見ているファンの心に訴えかけるものがあるか-。一生懸命に取って、それが伝わる力士の一人が北勝富士です。ケガで苦しんでいますが、ひた向きな姿勢でただ一人の勝ちっ放しです。まず足の構え、そして左右の足の運びがいい。押す際も体を丸めて前傾姿勢で前に出ていて、自分の体形を生かしています。

右手を前にかざすような立ち合いも北勝富士は見せます。動物で言えば触角の役割を果たしますが、それでは当たりも半減し反撃も食いやすくなるし、わんぱく相撲の子どもたちがマネするのも良くないから、私個人としてはお勧めできません。でも、それも裏を返せば頭で当たり続け、首に衝撃を受け続けた北勝富士なりの対処法でしょう。今場所も流血しながらも頭で当たるなど、気持ちが全面に出ています。押し相撲なので波がありますが、三役にいてもおかしくない力士です。優勝争いに加わってほしいですね。

一方で、冒頭の言葉を問い掛けたいのが御嶽海、正代の両大関です。大関でも負けることはある。でも負け方があまりにもひどい。大関が取る相撲ではありません。一生懸命に応援してくれるファンに訴えかけるもの、土俵に伝わるものが感じられません。何人もの先輩大関が築き上げてきたものがあります。それでも応援してくれるファンもいます。そのことをどうか忘れないでほしいと思います。(日刊スポーツ評論家)