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Thursday, September 3, 2020

アーティスト・松山智一が、新宿駅前の人の流れを変える。 - Pen-Online

世界一の乗降客数を誇る駅前に未活用のスペースがある。そこを生まれ変わらせるために、新宿という街の特性をプラスし、その対極に位置する要素をアートの言語でクロスオーバーさせる。そうすることで新宿のアイコンとなり、ひいては世界に誇れる東京のランドマークになる。松山の構想プロセスだ。

「新宿の要素を書き出すと、都会、雑多、喧騒、人工的、そして文化もある。外国人観光客は北野武の映画を見て歌舞伎町を目指すし、ゴールデン街でアンダーグラウンドな日本の文化を感じようとする。LGBTの人たちは2丁目に行ってみたいし、ファッションが好きな人には伊勢丹もあって、インバウンドの旅行客にとって新宿はある意味で一番東京らしい街なんですよ。その対向軸にあるのは何かと言ったら、自然だと思ったんです。でもアスファルトの上にただグリーンを置いても仕方ないので、Metro-Bewilderというテーマで機能的なパブリックアートのスペースをつくることにしました」

都会を意味する「Metro」、自然を意味する「Wild」、当惑を意味する「Bewilder」。「Metro-Bewilder」という造語に都市と自然の融合を表現する。中心には、鏡面仕上げのステンレスで組み上げた高さ8メートルの彫刻作品『花尾 Hanao-San』が鎮座。板状の素材を組み合わせて透過性を持つことで、そのサイズにかかわらず軽快さが生まれ、また徹底した鏡面仕上げによって昼には空の青を、夜には周囲のネオンが映り込み、新宿の喧騒に埋もれることなく存在感を発揮する。台座部分には円形テーブルとスツールが設置されていて、待ち合わせ場所として、憩いの場として機能する。地面には自然をモチーフにしたペインティングが施され、都市空間で亜熱帯の森林を思わせるイメージが広がる。

「日本に古くから根差す美意識、自然意識、文化への尊敬をもって色鮮やかなカラーフィールドを描きました。花をあしらった空間で、花束を持って来客を待つ主人を現代アートの解釈から表現したのが、『花尾 Hanao-San』です。ここが新宿駅の延長として機能して、ベンチに座ってカップルが喧嘩していたり、約束までの時間潰しにスマホをいじっていたり、日常の光景がここに生まれてくれたら嬉しいですね」

新宿駅東口を出ると、駅前広場は明らかに風通しがよくなった。かつてヨーゼフ・ボイスが「社会彫刻」と表現したようにアーティストの視点から街にひと刺激を加え、社会をモデリングしていく。松山智一はブルックリンのアトリエで緻密に描き込まれた作品を継続的につくりながら、アメリカや中国各地から受けているパブリックアートの依頼に応じていく。徹底したリサーチから土地の文脈を読み取り、湧き上がる多様なアイデアを組み立てながら。

「アートをつくるって自分を痛めつける行為ですし、しんどくて決して楽しいものではありません。一つわかっているのは、結局つくっていない自分が一番不健康なんですよ。つくっていない自分に自己嫌悪になるからつくり続けるのかも知れません」

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