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Wednesday, July 29, 2020

国立アイヌ民族博物館の魅力|NHK 北海道のニュース - nhk.or.jp

アイヌ文化の発信拠点となる民族共生象徴空間「ウポポイ」が7月12日、白老町にオープンしました。その中核施設「国立アイヌ民族博物館」の館長を務めるのが佐々木史郎さんです。どのような博物館を目指すのか思いを聞きました。
(聞き手 苫小牧支局・中尾絢一記者)

【アイヌの人たちの考え方重視】
Q:アイヌ民族をテーマとした北日本で初めての国立博物館です。どのような特徴がありますか?

最も特徴的なのは、アイヌの人たち自身の考えを取り入れたことです。展示の基本的な計画段階から、アイヌ語教室や文化の伝承に関わっている各地のアイヌの人たちに手伝ってもらいました。展示の解説も、アイヌの人たちの意見や考え方を重視しています。アイヌ語による解説文の作成も依頼し、日本語や英語などに訳していきました。こうした考えは博物館の展示室や案内でアイヌ語を第一言語に採用したことにも反映されています。
博物館には、アイヌの人たちが歩んできた歴史を伝える役割があります。これまでアイヌの歴史は、研究者が実証的な証拠をもとに「この資料にはこうした記述が残っています」「遺物が発見されています」という形で紹介されてきました。それももちろん重要ですが、解釈するのはアイヌ自身でないといけないと思います。歴史を正しく伝えるというのは難しい問題です。しかし、国立アイヌ民族博物館ではできるかぎりアイヌ自身が自分たちをどう表現したいのか、自分たちの歴史をどう見ているのか、アイヌ自身の解釈を大事にしていきたい。

Q:どうしてそういう考えに至ったのですか?

私は長く海外でフィールドワークをしながら世界の博物館をみてきました。その多くは、先住民族の文化が一方的に展示されています。
一方、先住民族の運動が盛んになる1990年代から、少数民族の文化を展示する博物館で「フォーラムとしての博物館」という考え方が導入されました。つまり「見せる側(博物館)」「見る側(来場者)」「展示される側(先住民族)」の三者が議論を行い、展示を作っていく考え方です。
私も当時務めていた国立民族学博物館で実践してきました。ウポポイの設立目的はアイヌ文化の振興・発展、そして新たな創造です。ですから、それを実現するならばぜひアイヌの人たちに、展示の基本構想段階から関わってもらい、アイヌ自身が展示をつくっていく博物館になるべきではないかと思ったんです。

Q:海外の先住民族の博物館も参考にしましたか?

米ワシントンには、国立アメリカン・インディアン博物館があります。アメリカの先住民族をテーマにした博物館で、先住民族の人たちが運営しています。学芸員や研究員にもなっていますし、彼ら自身が議論して展示をつくっています。国立アイヌ民族博物館でも今後さらにアイヌの人たちを学芸員・研究員として招き入れ、展示の議論を進めていくかたちが理想的だと考えています。

【文化の発信に最新技術も】
Q:博物館には、新たな文化の創造という役割もあると思います。どのように発信していきますか?

ひとつは、調査研究と文化伝承活動の一体化を考えています。今までは、研究者がアイヌ文化の伝承者に一方的に聞き取りや観察を行って記録していました。これからは研究成果を文化の伝承者に戻し、利用してもらいたい。伝承者がいろいろな分析機器を使って、自分たちの技術を確認し検証する、さらに技術を高めていく。新しい技法を作り、研究者に利用してもらうことも考えています。
そのために博物館では機材もそろえました。ウポポイの工房で木彫りや工芸品を作る職人たちが博物館の研究室で、自分の技術がどういうものかを確認する。それが次世代の伝承者の育成に役立つと考えています。
博物館の準備期間中に、工房の若い職人に彫ってもらった「マキリ」と呼ばれる小刀をデジタルマイクロスコープにかけて観察をしたことがありました。すると、刃の跡は1ミクロン単位、つまり1000分の1ミリの誤差しかなかったんです。細かい分析の結果、改めて技術のすごさに気がつきました。
精巧な技術を伝承するには、最終的には職人に伝授してもらうしかないのですが、分析機器を使って確認することで、どこまで達成できたかが分かります。次世代の技術の向上にも直接使えるのではないかと思いますね。

【初級者から上級者まで楽しめる】
Q:来場者にはどのように展示を見ることがおすすめですか?

