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Thursday, May 5, 2022

主演・嵐莉菜と川和田恵真監督、デビュー映画『マイスモールランド』で描く在日クルド人女子高校生の青春 - ニッポンドットコム

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映画『マイスモールランド』は、日本で育ったクルド人女子高校生の日常をみずみずしく描き、ベルリン国際映画祭で話題となった作品。是枝裕和監督の下で研さんを積んだ川和田恵真監督の劇場長編デビュー作だ。家族やクルド人コミュニティーの中で生きる現実と、日本社会の中で抱き始めた夢との間で揺れる17歳を、嵐莉菜が演じた。キャリアを歩み始めた2人に、この作品への思いを聞いた。

クルド人は、中東のトルコ、シリア、イラク、イランの国境にまたがる一帯、クルディスタン地域を出身とする民族。独自の文化と言語を持つが、独立した国家はなく、居住するそれぞれの国で少数民族として扱われ、迫害を受けてきた。紛争や弾圧を逃れ、難民としてヨーロッパその他に渡った人々も数多い。日本にも約2000人のクルド人がいるとされる。

映画『マイスモールランド』の主人公サーリャ(嵐莉菜)©︎2022「マイスモールランド」製作委員会
映画『マイスモールランド』の主人公サーリャ(嵐莉菜)©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

そんな日本に暮らすクルド人の日常を、17歳の少女の姿を通して描いたのが、映画『マイスモールランド』だ。主人公は、幼い頃に両親と日本にやってきた高校3年生のサーリャ(嵐莉菜)。大学進学を考えているが、数年前に亡くした母に代わって家事や妹・弟の世話をし、コンビニのアルバイトまでこなす。さらにはバイリンガルであることから在日クルド人コミュニティーから頼られ、日常のさまざまな手伝いをしている。

高校には、気軽にふざけ合う仲のよい友達がいるものの、自分のルーツについては正しく説明していない。だが、アルバイト先で知り合った聡太(奥平大兼)には、クルド人であることやアイデンティティの悩みを素直に打ち明けることができた。そんな時、一家が行っていた難民申請が不認定になり、入管から在留カードを没収され、代わりに“仮放免”という制限付きの生活を強いられるようになってしまう――。

難民申請が認定されず、在留カードにパンチで穴が開けられる ©︎2022「マイスモールランド」製作委員会
難民申請が却下され、在留カードにパンチで穴が開けられる ©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

自分は日本人じゃないの?

監督は川和田恵真。是枝裕和率いる映像制作集団「分福」に所属する新鋭だ。クルドに関心を持ったのは2015年頃だったという。シリアで過激派組織ISISに抵抗して闘うクルド民兵組織の女性兵士たちの映像を見て衝撃を受けた。日本にもクルド人のコミュニティーがあることを知り、訪ねてみたことがこの映画の構想へとつながる。18年頃から本格的に取材を重ね、自ら手掛けた脚本で劇場長編映画デビューを飾ることとなった。

映画『マイスモールランド』川和田恵真監督
映画『マイスモールランド』川和田恵真監督

川和田 最初はクルドの方にメインキャストとして出演してもらうことも考えました。でも難民申請をして不安定な状況に置かれている中で、メッセージを持つ劇映画に出演したことが不利益につながるかもしれない。よく話し合い、断念しました。それで、海外のさまざまな国にルーツを持つ方を対象に、オーディションを行ったんです。

オーディションに応募したのが、雑誌のモデルとして活躍し始めていた嵐莉菜。中東を含む5カ国にルーツを持つ現役の高校生だ。0歳からキッズモデルをし、その後は再現ドラマに出演する程度だったが、19年から井浦新や中条あやみを擁する芸能事務所テンカラットに所属し、本格的に芸能活動を開始した。

 モデルになりたくてTikTokを始めてみたら、今のマネージャーさんがそれを見てスカウトしてくれたんです。事務所の先輩方がお芝居をしている姿を見て、私もいつかやってみたいなと思っていたのですが、まさかこんなに早く機会をいただけるとは…。

