「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー番組」について、放送倫理・番組向上機構(BPO)の青少年委員会が4月、「青少年の共感性の発達や人間観に望ましくない影響を与える可能性がある」との見解を発表した。時代によって変わる「許容される笑い」を、制作現場や芸人たちも模索している。(「ドッキリの特番減る? 『痛みを伴う笑い』改善提言は現場を変えるか」、5月4日配信)
この記事に、文化人類学者の磯野真穂さんは「『笑い』というのは卓越した一つの技です。なぜ笑えるのかといえば、『普通はこうだろう』という人々の予想をぎりぎりの点でかわすから」と捉えて、次のようにコメントした。
「記事にある『相方の頭を思い切りたたく』というツッコミは、当たり前からズレたことをした相手と、その世界に導かれた観客を、当たり前の世界に引き戻すという一つの記号の役割を果たします。それが繰り返されるからこそ、笑いが起きる。これと罰ゲームなどで痛みを与える笑いはまた違ったものと考えますが、それが一緒くたに『暴力』『いじめ』という範疇(はんちゅう)に入れられることに、まず疑問を感じます」
また、青少年に悪影響を与える可能性の指摘についても「お笑いに限らず、このような意見は多様な表現に対して常に出され、往々にして批判側の意見は『正しい』ために勝ち続けます」と懸念。かつて放送された「北斗の拳」や近年人気の「鬼滅の刃」「進撃の巨人」は「かなりの暴力シーンを伴ったアニメ」だが、「(作品を)見た子どもが、それを見ずに育った人たちより、共感性を持たない大人に育ったなどというデータはあるのでしょうか」とも疑問を呈した。
その上で、子どもがお笑いや漫画で知った表現を現実世界に適用してみるのは「よくあること」であり、問題は「それを現実でやったらどうなるのか、という、自分の人間関係における匙(さじ)加減を子どもが学べるか」だとして、子どもがメディアリテラシーを身につける必要性を強調。こう警鐘を鳴らした。
「『ある表現』と『あるべき子どもの成長』を一足飛びに結びつけ、規制を進めるやり方は、表現とそれを見た子どもの間にある『世界』の問題を、置き去りにします。とはいえ、このような規制は止まることがなく、『笑い』に限らないあらゆる場所にこれからも張り巡らされていくことでしょう」
一方、朝日新聞の氏岡真弓編集委員は同じ記事にコメントし、「学校現場を取材していると、『痛みを伴う笑い』が教室に伝播(でんぱ)するのを感じます」と報告している。
「いじめの第三者委員会の報告を読んでいると、あれ?これはテレビでやっていた『痛みを伴う笑い』ではないか、と思い当たる場面もあります」と指摘。BPOの見解のうち、中高生モニターから不快感を示す意見が一定数寄せられていると紹介している部分は「重い記述だと考えます」として、制作者側に番組づくりの再考を促した。
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