
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの人が外出自粛を余儀なくされている。毎日の食事をどうするか、いつもよりも考える場面が増え、生活の中で「食」との向き合い方が大きく変わったという人は少なくないだろう。
今回お話をうかがったのは、年間500軒を食べ歩き、『アンジャッシュ渡部の 大人のための 「いい店」 選び方の極意』(SB新書)など多くのグルメ本を刊行しているアンジャッシュ・渡部建さん。
現在、ブログやTwitter、YouTube、あるいは『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)などのバラエティでも、さまざまなお店のテイクアウトやお取り寄せ情報を紹介し続けている。
4月22日には自身のYouTubeチャンネルで、外食産業を支援すべく、この事態が落ち着くまでは飲食店を紹介する取材をすべてノーギャラで受ける旨を発表し、話題を呼んだ。
最大の趣味であり、生きがいでもあるであろう「食べ歩き」ができない中で、渡部さんは何を食べ、何を考えているのだろうか? (言うまでもないが)リモートでのインタビューで見えたのは、希望と歓びを捨てないポジティブな姿勢だった――。
「冷凍庫が足りなくなって、新しく買いました」

──最近は、毎日どんな食生活を送っていますか?
渡部さん(以下、敬称略):基本はStay Homeを大原則に、昼夜どちらかをテイクアウトやデリバリー、あとは取り寄せた食材や食品を家で楽しんだりしています。
その日の予定を見て、「今日はこの現場に行くから、途中でこのお店のお弁当が買えるな」とか、うまくマネジメントしながらやってますね。
──この生活の中で、新しい食の楽しみを見つけているわけですね。
渡部:はい。飲食店の皆さんは、今すごく大変な状況です。ただ、我々は「電話すらつながらなかった、あの予約困難店のお弁当が食べられる」とか「あの場所まで行かないと食べられなかったものが家で食べられる」というふうに、ポジティブにとらえて楽しむべきだと思いますね。
僕はいま、日本全国からいろんなものが届くので毎日それを楽しみにしています。今日は仙台から油揚げが届くとか、明日は香川からうどんが届くとか。取り寄せすぎて、冷凍庫が足りなくなったので新しく買いました(笑)。

家なら、二つのお店の料理が一緒に食べられる
──もともと外食だけでなく、お取り寄せをする習慣はあったんでしょうか。
渡部:これまでも地方のものを取り寄せることはありましたが、ここまでアンテナを張って情報を集めているのは人生初かもしれないですね。楽しいです。
──店舗とお取り寄せでは、情報の集め方が変わると思います。今はどんなふうに情報収集をしてるんですか?
渡部:ほぼネットサーフィンですね。「あのレストランで食べた野菜はどこでつくられてるんだろう」と、過去に食べたものの生産者さんをまず検索するんです。情報が見つかったら、今どんなところに食材を卸しているのかネットでたどっていきます。そうやって行き着いたお店のホームページで通販をやっていたら買ってみる、というような感じです。
──食材から探すんですか!
渡部:これまではそういう情報を知りたいと思ったら、「お取り寄せランキング」みたいな記事が載っている雑誌や本が中心だったじゃないですか。でも今は、普段やっていないお店がテイクアウトや通販をやっているので、自力で探すこと自体を楽しんでます。
たとえば、滋賀の山奥にある料理宿が通販を始められたんですよ。以前はどうしても「花山椒鍋(花山椒と合わせた熊肉の鍋)」が食べたくて、京都駅からタクシーで1時間かけて行っていたんですが、それが家で食べられるとなるとすごくお得ですよね。
──お店で食事をするときの楽しみは、味だけでなく雰囲気やそこでの会話、サービスの内容も含めた総合的なものだと思います。テイクアウトやお取り寄せはまた別の楽しみ方になると思いますが、そこはどうとらえていますか?
渡部:そこも同じで、「お店の雰囲気が味わえない」「サービスが味わえない」という部分を見るのではなくて、家だから自分の好きな時間に好きな量を食べられる、なんならこのお店とあのお店のものを一緒に食べられる、っていう自由さを楽しむといいですよね。
──それは確かに、家でしかできないです。渡部さんはどんなことを試してみましたか?
渡部:チキン南蛮のタルタルソースが余ったら別のお店のお弁当のハムカツにつけて食べてみたり。いい意味で好き勝手できちゃいますよね。

