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Wednesday, April 1, 2020

こんな時はひとり上手に|ヘイケイ日記~女たちのカウントダウン|花房観音 - gentosha.jp

小説家になってからの一番の気晴らし、ストレス解消は旅だ。

基本的に、ひとり旅。

まずカレンダーを見て、スケジュールをたて宿をとり、旅行する日を決めると、その日までに今やってる原稿を仕上げる! と、馬力も出る。だいたい、大きな原稿の締め切り翌日は旅に出ている。

そんなに時間とれないから、一泊二日か、二泊三日程度の国内旅行だ。

旅のことを考えているときが、一番楽しい。

ひとりでいるのが苦にならない

 

昔から、旅はいつもひとりだった。

大学のときに、一度、当時仲が良かった友人と旅行をしたが、長時間一緒にいると普段は気にしないところが目について、その友人のマイペースさが、ノロさにしか感じずイライラして、その後、距離もできた。

二十代、三十代は、借金もあったし何より働きづめで時間がなかった。だから、せめて仕事でどこかに行きたいと、派遣添乗員をやったり、旅行会社で働いた。

いつもひとり旅なのは、友だちが少ないのと、人と日程を合わせるのがめんどくさい、旅先ではその場の思いつきで好き勝手に行動したい、好きなもの食べたい、気を遣うのがダルいと考えると、結局ひとりが一番楽なのだ。

そもそもバスガイドとか添乗員の仕事をしている私が言うのもなんだが、団体旅行が苦手だ。人と合わせたり、決められた時間や行程で動くのが、年齢と共に段々と苦痛になっていた。

そして私はひとりでいるのが、全く苦にならない。

なんで「寂しくないの」と聞いてくるのか

今でこそ、女のひとり旅は珍しくもないけれど、若い頃にひとりでどこかに行くと、いちいち「寂しくないの?」と言ってくる人がいた。

旅行だけではなく、映画や観劇、食事も「ひとりなんて寂しいよね」と、同情交じりの視線をよこされる。

いや、私からしたら、ええ大人が、いちいちひとりで何もできひんの? と、言いたくなりもするのだが、「友達がいないから、ひとりであちこち行く」私が、すごく可哀相に見えるらしい。

昔は、温泉地の旅館も、ひとりで泊まれるプランはそんなになかった。基本的に、家族か夫婦、恋人同士、グループで来るものとされていた。

今は温泉地に女ひとりなんて、珍しくもないし、ひとり旅応援プランなんてのも旅館にあるから、ありがたい。

ひとりで街を歩き、地元の美味しい食べ物と酒を堪能し、道後や芦原温泉なら、女ひとりでストリップ鑑賞もできる。最高だ。

(道後温泉、
女性客大歓迎の「ニュー道後ミュージック」)

そもそも、なんで「寂しいね」なんて思われるのか、わからない。

バスガイド仕事で、「ひとり旅歓迎」のバスツアーをガイドすることもあるのだが、そこに参加する女性たちはみんなひとりでも楽しそうだ。それを見ていて、「一緒に来てくれる人がいないなんて、可哀そう」とは思ったことがないし、こうしてひとりで旅を楽しめる大人になりたいと若い頃に憧れていた。

「子どもいなくて寂しくない?」

今、この年齢になって考えてみると、ひとり旅を「寂しくない?」と、聞いてくる人って、私が結婚してから、「子どもがいないなんて、寂しくない?」「子ども、作ったほうがいいよ」と、言ってくる人たちと同じ種類なのかもしれない。

人それぞれ違う幸せや楽しみがあるというのをわかってくれない人とは、会話が成立しない。ひとり旅も、子どもを作らないのも、いくら「寂しくないよ」と言っても、強がっているふうにとられてしまうのだから。

そもそも、「ひとりは寂しい」と言いたがる人たちだって、いつひとりになるかわからない。

独身だと孤独死まっしぐらだなんて言う人たちがいるけれど、結婚したって、一緒に事故にでも遭遇しない限り、どちらかが先に死に、どちらかが取り残される。子どもがいても、面倒を見てもらって縛りつけたくはないし、家を出て好きなように生きて欲しい。

そうなると、結婚しようが子どもがいようが、最終的にはひとりで暮らし、ひとりで死ぬのは、当然のことじゃないか。 

有名人が亡くなったときに、気の毒だ、憐れむようなニュアンスで「孤独死」という言葉が使われるけれど、基本的にほとんどの人間は施設にでも入らない限り孤独死の可能性が高い。

それならばひとりで死ぬ覚悟ぐらい持っておいたほうがいいし、普段からひとりで楽しめる暮らしができたほうがよくないか。

若い頃は、孤独死なんて、私もひどく恐ろしいもののように思っていたけれど、今、この年齢になって、それが確実に近づいているからこそ、ひとりで生きて、ひとりで死ぬことが現実味を帯びて迫っている。

生まれた時も用をたす時も死ぬ時もひとり

私は男運が悪い人生を送ってきたけれど、だからこそ、男に期待してはいけない、ひとりで自分が食えるほどの糧を得て生きていかねばならない、その技術を身に着けようと三十歳を過ぎた頃に強く思って、それなりに努力もした。クズ男たちのおかげで、自立できたと言っていい。

白馬の王子様が私を迎えに来てくれて、食うに困らぬ一生安泰の生活をするなんて夢は、早くから捨てられたおかげで、生きていられる。

男でも女でも、老後に向かってやるべきことは、孤独に慣れることであったり、ひとりで人生を楽しめるようになることではないか。

孤独は人の心を蝕む。

インターネット上で匿名で罵詈雑言を一日中呟いている人や、リアルな生活の中でも見境なくあちこちに文句をつけたりしている人たちを見ると、この人たちはとても孤独で、人の嫌がることをして世の中とつながることしかできないんだなと思う。

孤独や寂しさに慣れてこなかった人たちなのだろうとも。

どうせいつかは身体がいうことを利かなくなり、自由に動けなくなる。ならそれまでに、できるだけ旅をしたい。ひとりで自然や街を見てまわる旅。

コロナ騒動で、身動きがとりにくい今だからこそ、旅に出たくてたまらない。

(京都駅丹波口で買った、
「下鴨茶寮」のお弁当)
(道端の花)

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April 02, 2020 at 04:02AM
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