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Saturday, July 18, 2020

<紙上落語会>読んだってや 笑福亭瓶二「猫の皿」 - 東京新聞

 コロナ禍(か)に加え、大雨や長雨も重なり不安だらけの日々ですが、しばし「第2回紙上落語会」にお付き合い願います。本日は「猫(ねこ)の皿(さら)」を、上方の実力派、笑福亭瓶二(しょうふくていへいじ)(50)の高座を活字でお届け。茶店の主人と旅の道具屋との軽妙なやりとりをお楽しみください。

 ある大阪の道具屋さんが四国へ買い出しに行ったんですが、めぼしいものが見つかりませんで、手ぶらで大阪に帰ることになりました。ちょっと休んでいこうと峠(とうげ)の茶屋の床几(しょうぎ)に腰(こし)を下(お)ろして一服(いっぷく)しておりますと、一匹の猫がご飯(はん)を食べとります。それをじーっと見ておりますと、猫のご飯の入った器(うつわ)がただもんやない。「絵高麗梅鉢(えごうらいうめばち)」の茶わんいうて、その道の専門家が見ますと唸(うな)るぐらいの一品で。

これは高価な器かニャ~

これは高価な器かニャ~

 「ウソやろ…絵高麗梅鉢の茶わんや。向こう行け猫、しっしっ! …ほんまもんやがな。捨(す)て値(ね)で売っても三百両(りょう)はくだらん代物(しろもの)や。こんなんで猫にエサやってるがな、知らんっちゅうのは恐(おそ)ろしいもんやなぁ。…そや! 猫おいで、猫こっちおいで! な、猫! …猫っちゅうのはおかしいか。なんぞ名前あんねやろけどな…。タマ、ターマ! …違(ちが)うんかいな。ミーちゃんこっちおいで、ミーちゃん! もう何でもえぇわ、こっち来い! あ〜おまえはかわいいなぁ」

 「お客さん、そんな膝(ひざ)の上に置いてもうたら、着物が汚(よご)れまんので」

 「いやワシ猫好きやねん。かわいい猫やなぁ」

 「毛が生(は)え替(か)わる時期ですよって、着物が毛だらけになります。おい降(お)りろ、降りんかい! ほら、降りんかい! 猫!」

 「やっぱり猫いうんかいな」

 「場所が場所だけに、みな犬とか猫とか捨てていきよりまんので。いちいち名前付けとったら切(き)りがおまへんねん。ほんまに汚れますよって。降り、猫!」

 「えぇねん、えらいなついとる。おとなしい猫やなぁ」

 「猫も分かりまんねやろなぁ。嫌(きら)いな人やったら近づこうとしよりませんが、えらいなついて、おとなしいしとりまんな」

 「この猫、おやっさんとこの猫かいな?」

 「はぁ。さいぜんも申しましたように、みな捨てていきよりまんので、かわいそうやからエサやっとったら居(い)ついてしもて。方々(ほうぼう)にもらわれていったんですが、この子だけ残ってしもて。今ではばあさんがえらいかわいがってるてなことで」

 「さよか。うちもな、これとそっくりな猫飼(こ)うとったんや。けどな、半年前に死んでしもて。嫁(よめ)さんえらい泣いとったわ。すまんねんけどな、この猫もろて帰ったらいかんか? 嫁さんえらい喜びよんねん」

 「ばあさんが留守(るす)しとりましてな。勝手(かって)にやったら、えらいぼやきよるんで」

 「えぇがな、あ、懐(ふところ)入ってきた! えらいなついとるわ。わしもう離(はな)さへんで! もうこの猫離さへんで!」

 「…さよか。まぁ猫もそんだけかわいがってもうたら本望(ほんもう)でっしゃろ。ばあさんにはうまいこと言うときますよって。かわいがっとくんなはれ」

このお皿は300両?知らニャイ

このお皿は300両?知らニャイ

 「そうかそうか。…ほんでなぁ、これ、ちょっと少ないけど三両置いとくわ。取っといて」

 「そんな三両ってな大金…」

 「今までのかつお節代や思て取っといて。ほんでなぁ、わしこれから方々で仕事して帰んねんけどな。猫にエサやる時になぁ、器なかったら困るさかい…。あぁ、ちょうどこれでえぇわ! うんうん、ちゃちゃっと洗(あろ)て新聞紙かなんかにくるんでくれたらえぇから」

 「器やったら今えぇのん持ってまいりまんので…」

 「これでえぇねん。ちゃちゃっと洗て新聞紙かなんかにくるんでくれたらえぇから」

 「サラのえぇのん持ってまいりまんので…」

 「えぇのんいらんねん。これでかめへんねん。ちゃちゃっと洗てくれたらそれでえぇさかい」

 「ほんなら割れたらいかんので、プラッチック(=プラスチック)のえぇのん持って来まんので…」

高価な逸品だらけ?の骨董(こっとう)市

高価な逸品だらけ?の骨董(こっとう)市

 「プラッチックいらんねん! これでえぇのやがな! 猫って繊細(せんさい)な生き物や。器変わったらエサ食わへんだりしよるやろ。これでえぇねん、もう洗わんでえぇわ、これもろて行くで」

 「ちょちょ、ちょっと待っとくんなはれ」

 「何や?」

 「その器は差し上げるわけにはまいりまへんので」

 「…何でや?」

 「それはそう見えましてもな、絵高麗梅鉢の茶わんと申しまして、まぁ捨て値で売っても三百両はくだらんてな品物で」

 「…これが? …こんなんが? へ〜ほんまに? いやぁ知らなんだなぁ。これが? …痛い痛い! 猫手ぇ引っかいて行きよったがな! ほんまに腹の立つ…、あぁ着物が毛だらけや。おやっさん、そんな大事な器やったらな、何でそれにエサ入れて猫にやってんねん」

 「それが不思議(ふしぎ)なもんでしてなぁ。それにエサ入れて猫にやりますと、猫がちょいちょい、三両で売れまんねん」 (構成・戒能真理=構成作家)

<猫の皿> 東西で演じられる古典の滑稽噺(ばなし)。「猫の茶碗(ちゃわん)」の演題でも知られる。「絵高麗」は江戸中期以降、朝鮮半島や中国から渡来した焼き物。諸説あるが、江戸末期ごろの三百両は現在の貨幣価値で六千万円ほどといわれる。

<しょうふくてい・へいじ> 1969年12月、兵庫県出身。90年、笑福亭鶴瓶に入門。98年に活動拠点を東京に移す。CD「5分落語」=写真=に参加し好評。子ども向けの落語のワークショップにも定評がある。

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