刑務所で試写会。暴力の連鎖を断つために―
以下に掲載するのは映画『プリズン・サークル』の監督・坂上香さんのインタビューだ。これまでも罪を犯して服役している人たちがどんなふうに更生に努めているかを、アメリカの事例について描いた『ライファーズ』など映像で描いてきた坂上さんが今回、ついに取り組んだのが日本での実情だ。なかなかカメラが入れない刑務所の取り組みが、リアルに描かれ、観た人にいろいろなことを考えさせてくれる力作だ。ただ映画を上映するだけでなく、映画を素材に議論したり一緒に考えようという坂上監督の熱い思いが伝わってくる映画だ。上映館などの情報については、公式ホームページを参照いただきたい。
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――1月25日公開の映画『プリズン・サークル』制作の経緯から教えて下さい。
坂上 2008年に「島根あさひ社会復帰センター」という官民共同のPFI刑務所が立ち上がって、2009年に回復共同体という、TCと呼ばれるプログラムが刑務所の中で始まったんですね。
私の最初の映画『ライファーズ』が2004年に公開された時に、民間企業の刑務所担当になった人がそれを見て衝撃を受け、刑務所についてゼロから勉強する中で、こういうものを日本の刑務所に導入したらどうかと思われたようなのです。
彼らは『ライファーズ』に出てくるアメリカのアミティというプログラムを始めとして、海外の刑務所めぐりをしたんです。それで、最終的にアミティのモデルを日本で新しく建設する刑務所に導入したいと、連絡があったんです。
でも最初、私は逃げ回っていた。日本の刑務所にそれを取り入れるのには反対だったから。それで彼らが独自に話を進めていったんです。2009年にアミティのスタッフが来日し、職員や受刑者を対象とした研修をするから来ませんかと声をかけていただいた。そこで初めて見たのがきっかけですね。
――なぜ最初反対していたんですか?
坂上 海外、特にアメリカでは民間刑務所は利潤追求型が多いのと、民間主導になると情報を隠すという問題が起こっていたためです。日本の場合は法務省がそもそも密行主義で情報を外に出さないので、情報の問題は民間特有ではないんですが、利潤追求については懸念していました。加えて日本の刑務所は規律と管理が過剰です。そんな中で受刑者にしゃべることを強要すると、逆効果だと思ったんです。刑務官の顔色をうかがって、表面的な反省を語るみたいな感じになっていくんじゃないかと。
――いずれは日本でもやるべきだという気持ちはあった?
坂上 最初からありました。ただ刑務所じゃなくて外でですね。社会に語り合う場が必要だと、1995年に初めてアミティに行って以来思っていました。
でもどうやったらいいのか分からないので、数年間は模索して、2000年くらいにようやく、「アミティを学ぶ会」という任意の団体を立ち上げて、そこからアミティの人を日本に呼んでイベントをやるというようなことを始めたんです。
2008年にはNPOを立ち上げて、犯罪だけじゃないんですけど、生きづらさを抱える人たち、特にトラウマを抱えている人たちとコラボレーションをして、ダンスをしたり、写真を撮ったり、ショートビデオを作ったりという、表現活動を始めました。それと犯罪や暴力をめぐる私自身の映画制作を両立させようとしてきました。
――今回の島根の刑務所に撮影の申し込みをしたのはいつですか?
坂上 2009年に企画を立案したのですが、フリーランスに対しては窓口がないんですよ。テレビ局だったら広報という窓口があるんですが、広報にもつないでくれない。インディペンデントな映画みたいなのは前例がないわけですよ。そういうのが何年も続いて、ようやく2013年にある所長さんが関心を持って下さって、説得したんです。
まずは、踏み込んだ事前取材をさせてもらって、企画書を仕上げました。その後もいろいろありましたが、最終的には2014年3月に企画が通ったんです。でも4月に所長が替わった途端、また「聞いてない」みたいな感じで、何カ月も待たされ、同意書を突き合わせて再交渉。そういう経緯を経て、ようやく2014年の8月に撮影が開始になったのです。撮影は2年間、2016年の7月まででした。
――希望した撮影はできてるんですか?
坂上 最初はTCだけじゃなく、「町ぐるみの刑務所」という企画書だったんです。でも、新しい体制では、それが許されず、TCに絞れと。TCの中にはある程度は入り込めましたが、撮影に関しては過剰な制約があり、リクエストも通ることが少なく、充分撮れたとまでは言えません。
――このプログラムは島根だけで実験的にやっているみたいな感じですか?
坂上 今はそうですね。2020年の4月からは札幌でも始まります。島根とは違うタイプのTCが、女子刑務所で始まると聞いています。同じユニットで受刑者が共同生活をしながら、集中的にプログラムをやるというのは共通していますが、その内容はかなり異なると思います。
TCはアメリカだけじゃなくて、欧州やオーストラリアなど、世界中でやっているんです。法務省もいろいろ調べてはいて、研究会などを立ち上げているようです。漏れ聞こえるところでは、スペイン型TCの研修などもやったみたいです。
――初犯で犯罪傾向が進んでいない受刑者対象ということですが、それについてはどう思われますか?
