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Monday, April 13, 2020

「日本人は幻想を抱いている」『情熱大陸』新型コロナと闘うウイルス学者のドキュメンタリーがすごかった!(水島宏明) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

専門家会議のメンバーになっている研究者のドキュメンタリー

 TBS系で毎週日曜夜に全国放送しているドキュメンタリー番組『情熱大陸』(制作は毎日放送=MBS)。

 4月12日(日)夜の放送回でクローズアップしたのはウイルス学者・河岡義裕だ。

 世界で初めてインフルエンザウイルスの人工合成に成功した研究者だ。

 番組の冒頭はアフリカでエボラ出血熱の謎を調べるために河岡がコウモリの血液を採取して抗体を調査する場面だ。

 河岡はエボラウイルスの人工合成にも成功して、その技術がワクチン開発などに生かされているという。

 

 この河岡義裕は新型コロナウイルスで政府に提言を行う専門家会議のメンバーだ。

 新型コロナウイルスの感染防止が日本のあらゆる国民、いや全世界の人たちにとって最も重要な課題になっているこのタイミングで、この人物を取り上げてドキュメンタリーで放送することだけで「ありえない」ぐらい難しいことだ。

 なぜならふつうドキュメンタリー番組は取材交渉から実際の撮影、映像の編集など、どんなに短くても1か月ほどはかかるのが通常だからだ。しかも相手は現在、多忙を極めるはずの専門家会議のメンバーにもなっている研究者。

 通常なら絶対にドキュメンタリー番組になどはできないはずだ。

 もちろん新型コロナの感染拡大のような緊急事態になれば、各テレビ局はそういった取材も考える。しかし、そういった専門家会議の中に入るような撮影をすることができるのは公共放送であるNHKと相場が決まっている。NHKが『NHKスペシャル』や『クローズアップ現代+』など報道ドキュメンタリー枠で総力を挙げて緊急特集を放送するような感じで難易度が高いものだが、民放局の、しかも制作した局がキー局のTBSでなく、関西局のMBS、しかも報道番組というよりも芸能人も出れば市井で活躍する人など雑多な人間を取りあげることが多く、いつもはエンタメ色も強い『情熱大陸』で、というのは相当に意外な出来事だった。

以前も河岡義裕を取材して放送していた

 『情熱大陸』では実は2005年11月27日に放送された回で河岡を主人公にしたドキュメンタリーを放送していた。

 冒頭に出てきたアフリカでコウモリの血液を採取するシーンもそのときに放送された映像だ。

 15年前当時、河岡がウイルスの怖さについて語っていたインタビューを聞くと、新型コロナでウイルスの恐ろしさが迫っている現在の状況を言い当てていたことに驚かされるばかりだ。

(河岡義裕・ウイルス学者/2005年当時)

「今の世の中で流行が起きると経済はマヒするんです。

株価はガーンと落ちるし、'''

もう機能しない。社会が」

 まるで今の日本や世界の状況を予知していたかのような言葉である。

 河岡は今回の取材におけるすべての発言はあくまで個人の意見だと前置きしながらインタビューに応じた。

 政府の専門家会議のメンバーであることから専門家会議の公式見解ではないという前置きだろう。

(河岡義裕・ウイルス学者/2020年3月24日)

ロックダウン(首都封鎖)の可能性はぜんぜんありますよ。

こんな調子でやっていると。

だってこれ、(生活が)元に戻っているので。

元に戻っているってどういうことかと言うと、

海外と同じことをやっているということ。

流行前の(海外と)

日本は負けないぞ、みたいな

幻想を日本人はみんな抱いている。

だって、あの(感染者増の)グラフを見て、

各国がものすごく数が増えているのに(手振りで急上昇を示し)、

日本だけ(今のところ)低いじゃないですか(手振りでゆるやかな上昇を示す)。

日本はこれで行けるんだみたいな幻想があるんですよ。

それ大間違い。

だってウイルスは人を選ばない」

 現在、河岡に求められているのは、新型コロナウイルスのメカニズムを一刻も早く解明することだ。

 政府の専門家会議のメンバーとして知見を求められる一方で、河岡の研究チームも防護服に身を固めて日々休むことなく研究を重ねている。

 インタビューでの河岡の言葉は今の時期に聞くには一言一言に重みがある。

(河岡義裕・ウイルス学者)

