれど、1個だけできないものがある。自分の葬式をプロデュースして、それを見てみたい」と言っていて。自分の葬式を見る話は面白いなと思ったんです。
浜崎:誰もが叶えられない夢だから共感値が高くなる。葬式に参列すると、絶対に本人が上から覗いてると思うし(笑)。
澤本:ただ、そのままだとおじさんが主人公の映画になってしまって誰も見ないから(笑)、そこは一部分にしてストーリーを展開できないかなと考えていたんです。ちょうどその頃にお正月のNHK特集で「もうすぐ不老不死、若返りの薬ができる」と言っていて、その話と葬式の話をくっつければストーリーがつくれるんじゃないかと思いついて。それが2016年ぐらいだったと思います。
—実現に至るまで長かったんですね。
澤本:職業病で締切がないと書かない。CMの企画も考え続けてしまうけれど、締切があるからとまとめると、意外と良いものになったりするんですけどね。
浜崎:企画は考え始めると、永遠と考え続けちゃうし、目先のことが気になって他が後回しになってしまいますよね。
澤本:映画の脚本を書いていてもCMの仕事が入るとそっちをやって忘れてしまって。再開すると「あれ、これどうしようと思ったんだっけ」と、また頭から書き出すんです。だから頭の部分をいっぱい書きました。
浜崎:導入がやたらと多い(笑)。澤本さんは毎回、頭から書くんですね。
澤本:僕は頭から書いていくほうが楽なんです。でもそうすると、最後にたどりつけなくて、細かい小ネタを考えては喜んで入れちゃって。小ネタを考えている場合じゃない、先にいかないと、と思うんだけど。
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浜崎監督に当て書きした脚本
—最終的に脚本になったのはいつ頃?
澤本:2018年ぐらいかな。浜崎さんに頼んでから最終的に脚本を仕上げました。
浜崎:僕、結構待ちましたよ(笑)。一度、打ち合わせさせてもらって、「澤本さんが年末に書くので、年明けには脚本があがると思います」と言われたんですが、2月、3月になっても来なくて、おかしいな、聞き間違えたかな、あれ、映画やるって嘘だったのかなと(笑)。その後ようやく脚本があがってきたと思ったら、200ページ以上ある4時間大作で。一部、二部で分けるのかなと思ったら、それを何とか90分でやって欲しいという話でした。そこからスタッフみんなで「こうしたほうがいいんじゃないか」と意見を出していきました。
—どんどん書き足していったらいつの間にか200ページ以上に!
澤本:そうです。それが半分になったことでものすごい量の小ネタが死んでしまいました(笑)。
浜崎:供養してあげなきゃいけないぐらいのすごい量です (笑)。でも、いつかここで考えた小ネタはCMで生かせるかもしれませんね。
澤本:脚本が進んだのは浜崎くんが監督を引き受けてくれると決まって書きやすくなったからです。以前に一緒に仕事をしていたので、こう書いたら浜崎さんはこうやってくれるんだろうなと思い描きながら書いていきました。前回の永井聡監督に続き、今回も監督あて書きですね
浜崎:そのせいか、僕は読みやすかったです。わざわざ聞くこともなく、こういうことがやりたいんだなと大体わかりました。たぶん澤本さんの脚本は、日本映画の脚本家の方々が描くのとは種類が違って独特なんです。脚本にテンポがある。コメディの間合いが普段仕事をご一緒した時の澤本さんの間合いで、リズムがあって、しかも編集されている。
だから、「わかる、ここ笑えるね」と映像がすぐに浮かぶんですね。演出側が一番心配なのは映像化したときに面白くなるかということだけど、澤本さんの脚本は読むだけで面白い。そもそもの話、澤本さんのCMの企画もいつもそうで、企画コンテがものすごいよくできているから、このままでも十分に面白いというものが多いですよね。ただ、そのぶん映像化して役者さんが参加することで変わることがあるから怖いところはありましたが。
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CMで鍛えたことが映画で活きた
—浜崎さんは初の映画ですよね。コメディ映画で、しかも人を笑わせることは難しいと思いますが、いかがでしたか?
