
『このミス』大賞シリーズ 『薬も過ぎれば毒となる 薬剤師・毒島花織の名推理』(宝島社文庫)
客室係の控え室では中野さんと南さんが睨み合っていた。
「どうしたんですか」
「この人が水筒に睡眠薬を入れたのよ」
中野さんは蓋を取ったステンレス製の水筒を突き出した。ハーブティーを入れていたものだ。
中を覗くと薄茶色の液体の中に、白い細かな欠片が漂っているのが見える。
「何かありますね」
「砕いた睡眠薬よ。この人が中に入れたのよ」
中野さんは憎々し気に南さんを見る。
「違います。中野さんの誤解です」
しかし南さんは否定する。これだけでは、何がどうなったのかわからない。
いきりたつ中野さんをなだめて、なんとか話を聞き出した。
それによると、パートの従業員を帰宅させた後、二人は残った仕事を片付けていたそうだ。
中野さんは控え室で従業員の勤怠管理と来月分のシフト作成を行ない、南さんは各階の倉庫をまわって、リネンやアメニティの在庫管理を行なった。
しばらくすると南さんが戻って来て、爽太が薬剤師だという女性と一緒に三〇五号室に行ったという話をした。
なくなった薬の件で宿泊客と話をするのだろうと思い、仕事をしながら爽太からの連絡を待った。
途中で中野さんは洗面所に立った。
五分ほどで控え室に戻ったが、そのとき冷蔵庫の前にかがみこんでいる南さんを見つけたそうだ。
南さんは、中野さんの水筒を左手に持ち、右手を蓋にかけていたという。中野さんに気がつくと、慌ててそれを冷蔵庫に戻した。
それで中野さんはぴんと来た。私の水筒に何をしたの、と中野さんは怒った。
しかし南さんはそれを否定した。何もしてない、使い勝手がよさそうだと思って重さを確かめていただけだ、と主張した。
嘘よ、嘘じゃないです、と言い合いをしているところに、ちょうどリンさんが戻って来たそうだ。
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