(新型コロナは)マジでヤバいんだけど

これ、防げるんですよ。

それを一般の人たちにちゃんと分かってもらうようにするのが

われわれの使命だと。

それにはすごく責任感があって

そのためにわれわれは存在していると思うから、

やらないといけない」

 東京大学医科学研究所に籍を置く河岡はこの3か月あまりほとんど休んでいないと番組は伝える。

 報道番組であれば河岡の研究所での「肩書き」をテロップとして出すところだが、この『情熱大陸』ではそういうことはしない。

 「教授」とか「感染症国際研究センター長」などという肩書きはあえて外している。

 あくまで最初から最後まで「ウイルス学者」。それがこの番組の流儀で、余計な肩書き情報がない方が視聴者も主人公の「人間」をじっくり見定めることができるということだろうか。

(河岡義裕・ウイルス学者)

感染症って病原体に触れなければ感染しないからすごく簡単。

でも世の中ではそういうわけにいかないからあれ(油断する)なんですけど、

これに感染したら死ぬぞってことが分かっていれば、みんなもっと真面目にやるでしょ

 東京大学医科学研究所では彼を頂点とする複数のチームが同時並行で新型コロナウイルス対策に取り組んでいる。

 電子顕微鏡による新型コロナウィルスの分析もその一つ。

 ウイルスを感染させた猿の腎細胞をおよそ1万倍に拡大すると、黒いツブツブのように見える部分が新型コロナウイルスが細胞の表面に出ていた証だという。

 ウイルスは生きた細胞に入り込むことでしか増殖できない。そこで増えたウイルスがやがて細胞を破壊して、また新たな細胞に取り付いて同じことを繰り返すのだという。

 取材している女性ディレクターが質問した。

(ディレクター)

「こういう写真を見たとき先生はどこを見ているんですか? 

私なんか気持ち悪いとしか見えない」

(河岡義裕・ウイルス学者)

「これよくよく見るとすごく面白くて、この表面にきれいなスパイク(ウイルスの表面にある突起)が見えるでしょう?

これ、きれいに見えているんですよね。

あと面白いのはウイルスが必ずしも同じ大きさじゃないんだよね。

同じ大きさのウイルスもいるんですよ。

だけどこれは同じ大きさじゃなくて。

ウイルスそのものは他のコロナウイルスとそんなに変わらないんです。

ただどういう動物に感染するかとか、どういう細胞に感染するのか。そういう基本的なことがあんまりわかっていない

 研究所には新型コロナウイルスに感染した患者の検体が定期的の届く。

 すでにウイルスの毒性は消えているため、感染の危険はないという。

 この日、送られてきたのは免疫抗体を持つ可能性のある患者の血清だった。

 抗体を探るのもチームの重要なミッションだという。

 万一感染者が出ても作業が滞らないように総勢20人ほどのチームがそれぞれ別々の部屋で作業していた。

 時間ごとに感染者の体内にできる抗体の量を調べていた。抗体獲得のプロセスが明らかになれば、今後の対策に希望の光が差すはずだという。

(ディレクター)

「必ず抗体ができるわけでもない?」

(河岡義裕)

「それをちょっと調べてみたい。感染した人がみんな抗体を持っているのか。高い抗体をもっているのかをちゃんと(調査)したい」

 河岡は様々な側面からのアプローチを指揮していた。ときにはふとした閃きも突破口になる。

 河岡が教授を務めるアメリカのウィスコンシン大学とも連携し、スタッフに実験の指示を出すシーンも映し出された。

 新型コロナウイルスが猫同士でも感染するのか。

 接触や飛沫で感染が確認できればデータを取ることができる。

 2匹の猫を同じケージに入れて、1匹は感染させて、1匹は感染していない。

 猫に飛沫感染するのかどうか、を実験するよう英語で指示を出していた。

 どこに部屋があるのか絶対に分からないように撮影してほしいと取材班が注文された部屋も登場した。

 そこでは毒性が保たれたままの新型コロナウィルスを扱っていた。

 スタッフである女性の助教が手袋を2枚重ねて、テープで厳重な上にも厳重を重ねて装着。防護服も一度使ったら廃棄する。

 陰圧室なので内部の空気はけっして外に漏れ出ない。

 室内では感染させたマウスやハムスターなどの臓器を調べ、研究に最も適した動物を探していた。

 河岡は部屋の外からガラス越しに作業を眺めていた。

 どの臓器でどのウイルスが増殖するかまで丹念に観察。

 同じウイルスを投与しても動物によっては発症しないものもあるという。

 実験動物の絞り込みが行われる場面では、それぞれの動物の肺のCT画像をパソコン画面に映し出した。

 まったく感染しなかったマウスに対して顕著に感染症状が出たのがハムスターだった。 

 CT画像でも炎症を起こした部分は色が違うために区別できた。

 やがてハムスターの体内で増殖したウイルスの量が臓器ごとに数値化された。

 数値上もっともダメージを受けていたのは鼻と肺だった。きわめて人間に近いという。

(河岡)

