先日、お休みの日に散歩していたら、すぐそばで突然大声が聞こえて、周囲にちょっとした人だかりができていたんです。 見ると、ひとりの男性が、手や肩などを4、5人の警察官に支えられながら、警察車両に乗り込むところでした。 その男性の発言を聞いていると、何らかの事実で逮捕された直後という様子のようでした。
仕事柄気になってしまい、ついつい立ち止まって、「パトロール中の警察官がたまたま犯行を目撃して、応援要請をして、たくさんの警察官が集まったのか?逮捕状をもって自宅に来て逮捕したんだろうか」などと思いをめぐらせていたら、物珍しそうに見ていた人たちの中に、スマホでその様子を撮影している人がいたんです。
それに気づいた警察官が、「やめてください」と注意して、すぐにその方はやめたのですが、それを見て、こういう場面を撮影しようとするかたがいるんだなと少し驚きました。
今は、一般のかたも気軽に、撮影した動画や写真をネット上に投稿して公開できる時代です。
もしかしたら、今回私が目撃したような場面をネット上で公開しても、そもそも、みんなが見ている路上で起きた出来事だったし、しかも、本人(撮影された被写体となった人のことです)にも警察官に取り押さえられるような原因があったのだろうから、公開しても問題などないだろうという発想があるのかもしれません。
でも、そのような発想で投稿してしまうと、思いがけず、ご自身が、法的リスクを負うことになります。
撮影された人に対する社会的評価を低下させるという内容の動画、写真をネット上で公開すれば、そのような行為は名誉棄損罪に該当して刑事処罰の対象になる可能性があります。
また、人には、プライバシー権という自分の姿や情報を勝手にさらされないという権利や、肖像権という自分の姿を勝手に撮影されたりさらされたりしないという権利があります。
それなのに、撮影した動画や写真を、本人の承諾なく、勝手にネット上で公開したら、そのことがプライバシー権や肖像権を侵害する行為として不法行為と評価され、損害について賠償責任を負わなければならなくなる可能性があります。
名誉棄損罪に該当するか、民法上の不法行為に該当するか、という点は、一般論でいえば、個別の事情により、該当しないという判断になるケースももちろんあり得ます。
ただ、今回私が目撃したような場面を、顔も含めて動画や写真で撮影し、たとえば、「警察に逮捕された!」などとして投稿したら、やはり、名誉棄損罪に該当したり、不法行為と評価されて賠償義務を負ったりすることになる可能性は十分あると思います。
不特定多数の人に、「この人は、何らかの犯罪を犯して警察に逮捕されるようなことをした」という受け止め方をされれば、その人の社会的評価を低下させることは間違いないでしょうし、通常そのような動画や写真を公開されることを本人が承諾するとは考えられません。
公開の目的やその公開の仕方、内容等によっては個別の判断により、不法行為と評価されないケースもあり得ますが、通りかかりに、人が警察官に囲まれて警察車両に乗るという場面を撮影したものを、その人の顔も隠さずに公開することは、単にその本人をさらす目的のもとでなされたものとして、不法行為と評価される可能性は大きいといえるでしょう。
あおり運転の映像公開もリスク
社会問題化しているあおり運転について、やはり同じようなことが問題となり得ます。
あおり運転の被害に遭ったかたが、ドライブレコーダーの映像を、そのままネットに公開したら、そのことが名誉棄損罪に該当したり、民法上の不法行為と評価されて賠償義務を負ったりする可能性があります。
あおり運転の場合は、社会問題化していることもあり、その撲滅を図るために公開したんだ!という言い分もあるかもしれません。
たしかに、もっぱら公益を図る目的だったとすると、名誉棄損罪の成立に影響があったり、不法行為としての評価にも影響があったりします。
でも、あおり運転の運転者や車両の映像をそのまま公開することの目的が、もっぱら公益を図る目的だったと評価されるかは疑問です。
あおり運転を撲滅するためという目的だったら、その映像をすぐに警察に提出して捜査を進めてもらうのが一番です。
わざわざ運転者の顔や車両がわかるようにそのまま公開したら、その目的は、私的な制裁を加えることや世間にさらして追い込むことにあったと評価されてしまうおそれは十分にあると思います。
だれもが、ネットやSNS上で、容易に投稿することができる今、自分がしようとする投稿で、思いがけないリスクを負うことがないか、今一度慎重に考えてみる必要がありそうです。
ネットに誹謗中傷、個人情報等が掲載されてしまったら、、、
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元検事弁護士 高橋麻理先生のリーガルエッセイ
エッセイ執筆:
弁護士法人法律事務所オーセンス
元検事弁護士 (第二東京弁護士会所属)
高橋 麻理
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2002年検察官任官。東京地検、大阪地検などで勤務後、2011年弁護士登録。元検察官の経験を生かして、刑事分野の事件を指導、監督。犯罪被害者支援にも真摯に取り組んでいる。
弁護士法人法律事務所オーセンス
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