11月9日、瀬戸内寂聴さんが亡くなった。99歳だった。週刊東洋経済では2003年に瀬戸内さん(当時80歳)にロングインタビューを行っている。そこでは、日本がなぜ「決断力」を失ったのか、「想像力」を持つことの大切さ、今を生きるために何が必要かなど、さまざまなことを語っている。2003年2月15日号に掲載したインタビューを再録する。 この記事の写真を見る ■日本は定年が早い 瀬戸内寂聴氏、80歳。作家にして僧侶。法話を行えば、1万人もの人が押し寄せる。若い女性から、年配のビジネスマンまで、瀬戸内氏の著作をむさぼるように読み、話に耳を傾ける。混迷の時代だからこそ、人は真理を求めるのだ――。
――瀬戸内さんは岩手県の天台寺で、住職をなさり、4月から11月まで毎月法話をされています。JR東北線の二戸駅からタクシーで20分もかかるお寺に、数多くの人が訪れるそうですね。 多いときで1万5000人、北海道から沖縄まで、海外からいらっしゃる方もいます。共通の話題は「死」です。近親者に死なれた人、あるいは、逆縁という子供に死なれた人が最近多いです。 そういう人たちはもう慰めようがないですよ。だから「この中で、近い過去に愛する人に死なれた方は手を挙げてください」と言うと、ワーッと手が挙がります。それを見て「ほら、みんなの問題よ」と言うと、ちょっとホッとするようです。
それから、お父ちゃんがリストラされた家庭の親や子供たち、奥さん、あるいはリストラされた本人が来ている場合もあります。そういう人たちには、「元気を出しましょう」と言うしかないですね。 日本は定年が早いと思います。私は80歳なのに、こんなに仕事をしているじゃないですか。だから60歳で定年なんてかわいそうです。 ――最近出版された『釈迦』は、今多くの男性に読まれていますね。 そうなんです。それだけ世のお父ちゃんも悩んでいるのかと思いますね。ビジネスマンでも、40代後半から50代の男性が買いに来てくれて、今までにはない現象です。とてもうれしいです。この本は、もしかして自分の最後の作品になるかなと思って書きました。
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