「へえー。やっぱり病理、見かけ通りだね」

「すごい」

「なるほど」

「なるほど」

「んー」

 河岡は珍しく興奮していた。

 断片的な言葉だけを短く発し、後は考えこんでいる様子だ。

 制度の高いデータの蓄積はまさに研究の生命線なのだという。

 こうした研究でなんらかの成果が見つかる瞬間をテレビ局のカメラが撮影しているということはめったにないことだ。

 思わず、ディレクターが尋ねた。

(ディレクター)

「今のってどういうことだったんですか?」

(河岡義裕・ウイルス学者)

すごいじゃないですか。リアルタイムで。

本物のデータが出てきましたよ」

 うれしそうな表情で、乗り込んだエレベーターの中でも笑いが思わずこぼれる河岡。

(河岡義裕・ウイルス学者)

「あれは、あれですよ。

今のはそれこそさっき言っていたハムスターの臓器の中のウイルスの量。

今データが出てきて、よくウイルスが増えているので動物としては使えるねみたいな」

 実験動物が決まれば、薬やワクチン開発の足がかりになるというが、他方で「拙速は禁物」だとも語る。

(河岡義裕・ウイルス学者)

「ワクチンも抗ウイルス薬・・・治療剤も急にはできない。

ワクチンも少なくとも数年はできない。

薬はおそらく、すでに人で使われている薬の中で

このウイルスに対して有効な薬が

見つかってくると思うんですよ。

ベストのものじゃないにせよ。

今の状況をしのげるような薬が見つかってくるので

それが見つかってくれば

少し安心、できますよね」

 4月2日には都内の新たな感染者の数は97人。

 それが4月11日には197人。

 今後の見通しを河岡はどう見ているのだろうか。

(河岡義裕・ウイルス学者)

「このウイルスが季節性をもっているのかどうか。

つまり冬に流行するようなウイルスかどうか、ということはまだ分からないんですよね。

もし、そういうウイルスだとすると、6月くらいからウイルスの流行は下火になってまた冬に流行するってことになると思います」

 だが、仮にそうなったりしてもそこで終わることはないという。

(河岡)

「で、その次の年も流行はするんです。

それはなぜかというとウイルスは世界中から消えてなくならないというのと、

日本にはまだ感染していない人がたくさんいるので、

感染する可能性がある」

「ただ長期戦になることは確か、

年単位の長期戦になることは確か」

 ウイルス学の権威である河岡は諮問会議や専門家会議などで週に2度ほど国から呼び出されている。

 この番組がドキュメンタリーが優れている点は、科学者として葛藤する「人間」としての河岡を描き出している点だ。

 単にウイルス学の専門家、つまり科学者として「正論」を口にするだけでは許されない政治家や官僚らとの狭間にあって悶々とする様子も映し出している。

「サイエンスをするのは人だ。自分が正しいと思ったことを発言し、実行せよ」

 学生時代に恩師にそう叩き込まれたという。

 だが、今、目の前にはサイエンスだけでは太刀打ちできない現実が立ちはだかっている。

 その点をディレクターが質問したのだろう。まだまだ感染拡大防止のペースが日本では鈍いのではないかと。

 政府の会議の後の帰りのハイヤーの中で河岡はすぐに質問には答えず、しばらく黙って言葉を探した。

(河岡)

「危機感は多くの人が持っていて、

それをいかに実行するかと

というところ(が違うということ)なんですよね」

「危機感だけじゃ、全然ダメじゃないですか」

「それを我々専門家が発信してもいくら」

「実行力を伴わないというか・・・。

それは我々の責任でもあるあけですよね

分かっているわけで」

「それがちゃんとできないと

分かっていて実行に移せなかったという、ことですよね。

それはなんか。なんのために我々が存在しているのか・・・

大きな問題ですね」

 そう言ってしばらく無言になった。

「歴史は繰り返す、じゃないですけど、

あんまり変わらないんですよね。

パンデミックにしろ、流行にしろ

パターンは決まっているので

それは・・・100年前の

スペイン風邪のときもそうだし」

(ディレクター)

「そう思うと人間ってあんまり変わってない?」

(河岡)

「あんまり変わっていない。

中身が一緒なのでそんな変われないんですね。

行動も・・・」

(ディレクター)

