音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の5本。
1 “句読点だらけの気持ち”(奇妙礼太郎『I LIKE』/作詞:早瀬直久)
2 “アスリートは一定”(本田望結)
3 “年イチ”
4 “人間の自然寿命は38歳”(池田清彦)
5 “足の角度を20度ぐらい外に”(テンダラー 浜本広晃)
日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。
数年前に自分に子供が生まれたことで、それこそ30年ぶりくらいに絵本を読んだ時に改めて気がついたのは、絵本には「、」や「。」といったいわゆる句読点以外に言葉と言葉の間にやたらとスペースが入っている、ということだった。たとえばこんな感じである。「おんなのこが うしろを ふりかえると、 そこには かわいい こいぬが いて、 おんなのこの かおを さみしそうに みあげていました。」
絵本の文章は平仮名だけで書かれているから、スペースがある方がたしかに親としても読みやすいのは間違いないのだけれど、子供がある程度文字が分かるようになって、自分で読ませてみると、当然のようにそのスペースの部分で句読点同様に毎回一息ついてしまい、ただでさえたどたどしい音読が、ものすごく集中して聞かないとまるで話が入ってこない、切れ切れの状態になる。
奇妙礼太郎さんの新曲『I LIKE』が良い。大人から子供まで楽しめる陽気で軽やかな楽曲だ。その歌に「肩落として あれ? どうしたんだい 句読点だらけの気持ち」というフレーズが出てくる。句読点だらけの気持ち。分かる気がする。一生懸命、誰かに伝えようとしているのに伝わらない、子供が一生懸命やるあのたどたどしい音読のような、もどかしい気持ち。良い表現だなと思った。
11月29日放送の日本テレビ『踊る!さんま御殿!!』でのこと。「将来が心配になった時」というテーマでスタジオの皆がトークしている時、俳優でフィギュアスケーターの本田望結さんが、「さんまさんがいつもテンションが高すぎるのが心配」と話していた。彼女いわく、「アスリート目線だと、毎日の体調を良すぎることもなく悪すぎることもなく、一定に保つことこそが大事」なのだそう。それを聞いていた東京五輪飛込日本代表の玉井陸斗さんも「良すぎると、その時の感覚が残っちゃうので、ずっと(調子が)一緒の方が試合に合わせやすい」と賛同した。練習で調子が良すぎると、試合の時にまたそこまで持って来られるか不安になるから、もう少し抑えようなどと考えながら、アスリートは練習しているのだそう。選手としては調子が良いに越したことはないはずなのに、調子が良ければ良いでかえって不安になるというのは、何とも因果な仕事である。
でも、できるだけ良い時も悪い時もないように一定の状態に調子を保つというのはいわゆる「プロ」と呼ばれる仕事をしている人は全員にあてはまることなのかもしれない。思えば私も、音楽を作るという仕事においてはその瞬間に全力を尽くすことだけを考えている。作品の評価で一喜一憂することは極力しないようにして来たし、これからも常に平常心を保って仕事をするつもりである。作品の出来にムラを作らないためにはそれが一番だからである。それはプロの大工だってプロの料理人だって同じはずである。何であれ“プロ”というのは因果な仕事なのだろう、きっと。
11月27日放送の日本テレビ『行列のできる相談所』でのこと。「今年の一番!スペシャリスト達がオススメする年イチ発表!」というテーマで、ゲストの皆さんが漫画、スイーツ、料理芸人、感動した出来事など、さまざまなジャンルの今年一番のモノやコトを紹介していた。気になったのは、番組が終始「個人的な今年一番の〇〇」を、「私の年イチは〇〇です」という言い方で紹介していたことだった。
これまで「ねんいち」の使い方は「年に一回」の意味だった気がする。「年一でハワイに行く」というように。でも、たしかに「今年の一番」という使い方も、使い勝手としては悪くないから、もしかしたらこれから先、そっちの使い方も世間に浸透していくのかもしれない、と何となく思った。
余談だけれど、番組を見ながら、私にとっての2022年の“年イチ”の買い物は何だっただろうと考えた時、“爪切り”だなと思った。というのも、私は以前から爪を切った後にやすりをかけるのが嫌いだった。爪の粉で手のしわや周囲が汚れるのが気に入らないのである。そんなある日、テレビショッピングで「とてもよく切れるピーラー」を紹介しているのを見かけた。そのピーラーで皮を剥(む)いた野菜の表面は、鏡のようにピカピカと輝いている。それを見て、なるほど、よく切れる爪切りなら爪の断面がやすり要らずのピカピカになるのではないかと思い、ネットで切れ味がすこぶるいいと評判の爪切りに変えてみたのである。
結果、完全にやすり要らずとまではいかないまでも、爪の断面は結構ピカピカで、やすりのストレスからはかなり解放された。思えば爪切りというのは、刃と刃を真っ向からぶつけて使う刃物だから、その劣化が早いのは当然なわけで、どうして今までまめに買い替えずにいたのか、という話である。私のように爪やすりが嫌いな人は、ぜひとも買い替えを検討してみてはいかが。
からの記事と詳細 ( もどかしい気持ちを「句読点だらけ」と表現する絶妙な歌詞『I LIKE』 - 朝日新聞デジタル )
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