動物が苦手だった少女が、身寄りをなくした1匹の犬と出会った。犬は賢く、人になれていた。ひょんなことから少女との間に信頼関係が生まれ、今では相思相愛に。少女は一番の相棒になっている。
「公園に一緒にいこう」
亀山実優ちゃんが(9歳)がリードをひくと、トイプードルのポッキー(オス、推定5歳)が寄りそって歩き出した。弟の晃希くん(5歳)と、母の千富美さんが、そのすぐ後を追う。
「ポッキーは娘の言うことを一番聞くんです。でもまさかこんな日が来るとは……」
そう言って千富美さんがほほを緩めた。
犬も猫も大の苦手だった少女
犬と楽しそうに遊ぶ実優ちゃんだが、実は以前は動物が大の苦手だった。親戚が保護活動のボランティアをしている関係で、東京都内の自宅で子猫を預かるなどしてきたが、いつも遠巻きにケージを見ていたという。
「だって、こわかったんだもん」と実優ちゃん。
「私、血を見るのが嫌なの。もし動物にかまれたり、引っかかれたりしたらどうしようと思って、近づけなかったんだ。今も道で他の犬に会うとドキドキする」
そんな特大級の“ビビり”の実優ちゃんが、ポッキーと初めて会ったのは、昨年の12月末。親戚が「おとなのトイプードルを保護した」と連絡をよこしたのだ。実は千富美さんは以前から犬を飼いたかったのだが、動物嫌いの娘を思って踏みとどまっていた。
「飼うなら保護犬がいいと思っていたし、犬種でいえば、賢くて毛も抜けないプードルに魅力を感じていて……。だから『トイプーを保護した』と聞いて胸が高鳴りました。成犬だったので、元気な息子の相手もできるかなと。でも美優はもちろん、主人も消極的でした」
そこで千富美さんは策を錬った。「犬の新しい家が見つかるまで、1週間だけ預かりをする」ということにしたのだ。本当はそのまま飼い犬にしたい気持ちがあったが、ぐっとこらえて様子をみることにした。
「吠えないし、かまない」
家にやって来たポッキーは、天真爛漫で、人なつこく、子どもが好きだった。
預かって1日目。近づこうとするポッキーを怖がって、実優ちゃんは「待て、こないで」と言った。すると、ポッキーはぴたりと止まり、それ以上近づこうとしなかった。翌日もポッキーは近づいて来たが、じゃれつくようなことはしなかった。それを見て美優ちゃんの表情が和らいだという。
「吠えないし、かまないし、ウーっとはいうけど、本当に嫌なことを人にされないとかまないってわかったから。この犬は信用できるって、ピーンときたの」
実優ちゃんの感じた“ピーン”は、言葉を超えた感覚だったのだろう。
千富美さんはその様子に感心したという。「ポッキーがちゃんと『待て』を理解していたことが大きいでしょうが、瞬時に娘の心の壁を取り払ったんですね。それを見て、主人が『いい子だから、うちで引き取ろう』と言い、親戚も委ねてくれました」
実優ちゃんとポッキーの距離は日ごとに縮まり、2週間もすると餌をあげ、浴槽で体を洗ってあげることもできるようになった。ポッキーも実優ちゃんを慕い、今では一番の遊び相手になった。学校の友達もよくポッキーに会いに来るのだとか。
「ポッキーは膝が少し弱いので、階段を使わないようにと言われたので、過ごすのは基本的に1階の洋室と和室だけ。夜7時ごろ、私が息子を2階で寝かせている間、実優がこたつで一緒にぬくぬくしながら面倒みてくれるので助かっています」と千富美さんはいう。
実優ちゃんは自分が寝る時間になると、「そろそろポッキーをケージに入れるね」「寒いので毛布をかけてあげるよ」と千富美さんに伝えてから2階に行く。そんな娘の成長ぶりが、母として、嬉しくて仕方ないという。
変化はほかの家族にもあった。皆で顔をあわせる時間が増えたのだ。
「子どもも大きくなってきて、皆それぞれの部屋でやりたいことをするようになっていたんです。娘は人形遊び、息子と私はゲーム、主人は動画……というように。でもポッキーが来てからリビングに集まることが多くなり、にぎわいがもどりました」
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