──そうやって食材を取り寄せて自分で調理してみることで、プロのすごさがよりわかる部分もありそうですね。
渡部:それと、今回すごく勉強になったことなんですが、腕のある料理人ほど商品に添えられた説明書きがシンプルでわかりやすいんですよね。
一流の料理人の方って、頭の中が整理されているんです。だから家庭で再現するためのノウハウの伝え方もうまい。シンプルに伝えることの大事さがよくわかりました。
普段ならオファーのないメディアから取材が来た
──新しい食の楽しみ方を見つけている一方で、好きなお店に行けないストレスはありますか?
渡部:「外食できなくてつらいな〜」という感覚は今はありません。
もちろん、日々いろんなレストランに行っていろんな料理人さんやスタッフの皆さんと会って話していた時間が急になくなってしまった寂しさはありますけど、「この状況が落ち着いた時、お店がなくなっていたら嫌だな」という気持ちのほうが強いです。
飲食業界は本当に苦しい状況が続いていて、ゴールデンウィーク明けからかなりの数の飲食店が営業を再開しています。いずれ自粛が明けて、なんとかまた店内で笑って会える日が来るよう、そういうお店が一軒でも多くなるように、と思っています。
──今回、「グルメ関連企画の取材は無償で受ける」と宣言された背景には、そういう気持ちがあったからなんですね。
渡部:テイクアウトするときにお店の人と話したり、みなさんがお弁当作りをすごくがんばっている姿を見たりして、僕に何かできないかなと思いました。もちろんSNSでの発信はしますが、どうやったらそれ以上に情報を広げられるかな、と。無償であれば、普段はご縁のない、僕の情報発信が届かないところにも届けられるんじゃないか、と思ったのが狙いです。
──実際に、意外な依頼はありましたか?
渡部:農業系の新聞の取材を受けたんですよ。普段だったら絶対僕にオファーはしないと思うんですよね。しかも、読者さんはきっと僕のSNSは見ていないと思うんです。だから、こうして宣言することにも意味があるかなと思っています。
アンチの声なんてもう気にしていられない
──YouTubeチャンネルではいわゆる名店から「串カツ田中」の野菜テイクアウト販売まで、多岐にわたるジャンルを取り上げています。正直、渡部さんの紹介するお店というとお高いイメージがあったんですが、このラインナップはどういう狙いがあるんでしょうか?
渡部:大手の外食チェーンも非常に苦しい状態で、このままでいったら軒並み潰れてしまうと思うんです。これまではああいうふうに企業名を出すと「渡部、絶対カネもらってるだろ」という見方をする人が多かったと思うんですが、もう今はそんなアンチの声を聞いていられないですよね。だからチェーンや個人店という垣根を取っ払って、企業色のあるものも紹介することにしています。
それと、リーズナブルなものはYouTubeやブログで、値の張るものはオンラインサロンで発信するというように使い分けはしていますね。
──サロンではどんなものを紹介しているんですか?
渡部:たとえば今、本マグロが余りまくってるんです。漁に出られる限りマグロはあがってくるし、漁師さんのために仲卸はマグロを買わないといけない。飲食店もそれを買う。
でもいくら余っているからといって、本マグロをワンコインではさすがに提供できないわけです。だから6〜7,000円するマグロ丼になる。それでも安いくらいなんですよね。そういうものを紹介しています。
正直、このご時世に高いものを紹介すると、あれこれ言われがちではあるんです。でも、飲食店にはいろんな“層”があるのは事実ですよね。大衆的なお店だけを救えばいいかというと、そうじゃないと思います。
──在庫にできない、生鮮食品の打撃の大きさは日々報じられているところです。
渡部:今、いろんなものが驚くべき値段で流通してるんですよ。国産のズワイガニや、黒毛和牛200グラム使ったお弁当が999円で売られていたりします。
──たたき売り状態になってしまっていますよね。
渡部:そこで男気を見せて、漁師さんや農家さんの生活を守るために、自分のお店が営業していないのに食材を買っている料理人もいます。
もともとフードロス問題に対する意識はありましたが、そういう動きを見ていて、より深く考えるようになりました。

「いい料理人はこの時期を無駄にしていない」
──渡部さんにとって、逆にこうした状況だからこそ飲食店の魅力やパワーを感じられたという場面はありましたか?
渡部:やっぱりみなさん、たくましいですよね。朝から慣れないお弁当作りをして、休みの日は役所に書類を出しに行ったり銀行に融資の相談に行ったりして、疲弊していても「絶対にお店をなくさないんだ」という思いがあります。そしてそれを支える常連さん達をみていると、グッとくるものがありますね。本当にかっこいいです。
──底力がある、と。
渡部:それに俯瞰でみると、いい料理人さんはこの時期を無駄にしていないな、と思います。新メニューを開発してみたり、お肉の熟成期間を実験したり、これまで扱っていなかった食材を取り入れてみたり。
そういう方たちにとって今は、ジャンプする前にしゃがみこんでいるような状態なんだと思います。
──それは再開後が楽しみになるお話ですね。
渡部:アフターコロナで、レストラン業界も次のフェーズに行く気がしています。残念ながら絶対数は減ってしまうと思いますが、再開後に飛躍するお店はすごく増えるんじゃないでしょうか。今の時期を前向きにとらえている料理人さんの姿勢は、見習うべきものがありますね。

好きなお店に通えない、プロの仕事を堪能できない……食通であればあるほどに、現在の状況に苦しさを感じているのではないかと思っていた。
だが、そうした状況だからこそこれまでと違う楽しみ方を見つけ、ポジティブに向き合う渡部さんの姿勢には、「食」の追求を諦めない貪欲さがあった。
「優れた料理人にとって今は、ジャンプする前にしゃがみこんでいるような状態」と渡部さんは話してくれたが、それは食を愛する消費者側も同じことなのかもしれない。
撮影:山崎悠次
プロフィール
渡部建(わたべ・けん)
1972年生まれ、東京都出身。同級生だった児嶋一哉とアンジャッシュを結成し、94年にデビュー。『王様のブランチ』(TBS系)、『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)ほか、レギュラー出演中。
Twitter:@watabe1972
書いた人:斎藤岬

1986年生。編集者、ライター。月刊誌「サイゾー」編集部を経て、フリーランス。編集担当書に「HiGH&LOW THE FAN BOOK」など。
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June 04, 2020 at 06:00AM
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