首班指名での注目点
9月16日の首班指名で注目していたことがある。菅義偉氏が首相に指名されることではない。自民党と公明党が多数を占める国会にあって、菅氏の首班指名は規定路線だ。
それよりも、前日に結党大会を開いたばかりの立憲民主党と国民民主党がどのような投票行動を示すのか。もっとも衆参で150名を擁し、今や最大野党となった立憲民主党は、枝野幸男代表の名前を書くだろうが、その立憲民主党への合流を拒否し、仲間を削られて15名の小世帯になった国民民主党はどうするのか。実は筆者は首班指名の前夜、玉木雄一郎代表に電話で聞いている。
筆者「明日の首班指名は、国民民主党は『枝野』と書くのか、それとも『玉木』と書くのか」
玉木「それは明日決めることになっている。投票には党議拘束をかける予定だ」
対照的な2つの結党大会
結党大会を終えたばかりの玉木代表の声は明るく聞こえた。同じ日に開かれた立憲民主党の結党大会の会場が都内のホテルのホールだったのに対し、国民民主党は有楽町駅近くのビルのレンタルスペース。低い天井に配管がむき出しなど、およそ公党が新たなスタートを切る場としてふさわしいとはいえなかった。
しかし小世帯の特質を生かし、ひとりひとりの議員が得意分野の政策を語るなど、結党大会は手作り感が満載ながらも成功したといえるだろう。立憲民主党の結党大会と比べても、内容では引けをとらなかった。いやむしろ勝っていたかもしれない。立憲民主党は綱領で「立憲民主党」と記載すべきところを「民主党」と記載していた点を当日まで気付かず、副代表に就任した玄葉光一郎氏が党大会の会場で訂正。また来賓として登壇した女子高校生未来会議発起人の町田彩夏氏の発言は、立憲民主党に突き刺さる結果となっている。
「組織に女性はいるのに幹部や指導的な立場に女性が一人もいない状況は、どこか不自然だと思いませんか。選出の過程や評価基準そのものが公正ではなかったという可能性はありませんか。私たちが求めるのは、女性が差別されている社会構造を見つめ、正していくことです」
この日に発表された立憲民主党の党人事(22ポスト。うち3ポストは未定)では、幹部として登用された女性議員は代表代行の蓮舫氏、常任幹事会議長の田名部匡代氏、副代表の辻元清美氏と森ゆうこ氏、ジェンダー平等推進本部長の大河原雅子氏の5名になる。
一方で、所属国会議員15名中5名が女性議員の国民民主党は、役員のポスト25のうち9のポストを女性議員が占めた(重複を含む)。女性登用率という点では、立憲民主党より高いのだ。そうした点も自信の源になったのだろう。玉木代表の声を電話で聞きながら、翌日の首班指名では国民民主党は「玉木雄一郎」と書くだろうと思った。そうでなければ、わざわざ分党した意味がないではないか。しかも参議院ではすでに9月14日、立憲民主党と国民民主党は共同会派を解消した。いや正しく言えば、立憲民主党側から解消されたのだが。
突き付けられた会派解消通告
「これから参議院での共同会派解消の届け出を出します」
国民民主党の大塚耕平氏に立憲民主党の長浜博行氏からこのような連絡があったのは、正午前だった。参議院では両党は共同会派を組んでいたものの、議員総会を別々に開くなど、その関係は決して好ましいものではなかった。もし会派解消をやめてほしくなければ、首班指名で枝野の名前を書き、これから議員総会も一緒に開くこと―。立憲民主党から要求は通告そのものだったという。
「16日からの臨時国会に間に合わせるには、他の全会派にも了承してもらう必要がある。しかも自民党は総裁選で最も忙しい日なのに、そのようなことが可能なのか」
たとえ立憲民主党からの要求をのんだとしても右往左往するのは必然だと、ある議員は話してくれた。この日は午後から玉木代表は連合に行くことになっており、永田町に戻ったとしても夕方近くになる。
「玉木雄一郎」と書けないのか……
「首班指名について、『玉木雄一郎と書くべきではないか』という意見もありました。ほとんどの人はそう思っていたに違いありません。しかし我々の“仲間”のことを考えると、ここで逆らうことはできません」
“仲間”とは、立憲民主党への合流を拒否しながらも、支援団体の都合によって国民民主党に入れなかった議員たちを指す。立憲民主党と国民民主党を“大きなかたまり”にしたい連合の意向は否定できない。
その連合も態度を軟化させてきた。15日の国民民主党の結党大会に相原康伸事務局長が出席し、祝辞を述べている。この兆候を国民民主党は変えたくない。だから首班指名で誰もが「枝野幸男」と書いたというのだ。
「ある幹部は、『本当の敵は自民党。立憲民主党はその敵なのだから、敵の敵ということで、立憲民主党は味方だ』と言いました。我々はそれで自分たちを納得させることにしたのです」
そういえば首班指名の後のぶら下がりで「なぜ国民民主党は『枝野幸男』と書いたのか」と尋ねた筆者に対し、玉木代表がちらりと見せた微妙な表情を思い出す。あれは無念さが現れたものだったのか。それとも気持ちを切り替えようとしたものだったのか。
いずれにしろ政界では、「味方の味方は敵」ということはあっても、「敵の敵は味方」ということは必ずしも成り立たない。玉木代表が率いる国民民主党の苦難は、これからも続くに違いない。
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