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Wednesday, February 12, 2020

「教えられる」から「学ぶ」へ。iPad大規模導入で変わった熊本の小中学校教育の現場を見てきた - Engadget 日本版

kumamoto-ipad熊本市は、市内全公立小中学校134校の教育ICT環境を政令指定都市トップレベルへと押し上げるため、LTE通信対応のiPadを3年間で2万3460台導入するという大規模な教育ICTプロジェクトを2018年9月に始動しました。

私立学校へiPadが導入される事例は最近聞くようになってきましたが、公立の学校でここまで大規模な導入を行った例は他にありません。

今回は、熊本市の教育が導入から約1年半の間でどう変化したのか、そして実際の学校ではどのようにiPadが使用されているのかを取材しました。

まず訪れたのは熊本市教育センター。お話を伺ったのは指導主事の山本英史さんです。

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「教育ICTプロジェクトが始動し、2万3460台のiPadのほか、電子黒板、実物投影装置が設置されるようになりました。iPadに関しては3クラス対して1クラス分の台数、先生1人に1台、特別支援学級の場合は1人1台配布されています。」と山本さん。

iPadを導入したことにより起こった変化を山本さんは次のように語ります。

「まず変わったのは、子どもたちです。子どもが自発的に活躍するようになり、それに合わせて先生方もどんどん活発になっていきました。若い先生ばかりではなく、ベテラン・年長の先生方からは"学びが豊かになった"という意見が聞かれ、新人教師からも教室、学校から広がる学びがある、と好評を得ています。」

子どもたちの姿勢も如実に変わり、それまで黒板をノートに写すだけの受動的な授業だったのが、iPadを使うことで"表現する学び"へと変化し、子どもからも「子ども同士のつながりが深くなったと感じる」という声を聞くようになったというのです。

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「iPadを使った授業で大切なのは、とにかくアウトプットです。授業の内容をアウトプット中心に変更し、"教えられる"から"学ぶ"へ。人との対話や体験を通して、自分の思考を深められるような仕組みを考えました。基礎的な情報活用能力として、情報収集・発信・伝達の知識と、基本的なタイピング操作を学び、アウトプットを自発的に行うことで、自由な意見交換を行います。」(山本さん)

熊本市に導入されているiPadすべてはNTT Docomoが提供するセルラー版です。熊本市が、端末のすべてをセルラー版にした理由について、山本さんはこう話します。

「私たちには"子どもたちに自由なインプットとアウトプットをさせたい・主体的な活動をさせたい"というニーズが元からありました。セルラー版があれば、授業で外に出てもネットワーク環境があるからそこで学習ができる。iPadで写真を撮り、気づいたことを書き記し、それをその場で先生に提出する。先生も子どもも互いにその場で発見したことについて外にいながら対話できる。セルラー版のiPadによって、場所に制限されることがなくなったのです。」

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元々、熊本市内の学校には有線の校内ネットワークがあったものの、Wi-Fiは設置されていませんでした。

「2016年の熊本地震の時に学校は大きな被害を受けました。当然、修繕や修理、新設には大きな負担がかかります。そんな状況でも、私たちには"新しい学び"をスタートさせたいという決意がありました。こうした全てを解決してくれたのが、セルラー版iPadだったのです。」と山本さん。

各学校にWi-Fiを整備するより、SIMの入ったセルラー版iPadを各自に配布したほうが、ICT環境は早く整います。また、時には子どもが宿題のためにiPadを持ち帰るため、自宅のネット環境に左右されないことも大切だったのだそう。

このiPad導入のために、かけられた費用は30億円。"市長の強いリーダーシップがあってのこと"だと山本さんは言います。

「私たちが考えたのは復興から100年後の子どもたちのこと。未来への礎を作ること。私たちは、いち早く礎を提供しなければならないと思っていました。莫大な予算がかかる事は承知していましたが、一気に投資しなければすべての子どもたちに行き渡りません。これは、未来への投資である、というのが市長の考えなんです。」(山本さん)

とはいえ、実際の導入には、様々な障壁があったと言います。教育センターとして、教師たちの不安を取り除き、学びを深めてもらうため、自分たちの環境も変化させました。iPad導入に関するスタイルも、一方的に受講する研修スタイルから体験型に変更しました。

それぞれの学校内には情報化推進チームを設置するように提案。推進リーダーを置き、その役割を明確にするとともに、リーダーとなった教員の負担を減らすサブリーダーや推進メンバーなどの提案もしました。

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「実は、私たちは各学校の活用方法をモニターし、どのように稼働しているのかを確認しています。先生方に、何かつまずきがあれば、とにかくすぐ現場に出向いてサポートできるような体制をとっています。そして、先生も子どもも、気軽に質問できるよう、ICT支援員を設置しています。」と山本さんは言います。

ICT支援員になっているのは、ネットワーク整備を行うなど、20年ほど前から熊本市をサポートしていた人たちです。授業に出向いて、後ろから子どもを見守ったり、操作につまずいた先生や子どもを助けたりする仕事をしているのだそう。

「責任感が強く"1人でできるようにならなければ"と、抱え込んでしまう先生には、"子どもたちから教えて貰えるかもしれませんよ"と、小さなヒントを出すようにしています。子どもたちから操作方法を学んでもいい。子どもたちが主導して教えてくれる形でもいいんです。とにかく1人で抱え込まないサポート体制を作り、子どもも一緒に皆で取り組むことが大事なのですよ。」(山本さん)

