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Thursday, January 6, 2022

「僕自身が“あの頃”の次元に会いたかった」大役を継承した大塚明夫 危惧する声優界の“落とし穴”とは - 中日新聞

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『ルパン三世 PART6』で次元大介役を務める大塚明夫

『ルパン三世 PART6』で次元大介役を務める大塚明夫

 『ドラえもん』や『サザエさん』など、人気アニメシリーズが長寿化すると必ず噴出する問題が“声優の交代劇”だ。「これはこれでいい」という声がある一方で、やはり「イメージとは違う」「違和感がある」といった視聴者の声も避けられない。『ルパン三世』(日本テレビ系)でも、50年近く次元大介を演じていた小林清志が勇退し、現在は大塚明夫が扮している。俳優でもあり、ゲーム『メタルギアソリッド』シリーズのスネーク役としても有名なレジェンドだが、やはり怖さはあったと語る。現在の声優ブームに思うこと、そして父、故・大塚周夫さんへの想いについても聞いてみた。

■ルパンの影で存在する次元大介を演じる難しさ「清志さんに感想を聞くのは恐ろしい」

――1月8日より、『ルパン三世 PART6』の2クール目がスタートしますが、1クール目で次元大介を演じた反響は耳に届いていますか?

【大塚明夫】僕の身の回りの人たちは「素晴らしい」という話をしてくれるのですが、若い人たちの中では「ちょっと違うんじゃないか」という声もあるようです。素晴らしいと言ってくれる方は、PART1から知っているオールドファンだと思うんです。僕もその1人であって、思い出の中で生き生きと元気に動いているルパンや次元が懐かしい。もちろん、若いファン層のために最近のシリーズの次元大介をイメージした方がいいのだろうかと、いろいろ考えました。ですがまず、僕自身が“あの頃”の次元に会いたかった。それが正解だったかは分からない。いまだに悩んでいるというのが実情です。

――1クール目の収録を終えた頃、小林清志さんから金言をたまわったと伺いました。

【大塚明夫】次元のキーワードを頂きました。「江戸っ子」、「江戸の粋」、そして「ジャズ」であると。1クール目は「清志さんだったらこういう風にやるかな」と手探りで演じていたのですが、そのキーワードがイメージできにくい部分を導いてくれた。それは、あたかもカンダタに垂らされた仏様の蜘蛛の糸のようなものでした。

――では、またパワーアップした次元が2クール目から見られるわけですね。ちなみに小林さんから大塚さんの次元への感想は?

【大塚明夫】それ以降はお話させていただく機会がなかったのですが、ちょっと聞くのが恐ろしくて(笑)。

――大塚さんほどの方でも恐ろしいんですね。

【大塚明夫】それはもう、50年かけて清志さんが築いてきた役ですから。

――改めて、「次元大介」という男を演じる難しさは?

【大塚明夫】“主役になってしまわないこと”です。次元というキャラは、清志さんのように格好良くセリフを決めていってしまうと、どうしても前に出てきてしまう。次元の魅力は、あくまでもルパンの影にいることにあるので、だから渋い。絶妙なところで控えなければいけない。主役のルパンを侵食せず、いかに調整するかが、目下僕のテーマです。

■昔の声優たちは俳優の延長線上「自己主張の強い“塊”のような存在だった」

――昨今は声優ブームと言われています。若い人気声優さんも多い中、ベテランのご自身が次元役に抜擢された理由は何だと思われますか?

【大塚明夫】バリトンの持ち主というところもあるとは思うのですが、清志さんと作品中で触れ合っていた時期があるか否かというところで考えると、僕ぐらいの世代が最後だからかもしれないです。あと、今は芝居が変わってきていますから。

――どう変わったのでしょうか?

【大塚明夫】全体的に、とっても上手なんです。今の若い人たちは。昔の先輩方は、もう少しゴツゴツしていて、塊感があって。第1世代の方々というのは、元々みんな俳優さんで、声を当てる仕事もしていただけ。本質的に自己主張が強いんだと思うんです。それぞれが主張するので、猥雑なパワーになって、それがある意味達成感につながっていたというか。

――大塚さんも、それを見て育ったわけですもんね。

【大塚明夫】僕が新人の頃、日々スタジオに入ると、同じスタジオに清志さんや納谷悟朗さん(以前の銭形警部)、大平透さん(『笑ゥせぇるすまん』喪黒福造)、山田康雄さん(初代・ルパン三世)など、第1世代の先輩が4、5人もいるわけです。僕はやはり、そのゴロンとした塊を持つ人たちに憧れたのと、ちょうど若い人たちの間の層でもあって、そのジョイント部分になり得るんじゃないかなとは思います。いくら時代が流れたからと言って、清志さんからいきなり若い人たちに振ってしまうのも乱暴かもしれないですし。

――確かに、今の若手声優の方々に第1世代のような塊感は薄いかもしれません。ですが非常に器用といいますか、うまく個性を抑えて役を創り上げたり、同時にバラエティ出演、イベントで歌って踊ったりも。活躍の場は広がっているように感じます。

【大塚明夫】すごいですよね。これこそ時代の変化だろうと思います。僕なんかバラエティで話せるのかと言ったら無理ですし、そういうフレキシブルなところは失ってはいけないんじゃないかと僕も思うんです。年下の声優たちを見てもそれぞれちゃんと育っているという感じがして、僕は意外と、この先の声優業界も安心な気がしています。

■役者をやって初めて、父を尊敬できるように「向こうでニコニコして見ててほしい」

――なるほど。以前著書『声優魂』(星海社新書)で、「声優ほどハイリスクローリターンな生き方は珍しい」と書かれていましたが、ローリターンではなくなってきた…?

【大塚明夫】そうなっていくといいですよね。でも何がリターン=利益になるのかと言ったら、今のところは“人気”なのかな。今はその作品が売れることで、人気になってイベントができるとか、そういう展開の仕方がある。ですが、声優のギャラは今もランクによって決められているんです。そのランクを上げるために、どうしてもやり取りをする相手役との芝居でなく、画面の向こうにいるファンに向けての芝居になる可能性がある。それが“落とし穴”といえば“落とし穴”なのでしょうけど、それも成功すれば別にいいのかな。そうではない、しっかり芝居をする若手もいますし、なんだかんだと業界のバランスも取れているのかもしれません。

――やはりそうした大塚さんの考え方は、偉大な俳優で声優でもあった、大塚周夫さんの背中から学んだことでもあるんでしょうか。

【大塚明夫】どうでしょう…。いつも家にいない人でしたし(笑)。「役者をやってみよう」と思うまでは、特別に尊敬の念を抱くということもなかったように思います。

――以前、番組で「『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男をやってるから、小学校でからかわれて嫌だった」ともおっしゃってましたね。

【大塚明夫】でも自分が現場に立つようになり、色んな方々のいろんな芝居を自分で感じ取って演じていく中で、「やっぱり親父ってなかなかすごいんだな」とやっと感じるようになりました。向こうでニコニコして僕の仕事を見てくれたらいいです(笑)。

(取材・文/衣輪晋一)

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