坂上 海外の刑務所では初犯というより、むしろ累犯で重罪の受刑者を対象にしています。なぜなら彼らこそが変わる必要があるからです。しかしそれをするためには、環境を整える必要があります。重罪の人にとって説得力のあるプログラムにできるかどうか。
――町でサポートしようというところまでいっているんですか?
坂上 町の人たちは、TCのことは詳しくは知らないと思います。この町の特徴は、刑務所の建築に関して反対運動ではなくて、逆に歓迎した。刑務所誘致自体が、村おこしみたいな感じでした。
もちろん経済効果は大きいと思います。民間の人が大勢刑務所に雇用されていますからね。あとは、過疎地なので、人口増加で、町が活気付くことを期待したんだと思います。実際、刑務官300人、民間200人に加えて、彼らの家族が移り住んでいます。
あと、町の人たちは受刑者と文通プログラムなどもやっていて、刑務所と交流があるんですよ。農作業のプログラムもあるんですが、それは茶畑などの農家がフルタイムで受刑者の指導にあたっているんです。
本当は彼らは、仕事の後にお茶を飲んだり、おしゃべりをしたりする時間を受刑者と持ちたいと希望していたんですが、結局刑務所から許可がおりなかった。島根あさひに関わっている人たちは、「単に受刑者としてではなく、ちゃんと一人の人間として関わりたい」って口々に言いますね。すごくあったかいところです。
――2019年秋からプロモーションで全国を回られて反応はどうでしたか?
坂上 4都市で試写会をやりました。あと刑務所2カ所では、試写に加えてワークショップや研修も。
1つの刑務所は受刑者350人全員の前で上映して、感想文も書かせて…。刑務所でドキュメンタリー映画の試写会なんて国内初です。この映画は既に幾つもの開かずの扉を開いています。
試写の開催は、東京、大阪、札幌、沖縄。それは以前の2つの映画を上映していく中でできたつながりですね。今回の試写会は大学やNPOを拠点にやりました。若い人にも見てもらいたいし、刑法や、心理や、社会学を専門に研究している人たちにも見てもらいたい。福祉や司法現場の人にも見てもらいたい。その辺りから広めていけたらなというのが願いです。
観客の反応の中で面白かったのは、映画を見終わった後に「私もあの刑務所の中に入ってしゃべりたい」という感想が多かったこと。この社会にどれだけ本音を話せる場所がないか、ということをみなさん痛感されるというか。受刑者があれだけしゃべれてるっていうのがうらやましいと。
――それは映画のプロモーションだけでなく運動の一環ということですか?
坂上 そうですね。というか、プロモーションと運動というのは私にとっては一緒なんですね。私たちのNPOであるout of frameは、映画の制作をしていますが、映画のテーマは暴力の連鎖を止めるアプローチです。映画のプロモーションをすれば、自然と、暴力の連鎖を止めるという運動につながりますから。
――劇場公開前にこれほどの規模で試写をするのは戦略的に考えたんですね。
坂上 はい。試写の規模や展開は、今回の戦略といえます。ただ、本当はもっと早く映画が完成し、上映も夏か秋に始める計画でした。実は、映画の制作中に、アミティの人たちから上映に合わせてプロモーションに来てくれるという約束を取り付けていました。でも、完成が遅れに遅れてしまったこともあり、封切りが翌年になり、キャンペーンのタイミングとしては劇場公開には早すぎて、ベストとは言えなかったですけどね。
――そのNPOって実行力があるんですか?
坂上 いや、ほとんど私と数人で回しています。一応イベントが立ち上がると、チームを組んで作業を分担しますが、皆仕事を持っていて多忙なので、私が中心に動いてます。今回の3週間にわたるツアーでも、私がコーディネートとアテンド、日によっては通訳や運転手もつとめたので毎日ヘトヘト。最後には、足がパンパンに張ってしまって倒れそうでした。
――日本でもTCのほかに、幾つか考え方がありますよね。
坂上 犯罪に対するアプローチは、いろいろあります。国内の刑務所では、むしろ、認知行動療法が主流だと思います。それは、物事の考え方や受け取り方に働きかけて、行動をコントロールする方法です。島根のTCにも、実はこの認知行動療法が部分的に取り入れられています。
修復的司法とは、犯罪を損害と捉えて、被害者と加害者、それから両者の関係者(コミュニティ)が話し合いによって関係修復を目指す試みのことです。これもまた、TCには含まれています。
――坂上さんはできたら上映で議論をやろうと思っているんですか?
坂上 はい。可能な範囲で。前の映画『トークバック』の時も、劇場で踊りや演劇のワークショップをやったりしたので、今回もいろいろ企んでいます
私は最初の2つの作品は、どちらかというと当事者の人たちを中心に見てほしいという気持ちが強かった。今度の映画はもう少し一般の人、テレビとかで犯罪報道やドラマを見て、自分には関係がないと思っている人、興味本位な人、いわばサイレントマジョリティに見てもらいたいなと。そちらの心をどう揺り動かせるかが、今回の課題です。
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February 14, 2020 at 01:45PM
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