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Wednesday, May 18, 2022

信じてますか No.1 - nhk.or.jp

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信じてますか No.1

「満足度No.1」「信頼度第1位」、最近、ネットでもお店でもよく目にする「No.1をうたう広告」。皆さんは、「No.1」をどこまで信じていますか?
(科学文化部記者 秋山度/島田尚朗)

ネットにもあふれるNo.1広告を調査

No.1広告は、あらゆる場所で目にする。

街なかの看板のほか、電車の車内広告、テレビや雑誌、インターネット。

私たちは、ネット上のNo.1広告を、消費者団体で広告の監視を行っている木村智博弁護士の協力を得て、チェックから始めることにした。

ネット上には、商品の売上数や満足度、口コミ数など、さまざまなNo.1の表示を持つ広告が存在していた。

ネット通販のサイトに表示されるもの。

会社のホームページに掲載されているもの。

SNSで紹介されているものもある。

木村さんがチェックしていたのは、No.1の表記に、その根拠や調査方法がきちんと書かれているかどうかだ。

広告を規制する景品表示法では、他の商品などに比べて著しくすぐれているかのように消費者を誤解させる表示などを「不当表示」として禁止している。

木村さんは、No.1広告の場合、不当表示にならないためには、
▽表示内容が客観的な調査に基づいていること、そして、▽調査結果を正確かつ適正に引用していることの2つが必要だとする。

客観的な調査が行われていても、実際の表示が調査結果とかけ離れていると問題となるおそれがあるという。

しばらく、ネット上を調査したところ、木村さんが「消費者を誤解させる可能性がある表示だ」と指摘した広告があった。

それは、おすすめ度評価、信頼度評価、品質評価など14冠のNo.1を獲得したという歯磨き粉を宣伝する広告だった。

インターネットによるアンケート調査で、調査の対象が「歯の着色汚れなどが気になる全国の女性324名」と記されていた。

木村さんは「品質評価などは、購入した人の生の声としての1位だと消費者から見て読み取れる」として上で、「実際に商品を使ってみた人の声なのかどうかなどを、確かめる必要がある」と指摘した。

No.1を信じて買った

広告を見た人が、誤認するおそれがあるのではないかと、木村さんが指摘したこの広告。

私たちが、この商品の利用者を探すと、ネット上に複数の書き込みが見つかった。

そして、その中のひとりに話を聞くことができた。

購入した女性
「Facebookを見ているときに、そういう記事、宣伝広告が流れてきました。売り上げNo.1とか品質No.1とか、いろいろなNo.1が並んでいるのを見て、それで信用できる要素だなと思いました」

以前から歯のホワイトニングに興味があったという女性は、たまたま見た広告に数多く書かれたNo.1という文字を見て、利用者から評価されていると思い、購入を決めたという。

商品は、初回の購入時のみ1本980円。

2回目以降は、2本でおよそ8000円。

解約しないかぎり商品が送られてくる仕組みだった。

女性は、期待したような効果が得られなかったとして、1か月で解約しようとした。

ところが、解約のための電話がいっこうにつながらず、解約するまで、苦労したという。

購入した女性
「解約するために電話をしたが、すぐにつながらず、次の商品が届いた。最終的に解約することはできたが、解約のために2~3日で100回は電話をかけた。私以外にも解約できなくて困っているというSNSの書き込みもあり、信頼して購入したのに裏切られた気持ちだ」

広告主は

14のNo.1を獲得したと表示された、この歯磨き粉の広告。

No.1の根拠となる調査はどのようなものだったのか。

私たちは関西にある、広告主である、商品の販売会社に向かった。

取材を申し込むと、カメラでのインタビューは、応じられないとしたうえで、会社の副社長に話しを聞くことができた。

No.1の根拠について聞くと。

副社長
「インターネットのアンケート調査で1位が取れたものです。4つの商品名が書かれたものの中から選んでもらいました」

続いて、調査の対象が、「歯の着色の汚れなどが気になる324名」になっている点について聞いた。

すると、
▽質問項目で、歯の着色の汚れなどが気になるか尋ねているが、実際に商品を使用したかどうかは確認していないこと、
▽中には使ったことがない人の回答も含まれていることを明らかにした。