川和田 莉菜さんはオーディションで、自分のルーツについて悩んだことを話してくれました。彼女の言葉に、クルド人を取り巻く状況の複雑さにつながるものを感じ、大きな決め手になりました。

 私は日本に生まれて、日本が母国と思っているのに、「どこの国から来たの?」と訊かれることもよくありました。小学校に入ったときに、周りの子たちから「外人」と言われてつらかったり。自分はよそ者なのかもしれない、日本人と言っていいのかな、と悩んだこともあったんです。

サーリャはアルバイト先で優しくしてくれる聡太に自分のルーツについて打ち明ける ©︎2022「マイスモールランド」製作委員会
サーリャはアルバイト先で優しくしてくれる聡太に自分のルーツについて打ち明ける ©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

川和田監督も、イギリス人の父と日本人の母というミックスルーツを持つ。小さい時からずっと「ハーフ」と呼ばれてきて、この言葉にそこまで抵抗はないが、2人の間には自然と通じ合うものを感じた。

川和田 映画の撮影でレストランに行ったとき、私と莉菜さんがスタッフより先にお店に入っていったら、「外人さんが来た」みたいなことを言われて(笑)。「どこから来たの?」という質問も、悪意はなく、会話のきっかけなのは分かるんですけど、「いきなり線を引かれた感じになるよね」という話を2人でしたことがあります。

 学校生活でも、なるべく目立たないようにしてきました。学級委員をずっとやりたかったけど、私がやっちゃいけないんだろうなって。でも中学の終わり頃から雑誌のモデルの仕事を始めて、ほめられたり、必要とされていると思えたりして、自信を持てるようになりました。高校に入ってからは、3年間ずっと学級委員をやっているんです(笑)。それまで自分の意見はあまり言わずに、みんなと合わせるようにしていたので、同じような思いを持つ子の話を聞きたいと思って。

サーリャには仲良しの友達に打ち明けていないことがあった ©︎2022「マイスモールランド」製作委員会
仲良しの友達にも心の奥を見せないサーリャ ©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

そんな嵐の周りを気遣う姿勢が、サーリャというキャラクターに肉付けされていった。本人に合わせて脚本を書き直した部分もあったという。

川和田 最初はもう少し、お父さんの文化に反発を感じている子として描いていました。でも莉菜さんと話したり、家族との関わり方を見たりしているうちに、彼女にとって演じやすいのは、「内なる反抗」なんじゃないかなと思って。結果としてその方が内容的にも深いものになったので、莉菜さんにはすごくいいヒントをもらいました。

嵐 監督からはサーリャを他人として見ないでほしいと言われていました。もちろん、置かれている環境や状況は違うんですけど、日本人として生活しているつもりでも、見た目で外国人と判断されてしまうのは、幼少期から葛藤があったことなので、そこはサーリャと同じだなと思って。ワークショップの時からだんだんとサーリャという役柄への思いは強くなりましたし、撮影を重ねてより理解が深まったと思います。

川和田 海外にルーツを持つ人たちの現実も、サーリャと同じ部分は多くあると思います。その場その場で選択をしている。学校にいるときは日本に合わせ、家やコミュニティーにいるときは家族に合わせる。いつも反発心を示すわけではなく、内に秘めた思いがあるんですね。本当はお父さんにも言いたいことがあるのに言えない。そんな思いが、ある時に爆発するようなストーリーに変わっていきました。

2人が考える「国境」とは

日本で育ったサーリャが自分の新しい世界を広げていこうとするのに対し、絶えず「お前はクルド人だ」と自覚を迫る父マズルムとの衝突が描かれる。サーリャの家族を演じるのは、実の父、妹と弟だ。

本当の家族ならではの距離の近さがスクリーンから伝わってくる ©︎2022「マイスモールランド」製作委員会
本当の家族ならではの距離の近さがスクリーンから伝わってくる ©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

