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Thursday, May 7, 2020

なぜ苦しんでいる人をさらに批判するのか?「公正世界仮説」とは - マイナビニュース

なぜ苦しんでいる人をさらに批判するのか?「公正世界仮説」とは

音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦が、世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている 〜アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス〜」。第25回は苦しんでいる理由を正当化しようとする「公正世界仮説」をテーマに、産業カウンセラーの視点から考察する。

THE BLUE HEARTSの「TRAIN-TRAIN」に「弱い者達が夕暮れ さらに弱い者達をたたく」という有名なフレーズがあります。また、佐藤タイジは「朝焼けのHumanity」で「犠牲者は自己責任らしい」と歌い、最近では感覚ピエロがこのご時世にズバリ「感染源」という曲を発表していますが、その中で「突きつけられた現実はこうです『自己責任』と『自己判断』」と歌っています。

こうした「自己責任論」も含めて「被害者にも落ち度や悪いところがあったに違いない」と考え、被害者を非難するというケースがあります。なぜそのようなことが起きるのか、ということの説明に、社会心理学者のメルビン・ラーナーによって提唱された「公正世界仮説」があります。

彼は、普段温厚な学生が、社会の問題によって貧困に苦しんでいる人を蔑んだり、温和な医療従事者が精神障害者を蔑んだりするのを見て疑問を抱きます。これは従来の心理学では説明ができない現象でした。そこで彼は実験を行います。実験には72名の女性が参加し、共同被験者が電気ショックを受ける様子を見るように指示されます。実はその電気ショックを受ける被験者はサクラで、苦しむ演技をしているだけなのですが、その苦しむ様子を見た参加者達は動揺しました。しかし、それを見続けているうちに、電気ショックを受けている人に対して差別的な態度を取るようになったのです。そして、その電気ショックが大きくなればなるほど差別的態度は大きくなりました。また、その電気ショックを受けている被験者が「後でその苦痛に見合う報酬をもらえる」と聞かされると、差別的態度はなくなりました。

これについてラーナーは、実験の参加者が差別的態度になった理由は「そうした酷い目に遭うのは、その被験者が何らかの悪いことをしたからに違いない」と解釈したためだろうと考えます。そして人間には「良いことは良い人に起こり、悪いことは悪い人に起こる」、言い換えるならば「人はその人の行動や言動に見合った結果がもたらされる」という信念がある、と考えました。このような心理的バイアスが「公正世界仮説」です。

人は、世界に安定や秩序を求めます。そして、世の中は公正で、善良な人には良いことが起きると思いたいし、理由もなく傷つけられたり、不当な扱いを受けたりしたくはありません。そのため、理不尽な事態を実際に目の当たりにすると、安定や秩序を脅かされるために動揺します。そうした被害を受けた人が善良な人であればさらに理不尽さを感じ、世の中の公正さに対して不安を抱くことになってしまいます。しかし、その被害者に何らかの落ち度や悪いところがあったと考えると、それはその人の自業自得ということになり、「仕方がないことだ」と思えるようになります。そうして「世の中の公正さ」は維持されることになります。

しかし、当然ながらそのようなやり方で、上部だけ世の中の公正さを維持し、それによって被害者がさらに傷つけられて良いはずがありません。こうした例は、いじめの問題などでもよく現れます。いじめのような理不尽な事態は公正な社会にはあってはなりません。もし自分がそのような目に遭うならば、それは恐怖です。そして、それに対して自分が無力であると思い込んだ場合、「公正な社会」を維持するために「いじめられる方にも悪いところがあったに違いない」、「仕方がないことだ」と考えてしまうのです。

また「努力は必ず報われる」という信念も、時にこの公正世界仮説の暴走を生じさせることがあります。努力が報われない世の中は不安です。努力をすればそれ相応に確実な未来を得られると考える方が安心します。その信念と安心を維持するために「失敗した人は努力が足りなかったに違いない」と考えて非難するのです。誰かが暴漢や痴漢に襲われてしまった時や、病気にかかってしまったときも、何の落ち度もないのにそのような理不尽な苦しみを受けるということは、人にとって不安であり、恐怖です。そこで、被害者に何か悪いところがあったに違いないと思うことで、安定が得られるのです。無闇な自己責任論にはこの公正世界仮説がある場合があります。

公正な世界を信じること自体は、心の安定をもたらしたり、未来志向や目標達成の意欲につながったりと、良い面もあります。しかし、それが被害者を更に叩くような方向に向かってはなりません。この連載のタイトルは『世界の方が狂っている』ですが、狂っている世界を公正な世界であると無理に解釈してしまうことは、多くの人を傷つけ壊してしまいます。冒頭で紹介した感覚ピエロの「感染源」では次のようにも歌われています。「人を助けられるのは人です 人を傷つけるのもまた人です 君はどっちになりますか」

<書籍情報>

手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

Official HP
https://teshimamasahiko.com/

本記事は「Rolling Stone Japan」から提供を受けております。著作権は提供各社に帰属します。

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