商品を使用していない人の回答が含まれていたのは、11のNo.1表示だという。

その中には、品質評価やおすすめ度評価、購入しやすさ評価、信頼度評価などが含まれていた。

こうした評価を、商品を使ったことがない人に聞くというのは、問題があるのではないかと、私たちが質問すると。

副社長
「商品にどんな成分が含まれているかなどは説明していて、それを見てどれがいいと思うかというアンケートをしているので、問題があるとは考えていない」

そして、誤解を招くという指摘があれば、修正するつもりはあるが、今のところそういった指摘はないと答えた。

また、No.1の根拠にしているデータは、あくまでインターネットによるイメージ調査の結果で、そのアンケート調査を行ったのは、契約している調査会社だと説明した。

調査会社は

調査会社とは、広告主から請け負ってNo.1広告の根拠の元になるデータをアンケートなどで集め、分析する会社だ。

取材を進めると、歯磨き粉の広告のNo.1データを調べたのは、九州にある調査会社だと分かった。

事務所を訪ね、社長に話を聞いた。

イメージ調査の詳しい方法を教えてほしいと伝えたが、社長は「個別の案件には答えられない」と話し、詳しい説明は得られなかった。

イメージ調査とは

そもそも、イメージ調査とは、どのようなものなのか。

その仕組みを、No.1調査を手がけてきた別の調査会社から聞くことができた。

代表の保木佑介さん。

イメージ調査はここ数年、一部の調査会社の間で広がっている手法だという。

従来の一般的なNo.1調査は、例えば、販売実績やシェア率、商品の性能など客観的な数字を元にしたものだ。

一方、イメージ調査は、満足度など、主観的な気持ちや意見を尋ねるものだ。

主観的な気持ちや意見は、聞き方によって答えを誘導できるため、簡単にNo.1を作り出せる側面があるという。

保木さんの会社では、こうしたイメージ調査は、これまで行ったことはないとしている。

保木さん
「サイトによるイメージ調査は、ウェブサイト上の写真などを見ただけで、良いかどうかを判断するもので、実際の利用の有無を問わないものもある。サイトを見てネガティブな印象を持つことはそんなに無いし、いくらでもきれいにウェブサイトは作れる。そのため、イメージと実際のサービス内容などにかい離が生じるおそれがある」

保木さんは「イメージ調査自体が悪いわけではない」とした上で、「やり方に問題がある場合がある」とした。

そして、一部の調査会社で行われているという1位を取らせる手口にはどのようなものがあるのか、一例を教えてくれた。

それはアンケートの質問項目を多くするという手法だ。

例えば、コーヒーに関するアンケートでは、味や香りなど、質問の数を増やし、その中のどれか一つで一番になれば、そのことをうたったNo.1のコーヒーとアピールできるというものだ。

保木さん
「例えば、アンケートをとる時に10項目あったとして10項目全部で1番にならなくても、どれか1項目だけでも1番を取れたり、1つの項目でもポジティブな回答が得られたりしたら、No.1だと発表する」

また、比較はまったくせず、自分の会社の満足度を尋ねて、回答の7割から8割がポジティブな回答だったらNo.1と表記してしまうケースも聞いたという。

保木さん
「No.1は作ろうとしたら簡単に作ることはできる。結果が分かっている調査は調査会社にとってみても、とても楽な調査で、クライアント(広告主)としてもリスクがない。絶対(No.1が)取れるのであれば、発注するという判断ができると思うので、頼みやすい。Win-Winの関係だと思う」

No.1を作り出す手法は

さらに取材を進めると、このイメージ調査を使ったNo.1広告の制作に実際に関わっていたという人物からも話を聞くことができた。

教えてくれたのは、No.1の「競合相手」つまり「ライバル」を恣意的に「外す」という方法だ。

例えば、店舗で販売するお菓子を作っているメーカーがいたとする。

No.1を取りたかったが、依頼主の商品Aは、最初のアンケートでは3位になる。

その場合、Aより上位の2つの商品を別の物に入れ替え、再びアンケートをとる。

最初に1位、2位を取った強力なライバルが排除されるため、2回目以降のアンケートではAがトップになる確率は高くなる。

これをAが1位になるまで繰り返すというのだ。

またアンケートが行われている期間の途中でも、1位になった瞬間に、集計をストップするという手法もあるという。

元調査会社男性
「自分たちがほしい結果を取れるまで、何回もアンケートをとる、集計を取る。そういった意味ではもうアンケートのデータというのはいくらでも改竄しようと思えば、改竄できます。広告主側も気にしてないですから」

No.1広告 広がりの背景は

No.1広告の広がりの背景には、インターネットで簡単に調査が行えるようになったことがあると、広告やマーケティングに詳しい月刊「宣伝会議」編集長の谷口優さんは指摘する。

谷口優さん
「昔は、市場調査をするには、家を一軒ずつまわったり、大人数で電話をかけたり、手間、コスト、時間がかかっていた。今は、ネットでモニターが簡単に集まり、調査をする方も、答える方も気軽にでき、簡単にデータが取れるようになった。大小さまざまな会社が調査事業にも参入した」