川和田 莉菜さんに決まったから、お父さんにオファーしたというわけではないんです。妹も弟も同じで、それぞれオーディションで選ばれたんです。本当の家族で作ろうと狙ったのではなく、お芝居の相性で決めた結果でした。莉菜さんが一番いい表情や自然な感情表現ができる相手が、結果的にお父さんだったと。やはりほかの人が相手のときとは、全然違いましたね。

映画初出演で堂々の主役を演じた嵐莉菜。2020年に『MOTHER マザー』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した奥平大兼、ベテランの俳優陣に加え、家族3人とも共演するなど、特別な17歳の思い出になったに違いない。

 オーディションの時は、こういうルーツを持つ人が抱える悩みを、私が演じて形にできたらいいなって思っていました。そんなサーリャという役を演じることができて光栄だと今でも思うんです。すごく大きな経験になり、今後のお芝居の仕事にもきっと生かせるだろうと思います。本当に幸せな時間でした。一生心に残るんだろうなって。

川和田 私にとっても、初めての作品を莉菜さんとできたのはすごく貴重な経験になりました。日本で難民申請しているクルド人の物語というと、自分から遠いことのように感じられるかもしれませんが、自分は何者なんだろうとアイデンティティについて悩むのは、ルーツに関係なく、きっと多くの方が通ってきた道ですよね。高校生を主人公にして、青春の時間、進路の悩み、家族の問題を描くことで、いろんな方々に自分の物語として観てもらえるものになるんじゃないかなと思いました。

©︎2022「マイスモールランド」製作委員会
©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

こうした若者の青春の物語でありながら、背景には日本におけるクルド人難民の受け入れ問題が描かれている。これもまた、コロナ禍やウクライナ情勢のように、あらためて「国境」というものに向き合わせる問題だ。最後に2人にも、この映画にからめながら、国境について思うところを語ってもらった。

川和田 国境はなくならないかもしれないけど、心の国境というか、自分たちが心の中で引いているものがあって、それなら変えていけると思うんです。この映画を観てもらうことで、そのラインの引き方に少しでも変化が生まれてくればいいなと思います。この映画は、私がクルドの方々に出会って、5カ国のミックスルーツの嵐莉菜さんとその家族に出会って、日本のスタッフ、フランスのスタッフと一緒に、文字通り国境を越えて作った、ミックスな作品だと思います。その上映がやっと日本で始まるので、日本のみなさんにどう届いていくのか、とても楽しみです。

 国境がなければ、いま各地で起こっている紛争や、差別も、きっとなくなるのかなって考えたりもします。監督が「心の国境」とおっしゃいましたけど、国境があり、国が違っても、みんな同じ人間なんだっていう意識で生きていきたいです。ルーツに関係なく、いろいろな人がいるじゃないですか。自分と違うからといって、人に勝手に線引きをするんじゃなくて、お互いを理解し合える、受け止められる世界になったらいいなって思います。

撮影=川本 聖哉
取材・文=松本 卓也(ニッポンドットコム)

©︎2022「マイスモールランド」製作委員会
©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

作品情報

  • 出演:嵐 莉菜、奥平 大兼、平泉 成、藤井 隆、池脇 千鶴、アラシ・カーフィザデー、リリ・カーフィザデー、リオン・カーフィザデー、韓 英恵、サヘル・ローズほか
  • 監督・脚本:川和田 恵真 
  • 主題歌:ROTH BART BARON 「N e w M o r n i n g」
  • 企画:分福
  • 制作プロダクション:AOI Pro. 
  • 共同制作:NHK FILM-IN-EVOLUTION(日仏共同制作)
  • 製作:「マイスモールランド」製作委員会   
  • 配給:バンダイナムコアーツ
  • 製作年:2022年
  • 上映時間:114分
  • 公式サイト:mysmallland.jp
  • 5月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開

予告編

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