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Friday, April 9, 2021

韓国版『鬼滅の刃』デザイン変更は適切だったのか? “現地化”の課題|山形新聞 - yamagata-np.jp

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 韓国Netflixで『鬼滅の刃』主人公の耳飾りデザインが旭日旗を連想させると非難を浴び、メイン画像が変更されたことが話題に。動画配信サービスによって世界各国から日本アニメが気軽に鑑賞できるようになった一方で、思わぬ批判に晒されるリスクも改めて露見した。果たして耳飾りデザイン変更は適切だったのか。韓国での日本アニメ受容の現在と、アニメコンテンツ“現地化”が抱える課題について、アジアの歴史的研究や、韓国・台湾での日本アニメの受容について研究する、中部大学の山元貴継准教授に話を聞いた。

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■韓国でも驚異的ヒットの『鬼滅』、劇場版公開時の騒動が再燃

 『鬼滅の刃』が韓国で注目を浴びたきっかけは、2019年4月の韓国ケーブルテレビにおけるTVアニメ版放映だ。その頃から「耳飾りのデザインが旭日旗に似ている。変えなければ劇場版は観ない」と一部の韓国人によって非難される事態になってはいた。一方で韓国国内でも「オリジナルを尊重せよ」「観なければいいだけのこと」の声もあがっていたが、韓国での劇場版(2021年1月公開)では、配給側は耳飾りのデザインを変更することを選んだ。この劇場版は、4月5日時点で通算観客動員数158万人超と驚異的なヒット作品となっている(映画振興委員会・映画館入場券統合ネットワーク調べ)。

 この人気を受け、2021年2月に韓国のNetflixでは『鬼滅の刃』TV版が配信される。だがそのメイン画像にある炭治郎の耳飾りが変更前のデザインであったことから、「変更せよ」と騒動が再燃したのである。

 この騒動に日本では、「また始まった」と呆れる声が多数上がる。「放射状のデザインを見るとすぐ騒ぐ」「むしろ花札に似ているのでは」など大きな反論を巻き起こした。さらに韓国の民間団体(サイバー外交使節団)「VANK(ヴァンク)」が「オーストラリアなど各国でのNetflixでも耳飾りを修正せよ」と世界発信に向けて動いたことで日本での反発は強まり、「いい加減にしろ」などの怒りの声も多数見られるようになったのである。

 今回のNetflixでの騒動について山元准教授は「やはりそうなってしまったかというのが最初の印象」と話す。

「近年に入ってから急騰した『旭日旗』探しと反発は、日本のものだけでなく世界各国のものに向けられています。しかし最初にお伝えしておきたいのは、このような『旭日旗』とそれに類似したイメージへの過激な反発はかなり新しい動きです。また、それに対する激しい反発も必ずしも韓国の人々全体のものではない。こちらの手元にもある、原作コミックスの韓国版でも修正などは加えられていなかったです」(山元准教授)

 つまり、映画の段になってそのキービジュアルが韓国側で広く見られるようになり、過激な層が飛びついた結果なのだ。

 山元准教授が言うように、韓国での旭日旗問題はごく最近の動きだ。その例として1991年に発表されたゲーム『ストリートファイター 2』では、エドモンド本田のステージシーンに大きな旭日デザインが描かれているが、当時韓国からの反発はなかった(その後、再発売される際に変更)。また2012年、韓国人歌手PSYが公開したMV『江南スタイル』には旭日旗を模したバナーが登場しており、この時も批判されることはなかった。

こうした騒動が生じると、作品を大っぴらに鑑賞しづらくなる。そのため今回の件を迷惑に思う人も多いという。

「韓国側の報道では、(劇場版について)ソウルなど大都市では客入り好調のようですが地方都市では厳しいようです。もともと韓国ではアニメ自体を大っぴらに観ることが難しく、とくに日本作品についてはより難しい。知り合いに会わない、知り合いがいても気づかない大都市の劇場に多くの人々が足を運ぶことも。そうした方々の大多数は、今回の騒ぎは迷惑に感じていると思います」(山元准教授)

■日本アニメは“現地化”も、「日本放映のまま観たい」需要の高まりも

 そもそも、韓国では以前より日本アニメの人気は高い。新海誠監督の『君の名は。』は観客動員数370万人超えの大ヒットを記録。宮崎駿監督の『ハウルの動く城』が約300万人、『千と千尋の神隠し』が約200万人とジブリ作品も親しまれ、多くの韓国人が「日本アニメが好き」と言っている現状がある。

 だがその前提として、キャラクターや舞台が“現地化”されている例が多い。結果、『鉄腕アトム』や『マジンガーZ』、『ドラえもん』など日本のアニメではなく韓国のアニメだと思っている人も少なくない。ちなみに、『クレヨンしんちゃん』のしんちゃんの名前は「シン・チャング」と、韓国式の名前に改名されている。

 「現地化」について山元准教授はこう解説する。

「韓国では、幼児・児童向け作品については依然として、登場人物の名前や設定、その舞台までも韓国各地にするといった“現地化”がはかられてきました。ちなみに、『プリキュア』シリーズなどの“現地化”は徹底している…というより、近年は最初から韓国でも放映されることを前提に、無国籍な設定で制作されています。一方では最近、日本の作品を『日本で出版されたまま、放映されたまま観たい』という勢力が大きくなっています。中高生以上を対象とした作品では、マンガでもアニメでも日本の設定そのままの翻訳が定着し、とくに日本アニメを楽しむケーブルテレビでは、時間帯によっては韓国語字幕のみで放送されるものも少なくありません」(山元准教授)

 “現地化”は、海外でアニメ放映する際の一般的な手法だが、今回のデザイン変更騒動のように認識の差が生じた際にどの程度配慮が必要か、線引きは難しい。しかし、作品舞台の背景や、話の文脈から変更の是非を判断することも重要ではないだろうか。

「韓国では一時の動きによって、すっかり『旭日旗』がかつて『大東亜共栄圏』を掲げてアジア進出をはかった大日本帝国の象徴とされてしまいました。しかし『鬼滅の刃』の舞台となった大正時代初期の日本の人々が『旭日』をそう認識していたとは考えにくい。あくまで『海軍』の象徴でしょうし、作中で言及されるように『大正に改元したことを知らない人々もいる』状況。作者はもちろん、当時の人々にとっては『旭日』は、『花札』にも取り入れられている一つのデザインであり『アジア侵略(進出)』と重ねて見ていたと考えるのは難しい」(山元准教授)

 とはいえ、それを見て嫌な気持ちになる韓国人がいるなら「世界発信の前に配慮すべきだったのか?」。山元准教授は、否と考える。もしそうしていたら、今度は「なぜ改変した」と騒ぐ層が出てくるはずというのがその理由だ。

「今回の騒ぎには、日本で放映されたまま『放映したかった』『観たかった』層と、近年残念な方向にある日韓関係、その狭間でのジレンマを感じます」(山元准教授)

 「日本版のまま観たい」層が増加している事実からも、むやみな変更は作品のファン(=顧客)のニーズと乖離するリスクも生じさせる。また必要以上の配慮は作品内に込められたメッセージを汲み取りづらくする恐れもある。一概にデザインを変更するのではなく、作品の良さを損なわないことへの配慮も大切。今後も日本のコンテンツを世界に届け、多くの人が楽しむためには、より深い議論が必要だろう。

(文=衣輪晋一)

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