展示室では、アイヌ文化を初めて学ぶ人、知識がある人それぞれに楽しみ方があると思います。初心者には、アイヌ文化が持つデザインの美しさや技の確かさから入ってもらいたい。アイヌ文化を勉強している上級者には、これまで語られてこなかったアイヌの歴史を紹介するコーナーにぜひ注目してほしい。歴史コーナーの年表は一貫性がないように見えますが、実はアイヌの人たちが取り上げようとしてきた出来事を念頭に置いて展示しています。アイヌの人たちの目から見た日本の歴史がわかります。
自分の知っている知識にあわせて、見る場所を選んで見ていくと知識が深まっていくと思います。

Q:佐々木さん個人として、感じてほしいことは?

アイヌ民族は、私の視点からすれば、世界の民族のひとつです。シベリアなど北アジアの民族を研究してきた私からみれば、北方民族ではなく南方の民族です。
南の民族であるだけに、ほかのシベリアの民族にはない特徴があります。文様や着物を作る技術は、北方民族にはまず見られない。まったくないわけではないのですが、非常に稀です。しかも、孤立した狩猟・採集の民族ではありません。まわりに日本や中国という大きな国が近くにありましたので、国家との付き合いが非常に長い民族で、それだけに文化は国の影響を受けています。逆に言うと、ほかのシベリアの民族に比べると洗練されていて、非常に複雑な文化をつくっている。
しかし、あまりにもいろいろな文化が混じり合い過ぎてしまい、「これがアイヌのオリジナル」といえるものは私たち和人の目には見えにくい。でも、おそらくアイヌの人たちが見るとこれがオリジナルというものはあるのです。つまり動植物などを神として敬い生きてきたアイヌの世界観の中に、我々にはなかなか理解できないアイヌ民族の核というのが隠されていると思います。
アイヌ民族には、樺太・千島列島・北海道・本州と大きく4つのグループがあります。それぞれに文化・方言がありますが、中核部分は共通しています。ヘイトスピーチなどで「アイヌ民族はいない」と言われることもありますが、それが明らかに間違っていると思うのは、どこかに譲れない核の部分があって、それだけは今もしっかり守られているということです。そして、その部分を共有している人たちがアイヌ文化を担っている。それが私の考え方です。
アイヌの長老「エカシ」に話を聞くと、「若い伝承者の所作のここが違う、あそこが違う」と指摘します。それを突き詰めていくと、そこにアイヌの心があると感じます。それをやっぱり大切にしたい。ウポポイでは最後までその心を守りながら、時代に合った新しいアイヌ文化をつくりあげたい。それがウポポイの使命ではないかなと思います。

Q:館長が考える民族の共生とは?

先住民族の復権運動をしていた人たちの中には、かつて、文化は先住民族だけのものだとして独占しようとする動きもありました。しかし、それでは文化を保てない、文化はお互い支え合って存在しているものだと気づいたのです。
アイヌ文化についても、アイヌだけではなく、サハリンの先住民族・和人・中国の満州の人たちなど様々な人たちに支えられてきた一面もあります。
文化は、持ちつ持たれつの関係にあります。アイヌの人たちが「私たちも日本の文化を支えてきた」という自負もある程度は示してもらいたいというのはある。アイヌ文化にも、和人由来のものももちろんありますが、決して全てがそうではない。たとえばアイヌが生産してきたコンブのように、日本の食文化の根幹を支えてきたものもあるので、そういったものは全面に出してもっと自信をもってもらいたい。文化は人口の大きさではなく、お互い支え合って成り立っているということを見せたいですし、アイヌの人たちも自信をもって、文化伝承や研究者の道に進んでいってもらいたいなと思いますね。

【アイヌの人たちが主役に】
Q:館長が描く博物館の将来像はどういったものでしょうか?

博物館は10年、20年のスパンで考えることはできません。100年、200年と続くものなので、こうした時間的な流れの中で長生きさせてもらいたい。
道内各地にはすでに先人のアイヌの人たちが作った博物館があります。そこにも長い歴史があって、その延長線上にこの博物館があるのです。そういう意味では、この博物館は日本の国立博物館のなかでは特異な博物館ですが、アイヌが運営する博物館としては珍しいものではない。それを国立で運営するというところに大きな特徴があり、国立であるがゆえに、今までのアイヌには経験しなかった課題も出てきます。
これまでは、各地域の文化を紹介すればよかったのですが、ここでは、全てのアイヌの文化を紹介しなければなりません。自分の出身のものではないものも紹介していく。そこに新しい経験がまた生まれていく。それもこの博物館の特徴であり、アイヌ自身がやっていかなければいけない、文化を新しく創造するためにやっていかなければいけないひとつの課題だと思います。
これから主役として働いていくアイヌの人たちの中から人材を育成していくのも大切な役割です。国立博物館のなかで、それぞれのアイヌが自分の出身地方の文化も振興していってもらいたいし、アイヌ全体の文化も振興していってもらいたいという希望があります。それは未来への要望でもあります。

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