「心理的なこととかも?」

(河岡)

「そう。情けないのは100年たっても

やっていることは『(感染防止は)人に近づかない』で

『それか』みたいなこと。

医学が100年もがんばって・・・」

 河岡はそれきり口を閉ざしてしまった。

 100年たって変わらない「人間」に腹を立てているように・・・。

 良いドキュメンタリーというのはけっして説明しすぎない。

 主人公の表情や呑み込んだ言葉をそのままじっくり見せて、視聴した側にその判断を委ねる。

 このドキュメンタリーはウイルス学者として優秀で様々なアイデアをもつ河岡義裕という権威でも新型コロナウイルス対策でなかなか思うようにできないことがあるという現実を言外に伝えている。

 こうしたドキュメンタリーを今このタイミングでまとめ上げることができたのはひとえに取材者である女性ディレクターが素晴らしかったのだろうと想像する。

取材した制作会社のディレクターの勝利

 河岡との言葉のやりとりを聞いていても、河岡がディレクターを信頼している様子が伝わってくる。

 信頼しているからこそ、ディレクターが放った危機感を色々な人がもっていても先へ進めない現状について自らの苛立ちを見せてくれたのだろう。

 北海道大学獣医学部でウイルス学にのめり込んだという河岡義裕。

 インフルエンザ・ワクチンなどの開発に道を開いた研究で国内外で数々の賞や褒賞などの名誉を得ている。

 文字通り「世界を救ってきた男」だが、その背景になった「信念」を取材者は尋ねている。

(ディレクター)

「私はやっぱりやりがいっていうか?」

(河岡)

「なんかね、やりがいってあんまり・・・。

違うんですよ。やりがいじゃない。

それを淡々とやる。

あんまりね、それを意気込んでやることでもないでしょう。

だってやらないといけないことがあって

それを淡々とやってこなす。

(ディレクター)

「それは新型コロナが起きようと起きまいと一緒?」

(河岡)

そう。新型コロナだろうとなかろうと。

他の課題であっても

やらないといけないことがあってそれを遂行する

 やるべきことを淡々とという姿勢だという。

 河岡は「新型コロナの中身を見せてほしい」と4東京大学医科研のスタッフたちに要求していた。

 4月6日、スタッフがこの要求に応えて、ウイルスの構造を立体的に見せる画像を鮮明に示していた。

 構造が分かってくると、その構造を元に抗ウイルス薬を開発するなどの情報につながっていきそうな成果だった。

 河岡はすぐに遺伝子の専門家と協力して解析プロジェクトを立ち上げた。

 緊急事態宣言から4日たった4月11日。取材班は直接の取材を自粛して、テレビ電話で河岡に「これから」についてインタビューした。

(河岡義裕・ウイルス学者/4月11日)

「人類がウイルスに勝つ負けるという問題ではなく

この流行をなんとか収めないと

経済的にもとんでもないことになりますし、

3週間前よりも当然といえば当然なのかもしれないですけど、

より危険な状態になるつつあるのは確かで」

 ディレクターは「希望はありますか?」と質問した。

(河岡)

「いや、既望はあります。

これは我々みんなが行動自粛をすれば

必ず流行は収まります」

 インタビューの後で女性ディレクター(エンド・クレジットに「演出」として出ていた和田萌さんだろう)と間で、終息したら「大手を振ってみんなでご飯に行く日が早く来てほしい」と話していた河岡義裕。

 こういうウイルス学者が日本にいて、抗ウイルス薬の開発につながるような研究に日夜励んで政府の政策にも関わっている。

 だからこそ、私たち国民は彼の言葉を信じて人との接触を避けて、長期戦のこの闘いに負けないようにしよう。

 そんな読後感がわいてくる静かな感動が広がるドキュメンタリーだった。

 この時期にこうしたドキュメンタリーを放送した前田ディレクターら関係者の尽力に大きな拍手を送る。

 NHKが大人数でもできなかった高い質のドキュメンタリーを民放で放送したことに心から敬意を表したい。

もし見逃した人は「見逃し配信で」見られます

 以下の番組ホームページから視聴することができる。

 見逃した人はぜひ見てほしい。

https://ift.tt/2VmJdtM

来週も『情熱大陸』は新型コロナウイルスなどの院内感染防止に取り組む看護師に焦点を当てる

 タイムリーな放送が続く。

 このラインナップを組んだ毎日放送の番組責任者の先見の明も合わせて評価したい。

 来週の放送にも期待しています。

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