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Monday, June 28, 2021

飛躍のきっかけは「王騎」ロス 漫画キングダムの舞台裏:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル

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 春秋戦国時代の中国を舞台に主人公・信の活躍を描く漫画「キングダム」。週刊ヤングジャンプでの連載は15年におよび、単行本は累計発行部数8千万部という人気作品です。漫画家・原泰久さんが生み出す物語の舞台裏を、担当編集者の大沢太郎さん(37)に聞きました。

――「キングダム」の担当になった時の状況を教えて下さい

 「キングダム」の担当は私で3人目です。2017年の夏にキングダムの担当になりました。単行本で言えば48巻のころです。

――そのときはどんな気持ちだったのですか?

 光栄な話ですので「ぜひやらせてくださいと」思いましたが、すでにご活躍されている原さんの担当になるということに不安もありました。

 ただ、それまで年上の漫画家さんの担当を多く経験していました。たとえば以前所属していたスーパージャンプ(現在は休刊)では宮下あきら先生(「魁!!男塾」など)の担当でした。週刊ヤングジャンプや週刊少年ジャンプでは新人さんなど同年代や年下の漫画家さんと編集者が「二人三脚」でやっていくという仕事のスタイルが比較的多いです。私は逆に、自分が20代の時に、40代・50代の作家さんと仕事する機会が多かった。新人さんに対して「こうした方が良い」とアイデアを出して鍛えていくのではなく、すでに実績のある漫画家さんの考えを聞きつつ、自分の意図を伝えていくという仕事スタイルでした。その経験を生かして、原さんともそういうおつきあいの仕方ができるのではないか、と考えていました。

キングダム展 ー信ー

春秋戦国時代の中国を舞台にした大人気漫画の原画展「キングダム展―信―」が東京都台東区の上野の森美術館で開催中。作者・原泰久による400点以上の直筆生原画や、描きおろしイラスト約20点などを巨大グラフィックとともに展示します。

――「キングダム」を作る流れを教えてください

 まずストーリーなどについて打ち合わせをします。その上で原さんがネーム(下書き)を作成、それを見て再度打ち合わせをします。確認が済んだ後、原稿を描くというのがおおまかな流れです。原さんは福岡にいるので基本的にリモートで進めます。

――ネームを見るとき、何か心がけていることはありますか?

 ネームを見るときが一番緊張します。読んで「すごく面白い」という回もあれば「直した方が良いのでは?」という時もあります。いずれにせよ、できるだけ読んだときの感想をそのままのニュアンスで伝えるようにしています。疑問を持ったときになんとなく「面白いです」と言ってはいけないと思います。でも、そのとき感じたニュアンスを100%伝えるのはやはり難しい。特に電話でのやりとりをすることが多いですので、声色とか言葉選びとかには気をつけています。

――編集者からみた原さんのすごい点は何でしょうか

 二つの「シンクロ」です。一つはキャラクターへの「シンクロ」。どのキャラにもご自身が入っている。「このシーンでこのキャラはこんなこと言わない。こんな言葉遣いにならない」ということが分かっていらっしゃる。この「シンクロ率」が高くない漫画家さんだと、ネームを見たときに誰の言葉なのかが分からないことがありますが、原さんにはそれがない。サブキャラまで入り込んで描きます。

 もう一つは読者目線との「シンクロ」です。読者の目になって「このとききっと読者はこう思うよね。だから次のシーンはこうしよう」と考える。物語の中に入り込む主観と、物語を引いて見られる客観を持ち合わせている。「キングダム」の中の言葉で言えば、原さんは「本能型」のように見えるかもしれませんが、実際は李牧のような「知略型」だと思いますね。

――共に漫画を制作する上で、何か印象的だったことはありますか

 原さんに「絵が変だったら教えてください」と毎話言われることです。新人さんならともかく、そんなことを言うベテラン漫画家さん、他に経験したことがありません。最初は「細かいことを言って怒られないのかな……」と戦々恐々としていましたが、遠慮せずに「顔の輪郭がちょっと……」とか指摘しています。原さんも私の意見が読者の思うことだ、と思っているからこそ指摘して欲しいのだと思います。