浜崎:初監督でした。僕はこれまでも日本映画を見ていて「もうちょっとテンポがよくてもいいんじゃないか」と思うことがあったから、今回の映画のように見ている人の先にいって、次の展開を起こしていくコメディのスタイルは面白いと思いました。
ただ、コメディはおっしゃる通り難しくて、最初に一番難しいのをやっちゃったなと(笑)。感動系、サスペンス、シリアス、ホラーなどはやや型がありますが、コメディには型がないし、人によっても間もツボも違う。役者さんが動いてみないとわからないところも大きいから、一番難しいんですね。CMのテンポ感でやっても90分あるから、そこもまた難しくて。だから、どのへんが良いところなのかなと探りながらやっていきました。
—澤本さんが脚本を書く段階で意識したコメディのポイントはありますか?
澤本:僕がイメージしていたのは、ちゃんとフリがあって、それが最後に回収されて、見終わったときに気持ちよくなる、という脚本の伏線回収構造です。この映画にコメディとしての特徴があるとすると、伏線が明確なシーンではなくて、くだらないシーンになっているところですね。
浜崎:伏線の部分はくだらないほうが後から効いてくる。
澤本:そうそう。くだらない小ネタだけど、あれが実は伏線だったんだ、という感じで回収されるのが好きで。CMネタだったり、CMの技量を使って映画の脚本を書いた。という感じですね。
浜崎:でも、CMは時間が短いから伏線なかなか張りづらいですよね。だからなのか、澤本さんの伏線の張り方はまた独特で。
澤本:たとえば映画『白雪姫』の冒頭のキスは伏線ですよね。あれが電気のCMだとしたら、王子様がキスしたらビリビリしてビックリしたというCMが成立します。そういう感覚で、1個1個のシーンが15秒CMとして成立するようなものをネタとしてはめている感じですね。
浜崎:確かに、1シーンごとにCMっぽくて、そこだけ切り取っても形になるというか、ちゃんとオチがあって、くすっとくるポイントがあります。
澤本:そのあたりはCMをやっているからこその筋肉の鍛え方があるのかもしれません。キャスティングにしても古田新太さんは10秒ぐらいしか出てないものの、存在感が強くてセリフが面白いから、観客には古田さんで笑った記憶が残ると思いますが、あの感じはCMをやっているからわかるところですね。そこは伏線とも関係していて、古田さんがあそこで笑わせてくれるから、その後のJAXA宇宙飛行士 野口聡一さんが張っている露骨な伏線がわかりづらくて、ここはお笑いコーナーだなと思われるようにしているんです。
浜崎:観客の気を緩めておいてね。
澤本:伏線に対する煙幕としても使ったりしていて。CMの仕事をしていないと、ここに1回だけ古田さんを呼んで一言だけ言ってもらうのは申し訳ないと思います。でも、あのシーンを一般のおじさんがやっても同じようにはならないから大事なんです。
浜崎:1回面白いことが起こった後に野口さんが出てくるから、後々それが効いてきて。普通はそのためだけに古田さんは起用しないし、向こうもOKしないだろうと思います(笑)。
—キャストが豪華ですね。
浜崎:やっぱり脚本が特徴的だからだと思います。日本にはない感じというか、何なんだろうこれ、食べたことないなという感じで脚本を読まれたと思いますよ。
澤本:堤真一さんが「脚本がスピード感あって面白かった」と言ってくれて、堤さんにそう言っていただけるとうれしいですね。
—澤本さんはもともと映画をつくりたかったんですか。
澤本:僕は子どもの頃は「スターウォーズ」などのハリウッド大作が好きだったんですが、高校生のときに『家族ゲーム』(森田芳光監督)を見たら面白くて、その後に『時をかける少女』(大林宣彦監督)に出会い、この2つの映画を見たことで僕も映画をつくってみたいと思ったんです。でも、映画は上映時間が長い。受験勉強をしていても20分ぐらいで飽きて、お菓子食べるぐらい集中力がない僕には無理だなと思って。
浜崎:それは意外ですね(笑)。
澤本:CMは短いからいいぞと思って、撮影時間のことは考えずに、CMの世界に入りました。とはいえ、もともと映画は好きだったから、脚本を書くことができたのはうれしかったですね。映画をつくれたのもCMをやっていたからこそ。そもそもは僕がつくったCMを見た映画のプロデューサーが「このCMをつくっているんだったら映画の脚本を書けると思います」と言ってくれたことが始まりです。
僕たちがCMでやっていることは「企画」で、企画とはただ面白くすることではなくて、その構造自体が企画なんですね。僕は映画も同様に「企画」と考えて取り組んでいます。たとえば「予算がないから、90分間だけ同じ部屋の中だけでセリフ劇をやる」と言われたほうが企画っぽいし、その中でどうしたら飽きないかを考えます。途中で部屋の上から人を落としたり、その部屋にはじつは裏の部屋があるとやっていくと、企画として成立しますよね。
浜崎:映画もCMも同じ筋肉を使っている、ということですね。
—浜崎さんは映画の現場はCMの仕事と比べてみてどうでしたか?
