国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は滞在していた米国ニューヨークのホテルで部屋を撮った一枚。ガラスに現れた光のグラデーションを見て、永瀬さんが感じたことは……。
―プリズム―
自然と人工物が作り出した、虹の世界。
ここはニューヨークで滞在していたホテルの部屋のベランダだ。
2週間余りの滞在中、この小さなベランダに設置してある、
テーブルセットで僕は毎日朝食をとっていた。
写真の背景に写っているように、
ベランダのすぐ前には存在感のあるアパートメントが、
こちらに迫るように立っている。
それでもパン、オレンジジュース、コーヒー、サラダ……、
ごくごく質素な朝食も、
都会のわずかな隙間を通り抜ける、
かすかな風・空気を感じながら食べていると、
そろそろ部屋の中で感じ始めていた圧迫感も和らいだ。
ただの旅行できているわけではなく、仕事で訪れているので、
そちらの方の、感じなくてもいいプレッシャーや重圧を、
勝手に抱えてしまったりする。
大好きな監督、スタッフ、共演者の皆さんたちとの仕事でも、
撮影が近づいてくると、いまだに感じてしまう不安。
撮影初日の1カット目が終わるまでは、
長いことこの仕事を続けさせていただいているが、毎回払拭できない。
この時も、仕事をする上でもプライベートでも素晴らしい環境を、
監督に作っていただいていたのにもかかわらずだ。
そんなある日、ふと気づいたこの光のグラデーション。
タイミングや天候で見えなかったのかもしれないが、
その時まで気付きもしなかった。
強化ガラスの壁のエッジに訪れた、美しい縦の虹。
それを見て、少しだけ、肩の力が抜けたような気がした。
からの記事と詳細 ( (154) ガラスの縁に現れた縦の虹 永瀬正敏が撮ったニューヨーク - 朝日新聞デジタル )
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