――かなり踏み込んだところまで指摘されているのですね

 アイデアの時点でも遠慮せず意見を言います。ただ「こうしましょう」とは言わないことを心がけています。「あの展開があったので、ここの話に入ってきますか?」とか「次こんなものがみたいですね」とか、何か原さんの気づきにつなげられるように、と。「原さんなら大丈夫だろう」と勝手に思って、気になったことを言わなくなってしまうということがないよう意識的にコメントするようにしています。

――「キングダム」の世界は漫画以外にも広がっています。6月には展覧会も開催されますね

 漫画家として展覧会をやりたい、と前から話していました。また、師匠の井上雄彦さん(「SLAM DUNK」など)も上野の森美術館で展覧会を開催していました。師匠と同じ会場で自分の展覧会を開催できることをとても喜んでいました。ですから展覧会の内容も、大枠のテーマから細部まで、全部ご自身で考えています。ここまで展覧会の内容に携わる漫画家さんも少ないのではないでしょうか。「ここにこんな絵が欲しいですね……じゃあ描きましょう」と描き下ろしたりしていますから。

――2019年に公開された実写映画化も大きな出来事だったと思います

 映画は絶対成功して欲しいと言う強い思いがありました。映画では単行本5巻までの話しか扱っていません。当然、続編が出るかどうかは興行収入などの成績に左右されます。キングダムの読者全員が映画を見に行ってくれたら次につながる、と考えて原さんの2万字インタビューを雑誌にも単行本に掲載しました。読者全員に映画を見て欲しい、と

 実写映画化に際して「夢がかなった」と語られることはよくありますが、原さんの場合は意味合いが少し違います。映画監督を目指して大学では映像を学んでいたので、元々は映画畑の人です。そんな人が漫画を通ってから映画に帰ってきた。その流れをどうしても伝えたくて、半生を語ってもらいました。

――映画「キングダム」の公開後、読者の反応に変化を感じることはありましたか

 「キングダム」はやや読み始めづらい面があるのかなと思っています。テーマは歴史、内容は男っぽい……でも一度読み始めると止まらない。ですから、より多くの方にどうしたら第1巻を手に取っていただけるのか、ということを担当になってからずっと考えています。そういう意味では映画はすごく良い出会いの場だったと思います。

――15年続く連載の中で「キングダム」の転機となったタイミングはありますか

 原さんが話していたのは「王騎の死」でした。王騎がすごいキャラになりすぎたのです。でも史実に即して死ななくてはいけない。では、逆にどんなことがあったらあの王騎は死ぬのか……と言う点をかなり苦心して描いたそうです。そのため「王騎の死」を16巻で描き終えたあと、読者も原さんも「王騎ロス」になってしまった。王騎なしでさらに「キングダム」を面白くしなくてはならない、というハードルができてしまったのです。そのハードルを乗り越えるために、蒙恬(もうてん)や王賁(おうほん)といった新たなキャラクターや、廉頗(れんぱ)編や合従軍編といった物語が生まれ、話がさらに広がっていった。「王騎の死」をきっかけに作品の格が上がったのではないかと思います。

――「キングダム」の今後について、原さんと何か話はしているのでしょうか

 昨年、原さんと「物語のラストまで」について打ち合わせしました。15年連載している「キングダム」ですが、物語の中では11年しか経っていません。でも、政が始皇帝になるまでにあと13年もあるのです。なんとか政が始皇帝になるところにたどり着くために、史実の記述を確認して、何をどれくらい描くのか、といった今後の道筋を立てました。もちろん、どんどん変わって行くとは思いますが、物語の最後を見据えています。

「キングダム」のキャラで言うと編集者は…

――15年という長期連載ですが、設定を忘れる、あるいは史実との整合性が取れなくなることはないのでしょうか?

 史実は物語の柱になっていま…

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