一方で、No.1広告にとびつく、消費者の心理も

谷口優さん
「インターネットの通販などで、買うことができる商品の選択肢が桁違いに多くなった。消費者の心理として、より多くの人に選ばれている安全なものを選ぶ傾向が見られる。今のように、社会や経済の状況が不安定になると、『失敗したくない』という心理も働く」

また、コロナ禍の巣ごもり中で、気軽なお小遣い稼ぎとして、いわゆるポイ活(アンケートなどに答えて買い物などで使えるポイントをためる活動)が人気だが、こうしたアンケートも、No.1広告のデータ収集に使えるという。

私たちが軽い気持ちで答えたアンケートが、都合のよいデータの一部となっている可能性がある。

JAROも危機感

広告や表示の適正化を目指している日本広告審査機構=JARO。

問題のあるNo.1広告の広がりに危機感を抱いている。

JAROによると、No.1広告について、ことし3月までの3年間で263件の苦情が寄せられている。

最も多いのがインターネット上の広告で、140件と半数を占める。

「地域No.1というがどの地域か分からない」
「イメージ調査なのに『売上』や『利用者数』に関するNo.1かのような表示になっている」
「お客様満足度No.1の根拠が5年前の古いサービスのものになっている」など、多くが、そのNo.1表示の根拠を疑問視するものだという。

川名周 事務局長
「一定数以上の苦情があったものは広告主に内容を伝え、必要に応じて適切な内容に変更することなどを呼びかけている。消費者にとって分かりやすく誤解のない「フェアな広告」は、企業どうしのよい競争につながるが、問題となるNo.1広告が広がってしまうと広告業界全体が衰退してしまう」

行政処分は広告主 調査会社は対象外

こうしたNo.1広告、広告主が行政処分を受けるケースも出てきている。

埼玉県は、景品表示法違反で、3年前に接骨院を経営する会社、2年前に家庭教師派遣会社の合わせて2件の行政処分を行っている。

このうち接骨院の広告は、『全国の患者様から選ばれてNo.1お客様評価』など、3つの分野でNo.1になったとアピールしていたが、前提となった調査がインターネットの「イメージ調査」で実際に利用した客へのアンケートではなかった。

さらに、そのことを分かるように表示しておらず、こうしたことが景品表示法違反にあたるとした。

埼玉県によると、処分したいずれの広告主も「調査会社からこの表示で問題無いと説明を受けた」と、していた。

しかし、この件で、処分を受けたのは、広告主だけだった。

埼玉県消費生活課 荏原智美主任
「景品表示法で責任を負う者というのが「表示物を最終的に決定した者」というふうに定められている。それに当てはめると、今回、広告主が最終的に表示の内容を決定したということだったので、広告主だけの処分になった」

埼玉県が、処分を行った2件のNo.1広告は、いずれも、同じ調査会社が、No.1の調査を行っていた。

これについてどう受け止めているか。

この調査会社に取材を申し込むと、文章で以下のような回答(概要)があった。

調査会社
「依頼された企業の意向に合わせようとNo.1の結果を出すために、いたずらに調査方法を操作するなどの非公正な調査を行うことは断じてございません。市場調査の適正さを確保するため、常に謙虚な姿勢をもって、市場調査の対象・方法の在り方の検証を重ねてまいりました。今後も、弊社内部の体制強化に加え、外部の専門家による監修体制を導入するなど、更なるサービス向上、公正な調査を行っていく所存です」

No.1広告が問いかけるもの

取材の中で、印象に強く残ったことばがある。

イメージ調査によって得られたNo.1広告を使っていたある中堅企業の叫びのような声だ。

「同業他社がNo.1を広告で3つ並べるようになったので、調査会社に依頼し、約180万円かけて3冠を表示するようにしました。集客率が1%でも上がればという思いです。本当はやめたい思いもありますが、同業者にNo.1を取られたらという強迫観念があります」

私たちの社会の信頼の基盤を形づくっているマーケティングの調査やデータ、そして広告表現。それらがゆがめられることがないよう、関係者には、公正な姿勢を貫いて欲しい。また、私たち消費者も、手軽に得られる目立つ情報ばかりをうのみにせず、慎重に見極めていく姿勢が求められると思う。

あなたは「No.1」をどこまで信じていますか?

科学文化部 記者
秋山 度

2012年入局。福井局・水戸局を経て科学文化部。ネット広告や子どもの事故などを取材

科学文化部 記者
島田 尚朗

2010年入局。広島局、静岡局などを経て科学文化部。消費者庁やIT取材などを担当

この問題は、5月17日(火)19時半からの「クローズアップ現代」でも放送します。「No.1広告」に関する情報、ご意見などを募集しています。
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