浜崎:ひとつCMと違うのは、コンテありきじゃなくて、まずは芝居を見てからカット割りをするところで、そこはもう逆転しちゃってるんですね。役者が初めて澤本さんが書いたセリフを発して、こういう感じだな、こう動いたな、意外とこの人はうろうろしながらしゃべるなとか、そういうことも含めて現場でスタッフや俳優と話しながら、「こっちのほうがいい」とつくっていきました。映画の現場は、ある意味生ものなんだなと思いました。CMと映画の半分半分の筋肉を使った感じです。
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広告の仕事の楽しさを伝えていきたい
澤本:リリーさんが映画の完成をすごい喜んでくれて、浜崎さんのことをね……。
浜崎:そうそう、「おめーはバカなんだから撮り続けたほうがいい」って(笑)。
澤本:リリーさんの最大の褒め言葉ですよ。「こういう映画があったほうがいいし、浜崎さんじゃないと撮れないから、おめーはこういうのをずっと撮れ」って。
浜崎:ああいう方に褒められるとうれしいですよ。いろいろなものを感じるけど、自分の意見をストレートに言ってくれない人のほうが多いから。
澤本:リリーさんが喜んでくれると、僕もうれしいんですよ。この映画は吉沢亮くんと広瀬すずちゃんが前面に出ているから、若い子向けだと思われがちですが、実はお父さんの映画で、50歳ぐらいの人が見ると「意外といいぞ」となるはずだから。リリーさんが褒めてくれると、それを聞いた年齢が上の人も「大人も見ていい映画なんだ」と思ってくれるのではないか、と。
浜崎:そうですよね。青春キラキラ系にすると若者しか見なくて、全世代向けのものってなかなかないけど、この映画は子どもも含めてあらゆる世代が面白かったと言ってくれましたね。
澤本:僕たちの精神年齢が低いのかな(笑)。前の『ジャッジ!』は広告業界の話で、当時は広告業界に入る人が減っていると聞いたことがきっかけになり、「楽しいところだよ」と伝えたくて脚本を書きました。実際にあれを見て、広告業界に入ったという人が何人かいて、それはよかったと思います。
だから、この映画を見た若い人が「CMをやっていると映画もできるんだ。広告業界にいってみようかな」と思ってくれるといいんですけどね。僕らが広告業界で培ってきたスキルは「人をどう喜ばせるか」で、そういうところも感じてもらえるといいな。僕がラジオ番組をやっているのも同じ理由。広告業界は基本的に、好きなことやっていても怒られないですからね(笑)。
浜崎:確かに遊んでいるように見える仕事がちゃんとモノを動かしていますから。この映画を通して、「こんなに面白い仕事はないよ」と伝わるといいですね。
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March 25, 2020 at 02:25PM
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映画を通じて、「広告は面白い」と伝えたい 澤本嘉光×浜崎慎治 - AdverTimes(アドタイ)
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