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Thursday, February 17, 2022

『図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか? 生きものの“同定”でつまずく理由を考えてみる』須黒達巳著(ベレ出版) 2200円 - 読売新聞

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 ふと目にした草花や虫の名前を知りたくて図鑑を開いたものの、結局よく分からずに終わったという経験を持つ人は少なくないと思う。本書を読むと、その「分からなさ」の中にとてつもなく深遠な世界が広がっていることに気付かされる。

 著者は、図鑑でものの名前を特定すること、すなわち「同定」に必要なのは「特徴を正しく捉え、形を見分ける目」を作ることだと説き、それを読者に実感させるためにさまざまな具体例を出してくれる。たとえば、似たような虫の中から蚊を見分ける問題は、初見では非常に難しいものの、著者からちょっとした手ほどきを受けるだけでかなり見分けがつくようになる。なるほど、これが「目ができる」ということか、と納得するし感動する。

 本書は単なるノウハウ本ではなく気軽なエッセイとしての側面もあり、文章のあちこちに著者のユーモアがちりばめられている。たとえば、ウグイスとオオムシクイというよく似た鳥の顔の違いを説明する際に、著者は前者を「まあ、しょうがないか」と言っているような顔、後者を「いえ、規則は規則ですから」と言っているような顔と表現する。思わず笑ってしまうが、そうやって自分なりの印象を言葉にするのも大切なことらしい。

 本書では著者自ら、専門外のシダやキモンハバチの同定にも挑戦する。その様子はまるで、他人の残した曖昧な手がかりに沿って洞窟を探検し、宝物を見つけようとしているかのようだ。すぐにゴールにたどり着けないもどかしさを抱えて右往左往するからこそ、少しでも理解が進んだときの気持ちは格別なのだろう。

 著者は、それまで図鑑でしか知らなかった生き物に外で出会えたときは、芸能人を生で見たような うれ しさを覚えるという。生物の多様性をじかに感じてほしいという著者の情熱に刺激され、私も生き物観察に出かけたくなった。

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