こうしたICT教育が導入されたことに対し、市内の保護者からは賛同の声が上がっているそうです。

「こんな学習だったら、私もやってみたかったと! という意見を頂戴しており、とても嬉しく思っています。ネット依存など、影の部分を心配する方もいらっしゃいますが、我々はその都度"目的を設定してiPadを使うこと"の大切さを説いています。子どもたちが、自分から主体的に学習に取り組む姿を見て、保護者の方たちにもタブレットiPadの重要性が伝わりつつあると感じています。」(山本さん)

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続いて、先行導入校としてひと足早くiPadが導入された熊本市立楠小学校にて実際の授業を見学しました。授業を担当したのは山下若菜先生。子どもは小学校4年生の子どもたちです。授業の内容は、低学年の子どもたちに"分数"を教える動画を作ろうというもの。使用するアプリは「Clips(クリップス)」で子どもは3人〜4人1組のチームで動画を制作します。

授業の実際の様子を動画でご覧ください。


全員がとても楽しそうに動画を作っています。30分という短い時間の中で、全員が自分たちにとって最適な場所へ動き、自発的にアイデアを持ち寄って制作する姿に本当の未来を見た思いです。制作中も山下先生は、子どもたちに声をかけフォローし、発表の際には、エンターティナーとして盛り上げる役割を担っていました。

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授業の後、山下先生と、楠小学校の長尾秀樹校長にお話を伺いました。校長先生は、iPad導入のBefore・Afterの差を次のように話します。

「大きく変わったのは、先生が一方的にしゃべる、一斉型の授業が、複数人で活動するグループ型になったということです。従来型だと、授業の軸になるのはどうしても、積極的に発信する子どもたちになってしまう。でも今は、iPadがあることで、一人一人の学びが保証されるようになり、子ども主体の授業づくりが進むようになりました。子どもの活動時間も増え、先生たちも積極的に子ども主体の授業を進めています。」

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山下先生にもここに至るまでの経緯を尋ねてみると次のような答えが返ってきました。

「iPadを使った授業しなければならないと聞いたとき...正直大歓迎ではありませんでした(笑)。そもそも、タブレットも持っていないし、iPhoneも使ったことがなくて...。昨年配布された時、初めて触ったんですよ。まず写真を撮るところからスタートして、自分なりに手探りで進めました。実際始めたら、子どもの反応が全く違う。それを見て、私もどんどん楽しくなり、やってよかった! と思えるようになったんです」

とは言え、いくつかのiPad活用の提案もすぐに同意できるようなものではなかったそうです。

「それらの提案はすごく面倒な内容だったんです(笑)。最初は抵抗がありましたね。でも実際やってみたら、子どもの反応が全く違う! それを見たら、私もどんどん楽しくなり、やってよかった!と思えるようになったんです」

今になって振り返ると、始めた当時は、今までの授業にiPadを活用する使い方だったそう。ブレイクスルーになったのは、他の先生の授業。その先生は、物語文に自作のBGMをつけていました。

「私は自分で音楽は作れないから......と思っていましたが、ある時、教科書の物語文に合った、BGMをつけたらどうかと思いつき、それで授業をやってみたんです。これで、子どもたちが劇的に変わりました。今まで"登場人物の気持ちを知るために1日1回音読をしてこよう"と宿題を出していたぐらいなのに、自発的に"20回読んできました"と言う子も現れました。嬉しかったですね。私が解釈を押し付けることなく、登場人物の関係や背景を話し合えるようになったんです。全員が考えるようになり、何もしない子がいなくなりました。これこそ、全員が主体的に活動すると言うことなのだと実感したんです。」


授業の結果はテストにも現れるようになり、クラス平均が80点から90点に上がったそう。テストが終わった瞬間に「先生、テストすごく楽しかった。」と駆け寄ってくる子どももいたとか。それ以降は、子どもたちが夢中になれる課題設定が、何より大事なのだと気づいたと言います。

「今後は、もっと子どもがワクワクできる授業をやってみたいですね。例えば、英語の先生が故郷に電話をかけて家族とオンラインで会話するのを見せるとか。英語だけでなく時差の学びにも繋がります。インターネットがあるからこそできることを実践していきたいですね」

最後に、今後熊本市同様に、iPadが導入されていくかもしれない公立学校の先生たちへのアドバイスをいただきました。

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長尾校長「最初は慣れず、大変でしょうけれど、すぐ子どもたちが慣れて、生き生きした表情になってきます。きっと多くの先生方が、子どもたちに与えたい体験の一つでしょう。案ずるより産むが易し。できる先生の真似をしながら、オリジナリティを出せば良いんです。大変だな、という思いをおいて、前に進められるとよいと思います。」

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山下先生「私も初心者でしたが、"自分が教えなければいれない"と思わず、子どもたちから教えて貰う、ぐらいの気持ちで良いんだと思います。彼らが先生になって教えてくれるはずです。一度、子どもたちにiPadを触らせると反応が違うことがわかるはずです。子どもたちと一緒に学んでいけると良いのではないでしょうか。」

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February 13, 2020 at 12:44PM
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